第59話 新入生剣技会
新人剣技会当日、俺は大会の審判として生徒達の戦いを見ていた。
闘技場の中で大勢の観客に見守られる中、1年生達がトーナメント形式で剣の腕を競い合っている。
今も俺の目の前では1年A組の生徒とレイラが死闘を繰り広げていた。
「あっ!?」
「そこまで!! 勝者、レイラ・ハインツベルン!!」
「ありがとうございました」
さすがレイラだな。Aクラスの中でも上位に入る生徒を相手にしてるのに、危なげなく勝利をしている。
試合内容もものすごく良く、Aクラスの相手を寄せ付けなかった。
「(やっぱりレイラは格が違うな)」
レイラの進撃を止められる人物がいるとすれば、ノエルしかいないだろう。
他に彼女を止められる人物がいるとすればリリアだ。飛びぬけて強い彼女の力を抑え込むのはノエルであろうと厳しい。
「(これからどんな戦いが起こるか楽しみだな)」
リリアとノエルは決勝までいかないと当たらない。
レイラも含めて彼女達3人がこのトーナメントでどんな活躍をしてくれるか楽しみにしていた。
「クリス先生! そろそろ休憩に入って下さい!」
「ロスタス先生! もう交代の時間ですか?」
「はい! クリス先生の担当試合は全て終わりましたので、戻っていただいて大丈夫です」
「わかりました。それならあとはお願いします」
俺は闘技場のステージを降り、後の事をロスタス先生に任せる。
俺が観客席に戻ろうとする生徒で俺のことを待ち構えている生徒がいた。
「クリス!」
「レイラ! お疲れ様! さっきの試合はよくやったな!」
「ありがとう!」
これはレイラだけでなくノエルにも言えることだけど、この2人の試合は安心して見ていられる。
剣の技術だけでなく身体能力も人並み以上のものがあるので、2人は危なげなく試合を勝ち進んでいた。
「どうしたんだ? 勝ち進んでるのに顔色が悪いじゃないか」
「私、リリアとノエルが心配」
「なるほどな。そういうことか」
2人が喧嘩をしてから結構な時間が経ったはずだが、あの2人は仲直りしていない。
それをレイラは心配しているのだろう。何かきっかけがないか、ずっと考えていたはずだ。
「レイラが心配しなくても、時間が経てばあの2人は仲直りするよ」
「そうなの?」
「たぶんな」
さっきリリアの控室の前を通ったけど、その扉の前を行き来するノエルの姿を見た。
あの様子を見ると近いうちにノエルからリリアにアタックするだろう。
2人の姿を見て何となくそう思った。
「それよりもレイラはこれでベスト8だろう?」
「うん!」
「次の対戦相手は誰だ?」
「Bクラスに所属してるアメリアって人だった気がする」
「アメリアが相手なのか。それならレイラの敵じゃないな」
アメリアの試合を見たけど、彼女はリリアみたいに正攻法で戦う人だ。
なので使える物を全部使おうとするレイラとはすこぶる相性が悪い。
だからこの試合でレイラが負けることはないはずだ。準決勝に1番乗りするのはレイラかもしれない。
「私は自分の心配をしてない」
「なら何の心配をしてるんだ?」
「リリアだよ。次の対戦相手はAクラスの人だよね?」
「そうだな。確か入学試験で上から3番目の評価をもらっている相手だ」
「そう。だから凄く心配してる」
レイラの言う通り、リリアは先日の摸擬戦で入学試験で5番目の成績だった人間を相手にして負けた。
だからレイラが心配するのもわかる。普通に考えたらリリアが勝つことは不可能なように思える
「正直なことを言わせてもらうと、その試合はどちらが勝つか予想できない」
「えっ!? リリアは負けちゃうの?」
「それは俺にもわからない。ただ互角の勝負になると思う」
「互角? この前リリアは次の対戦相手よりも成績の悪い人と当たって負けちゃったのに、互角の戦いになるの?」
「あぁ。たぶんな」
あの生徒の戦闘スタイルはリリアのスタイルと酷似している。
前に戦ったジャックとは違い相性も悪くないので、いい勝負が出来るはずだ。
「どうしたんだ、レイラ? そんなに辺りをキョロキョロと見回して?」
「ちょっと気になることがあって‥‥‥」
「気になる事?」
「うん! さっきからリエラの姿が見えないけど、どこへ行ったの?」
「そういえばいないな。さっきまでステージの近くに設置された観戦席にいたはずなんだけど?」
あまりにも退屈だったからどこかに行ったのかな?
俺が審判をしている最中に退屈そうにあくびをしていたので、その可能性は高い。
「リエラの心配をするのもいいけど、レイラは控室で休んでた方がいいんじゃないか?」
「大丈夫。それよりも私はクリスの側にいたい」
「何で俺の側にいたいの?」
「いつもリリアとノエルがクリスのことを独占ばかりしててずるい」
「なるほどな。レイラも焼きもちを焼いていたのか」
「うん! だから今は私がクリスを独占する」
そう言ってレイラが俺の胸に体を預けてきた。
俺の胸の中にいるレイラは安心しきった表情をしている。
「レイラ!? いきなりくっつくなよ!?」
「少しだけだから。ちょっとだけ我慢して」
「我慢って言われても、ここだと誰が来るかわからないだろう⁉」
もしこんな所を他の人に見られたら、大変な事になってしまう。
特にリリアとノエルがみたら収拾がつかなくなり、最悪他の先生達も駆けつける事態となり俺は学校をクビになるだろう。
「クリスの胸板、すごく固い♡」
「そんなことを言われても俺はどう反応すればいいかわからないよ!?」
レイラを無理矢理引き離す事も出来ないし、かといってこのままここにいるわけにもいかない。
俺自身はレイラに甘えられてまんざらでもない気持ちだけど、俺の立場がそうさせてくれない。
「一体俺はどうすればいいんだ!?」
結局このままレイラはしばらく俺の胸の中で幸せな表情を浮かべている。
俺はその間何も出来なくて、レイラにされるがままになった。
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