第2話 「ううん、ひとりぼっちじゃないよ。」

 少年——その名はケン。はっきりとそれがケンだと分かった時、悦子は顔を歪めた。と同時に、なぜか安堵をしていた。


「今夜、大丈夫だった?」


 ケンくんの体には打撲傷、青あざ、擦り傷、切り傷——さまざまな傷があった。悦子は一通りそれを手当てした。

 

 手当てが終わると、ケンくんはいった。「ありがとうございます。でも大丈夫でした」

「お、それはなんで?」悦子は聞いた。好奇心に駆られていた。

「ぼく、空想癖があるんです」

「それじゃひとりぼっちじゃない」

「ううん、ひとりぼっちじゃないよ、ぼくは」

「なんで?」

「ぼくには空想の友達があるから」


——空想って強いな。


 悦子は思った。そして、「遅いからもう寝なさい」とはいえなかった。

 というか、そう思うのは無理だった。悦子はもう、ケンくんの話す童話に聞き入っていたから。

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