第2話・ぬいぐるみ
こちらのぬいぐるみ。何でも、当時はえらい人気を誇っていたマスコットキャラのぬいぐるみで、一家に一つは、あったらしい。でも、すぐに捨てられた。理由は様々。
あるぬいぐるみは、誤って糸が引っ掛かり、腕がほつれて取れてしまったそう。すると、大事にしていた子どもがひどく大泣き。両親たちは時間に追われ、裁縫に乏しかったこともあってか、すぐ新しいものと取り替えられ、そのままここに投げ捨てられてしまったそう。捨てられてまだ新品だったのもあってか、すぐに拾われた。けれども、しばらくずっとたらい回しにされて、最終的にたくさんのぬいぐるみと共に、捨てられてしまったそう。その理由は、お金にならなくなったから、らしい。
また、とあるぬいぐるみは、子どもたちが引っ張りあいの際に、まっぷたつになってしまい、大泣き。どちらが悪いか、あちらが悪いか、喧嘩がしばし絶えなかったこともあって、原因となったぬいぐるみは捨てられてしまったそう。親の間では、あまりよろしくなかった出来事として、お互い無かったことにしている。だって、争いの種であるあのぬいぐるみが悪いのだから、と。
また、とあるぬいぐるみは、騙して盗み、親に嘘をついた。でも、その悪事がすぐバレたと分かったとたん、慌てて隠すように捨てた。ちゃんと返した、と嘘をついた。子どもは揺らがなかった。親というものは、自分を信じてくれるものだと。でも、親は叱責した。それは悪いことだったからだ。でも子どもにそれはわからなかったようで。それよりは、親にひどく裏切られた気分になって、泣き叫んでぬいぐるみをバラバラにして捨てたそう。
ここまでで、良い話はあまり無い、と文句垂れるだろう。そりゃあ、ゴミだから。こういう、不快で、見るだけでも気が滅入るものばかり、落ちてくるものだ。
でも、たまに、ごくごくまれに、こんなのがあったりする。
このぬいぐるみは、今までのとは、ひどく歪な形をしていたけれど。親が子どものためにと編んだもの。でも、子どもは大泣き。いらない。恥ずかしい。おなじのがないといや。こんなのぬいぐるみじゃない。親はごめんね、と謝った。子どもはしばらくぐずっていたけど、親がずっと、そのぬいぐるみであやしてるうちに、少しずつ慣れてきたのか。親しむようになった。子どもがある程度大きくなると、ぬいぐるみはひっそりとすみっこに置かれるようになった。代わりに親がよく、話しかけてくるようになった。子どものこと、家のこと、外のこと。たくさんのことをずっと話してくれた。そうしてしばらくずっと、そこから動いてないからか、うっすらとほこりが被る。親も話しかけに来なくなり、家が寂しくなった。
あるときの大掃除。大きくなった子どもが手に取る。その顔つきはもう、子どもではなく、おとなのものだった。成長した子は、懐かしんだかと思えば、じわっと涙が目に浮かぶ。ごめん、ありがとう、と言葉がかけられた。そうして要らないもの、ゴミへと入れられたそう。もう、ぬいぐるみで遊ぶような子どもじゃあ、なくなったから。
…なんだか、ゴミとしては勿体無いとは思うけれど。それでもきっと、ゴミと判断したんだろうなぁ。でなきゃ、綺麗なものも、新しいものも、入らないものね。
ここまで聞いてくれたからか、少しは軽くなったかも。付き合ってくれて、ありがとうね。
また気が向いたら、あさりにおいでよ。…まぁ、ゴミだから、別にそんな価値はないだろうけども。
(ぬいぐるみ・了)
ゴミ山のゴミ箱 みのむし @mimomushi
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