第10話 幽子の趣味
黒い人影がじりじりと近づいてくる。
一歩、また一歩と、一郎めがけて近づいてくる。
一郎はなんとか
自分に取り
「
こいつのターゲットは自分のはずだ。
でなければ引っ越し先にまでついてくるはずがない。
彼女を家に
自分がやられている間に、彼女だけでもなんとかこの場を
「この
「そんなこと言ってる
一郎がそう言うと、幽子はゆっくりとソファーから立ち上がって――、
「バカ! なんでこっちに来るんだ……!?」
「財産目当てって言ったクソ女を、身体張って逃がそうとするとか普通できないよ? うん、好き。田中くん、これが終わったら私と付き合ってよ」
「は、はぁ!?」
生まれて初めて女の子から告白された。
それも幽子のようなとびっきりにかわいい女の子から。
告白に関して言えば、正直飛び上がるほど
TPOという言葉を知らないのか!?
「私さ、この見た目だから
そう言うと、幽子は持っていたバッグの口を開け、その中に手を突っ込んだ。
出てきたものは――
「ねえ田中くん、あなたを
「こんな時に!? いったい何だよ!?」
「今から私の
――約束して、お願い。
状況に見合わない
考える
「ありがとう♪」
「おい! 物部……前!」
幽子が一郎に笑顔を向けた
細い彼女の首を目がけて、幽霊の両手が
『オォ……オォォォォ……』
幽霊は幽子の
――バシュン!
力が入ったかと思った瞬間、幽霊の両手はどういうわけか消し飛んだ。
『ウォォ……!? オ、ォゥゥォォォ……!?』
「
――ずぶり。
幽子は幽霊に
『ガ、ァァァァッ……!? ナ、ナニ、コ、レ……?』
「あ、ようやく普通に
『ウ、ゴ、ケ、ナ、イ……?』
「そりゃ、私の
『オ、マ、エ……ナ、ニ、モ、ノ……?』
「それを今から教えてあげる」
幽子は動けない幽霊の
見た感じ特定の図形を
「これね、
『オ、ゴアアァァァァ……!?』
後で教えてあげるね――と、幽子は一郎に微笑みかけ、
「どーお? 悪霊さん? 私の術力を流し込まれて動けないところに、兎歩なんてやられた感想は?
その笑顔のまま幽霊の顔を
「安心して? 兎歩はもうやらないから」
『ハァ……ハァ…………?』
もうやらない――幽子のこの言葉に幽霊が一瞬安心感を
しかしそれは本当に一瞬で、次の瞬間絶望の
「兎歩ってぶっちゃけただ歩くだけだからね。やっているこっちとしてはたいして
――ボゴォッ!
『オ、ゲエェェェェェ……!?』
幽子が幽霊の
幽霊の身体がくの字に曲がる。
「ちょ・く・せ・つ、ぶん
ものすごく良い笑顔で、
「あぁ……手に残る何て言うか、この『肉のようで肉じゃない』ものを殴ったんだっていう
「いや、
ここまでの流れで大体
彼女がここを理想の
彼女の趣味は――
「物部、きみの趣味ってもしかして……」
「うん、そうなの♪ こういった人に害を与える悪霊をしばき倒すのが大好きなの、私♪」
「じゃあやっぱり心霊マニアじゃ?」
「心霊マニアだと悪意のない幽霊や人外存在も含まれちゃうじゃない。私が求めているのは、何の罪もない、縁もゆかりもない人を一方的に害する悪霊や人外なの。だから事故物件とかワケあり物件とか大好き♪」
すごくいい顔で幽子が言った。
なるほど、好きなのは幽霊などではなくて、幽霊が憑いている家や土地そのものか。
心霊マニアではなくワケありマニア。
一郎はそう彼女を結論付けた。
「あ、ここにあるスリッパ借りるわね。えいっ」
――スパーァン!
『オ、ホォォォォ……!』
「あはは! いい音♪」
とてもいい
叩いたものは幽霊なのに。
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