第8話 幽霊式ダイエットパック
一郎は最初、幽子が何を言っているのかまるで理解できなかった。
――ここに
――めちゃくちゃ
「さあ田中くん!
「
なんで住む気
普通
今まで一郎がお持ち帰りした女の子は全部そのパターンだった。
その後、二度と彼に関わろうとしない。
「あの、さ……
「違うけど?」
「じゃあ何でこんなところに住もうとか言うの? テンション
「べ、別にテンション爆上げなんてしてないんだからねっ!」
「ツンデレとか久々に見たな……いや、明らかにテンション上がってるだろ。目をキラキラさせながら『血判でいい!?』とか」
「だって、ここって私の
「理想、ねぇ?」
まあ、わからなくもない。
街を
住民専用のプールとサウナ付き。
ファミリー用だけど
コンシェルジュもいてセキュリティーは
そして何より学校に近くて、
だけど、とんでもなく巨大なデメリットがある。
これらのメリットを全部ぶっ
この女、
「物部、悪いこと言わないから
そう言って一郎は洗面所から体重計を持ってきた。
スイッチを入れてその上に乗る。
「田中くん、見た感じ175センチあるかないかよね? その身長で52kg? ちょっと
「ああ、俺もそう思う」
続けて俺はスマホを取り出し、一枚の写真を見せた。
「それ、
「田中くんのお兄さんかしら? 顔立ちとかわりとまんまだし。でもちょっと……いや、かなり太りすぎね。明らかに100kg超えだし健康に悪いわよ。もっと痩せないと」
「もう痩せてるよ」
「あ、なーんだ。そうだったんだ。で? これが何か?」
「わからないのか? それは俺の兄貴じゃない。入学したての
大学入学を
小学校の頃、とある事件がきっかけでイジられるようになり、ストレスから
常に胃袋の限界まで食べまくることが
それがここにきてたったの一年で52kgにまで痩せてしまったのだ。
「合コンでの俺のドカ食いを見ただろう? ああでもして食い
一時期、体重が40kg台にまで落ちてしまったこともあった。
貯金を
つい先ほどドカ食いをしたのに。
このままでは、また体重が
そうならないためには貯金を切り崩して、たくさん食べて太らなければいけない。
しかしそうしてしまうと、幽霊をいつまでたっても
まるで、野良猫がネズミの
「これでわかっただろう? いくら安いとはいえ、ここに住むのがどれだけ危険なのか? わかったら――」
「いくら食べても太らない……幽霊ダイエット…………新しい商売の予感が…………」
「しないよ!? 何危険な商売を立ち上げようとしてるんだ!?」
「太っている人に幽霊を取りつかせる。適正体重まで痩せるまで待つ。そして適正体重まで痩せたら除霊して健康体にする……パック料金で売り出せないかしら?」
「できるかアホ! ちゃんと経済ってもんを勉強し直せ!」
「残念でした。私文学部だから経済学の授業取れませーん――と?」
――カチカチッ!
部屋の電気が
「……もう夜の9時過ぎだ。そろそろ深夜帯に差し
「へぇ……それは楽しみね♪」
「いや全然楽しみじゃないから! 真剣にきみの身の安全を心配して言ってるんだ。悪いことは言わないから電車が動いているうちに早く帰った方がいい」
「田中くんってさ、初対面時に
「高評価は
「でも、それはきみの
「………………」
「
「……お好きなように」
ニコニコと
一郎は
「ってかもう9時半だぞ? さすがにこれ以上はマジでまずい。下まで送っていくから早く帰る準備を――」
「大丈夫、大丈夫♪ 心配しないで。映画でも見ながらまったり
「ダメだ。貸してやるから、さっさとそれ持って出て行ってくれ」
「あ、ちょっと田中くん!?」
さっさと家から脱出させる。
じゃないと――
「…………あれ?」
――ガチャガチャ!
――ガチャガチャ!
「ドアが開かない!? 何で!?」
「そっかー、ドアが開かないかー、じゃあ帰れないなー? もうここに
泊る!?
女の子がここに!?
そんなの危険すぎる!
「……非常階段を使おう――って!?
「ふむ、どうやら泊っていけって言ってるみたいよ? きみの
幽子がテレビを
――カ・エ・ル・ナ――
「同居人の許可ももらえたし、のんびり映画でも観させてもらいましょうか」
冷蔵庫にあったビールを開けつつ彼女は言った。
ソファにどっかりと
彼女が観たかったのはホラー映画だった。
この後に起こるホラーな
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