第9話 ……出た
――ギャアアアアァァァァッ!
――助けてくれ!
――うわああぁぁぁっ!
「あははははははは! ねえ見た今の? マグマから出てきたサメが口からビーム
あれから二時間――、
帰るに帰れなくなった幽子のために、必死に
「あー、面白かった(笑)。やっぱりサメ映画は最高ね。さて、次は王道のスラッシュ系でも行きましょうか」
見終わったブルーレイディスクをケースにしまうと、幽子は新たなるディスクをセットした。
アメリカが
サマーキャンプに
「誰が死ぬかな♪ 誰が死ぬかな♪」
「何が出るかなのリズムで言うな!」
命の
「何でそんなに楽しそうにしていられるんだよ? まさにその映画の登場人物たちみたいな
「まあ、思わなくもないかな?」
「だったら!」
「逃げる手段を必死に探せって? 冗談じゃないわ。逃げるなんてとんでもない。だって私は、こんな状況になるのを心の底から
「え?」
こういう状況になることを、心の底から望んでいた?
命の危機にあるこの状況を?
彼女は
「田中くんに聞きたいんだけどさ、大学内の私の
「それ、今聞くことか?」
「いいじゃん。教えてよ」
「……
「うん、そうよね。まあ大体そんな感じよね」
「それがどうかしたのかよ?」
「いや、その評判って結局のところ私の
「まあ、言われてみればそうかもな」
大学は社会人になる前の、最後の学生たちの
社会に出て仕事に明け
なので当然、幽子みたいな超美人とお近づきになりたいという
彼女に近づき気に入られるために、好みや趣味を
だけどそれがない。
一郎自身も
「それはね、私が
「どうしてだ?」
「実は私の趣味ってちょっと
なるほど、そういうことか。
確かにアブノーマルな趣味は他人にはなかなか明かせないもの。
徹底した秘密主義を
「しかもその趣味って、できるチャンスが
「それは……気の毒だな」
心からやりたいことのできるチャンスが少ないとか、ストレスがたまって仕方ないだろうに。
「
「え?」
――パチッ
――パチパチパチパチッ
――ザッ……ザザザザザ……
――ザー……
映画が
耳をすませると、キッチンの方からカチカチということも聞こえる。
もしかしたらIHの電源をON/OFFされているのかもしれない。
一秒、また一秒と
「あ、出るのかな?」
そんな彼とは
開けていたビール缶を
「
一秒ごとに大きくなる
一秒ごとに大きくなる
大学入学からここ一年、毎日のように
「俺の
「
「そんな……くそっ!」
本当に開かない。
ドアはともかく襖までも、まるで
「なら……!」
一郎はソファーを持ち上げ、襖に向けてぶん投げた。
本来ならば音を立てて
「なん、で……!?」
「何でも何も、そういうものとしか……それより田中くん、ほら」
「え? あ……」
幽子が
人の形なのに人じゃない。
真っ暗で、真っ黒で、
その人影から漏れ出ているものは純粋な負の感情。
生きているやつが
楽しそうなやつが憎い。
幸せそうなやつが憎い。
一人は
一人は嫌だ。
誰か
邪魔する奴は許さない。
だから殺す。
ずっと一緒にいられるように。
だから邪魔する。
早くこっちに来てくれるように。
「女の子が来ると
「……わかるのか?」
「ううん? 適当よこんなの。真っ黒だし顔見えないし、男の可能性もあるわね。田中くん、男の
「よくこの状況でそんな冗談が言えるな……」
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