第60話 努力をしない天才(ジャック・ライオッツ視点)

《ジャック視点》


「ふぅーーー、やっぱり負けたか」



 控室に戻った俺は乱雑に置かれた椅子の上に座りため息をつく。

 現在行われている新入生剣技会ではベスト16で敗退してしまい、自分自身に失望していた。



「この前の相手と違って、今回は相手が悪かったな」



 今日の対戦相手は以前対戦したリリア・マーキュリーと同じ特別クラスに所属しているノエル・バーフェルミアだった。

 彼女はリリア・マーキュリーと比較にならない程強い。ノエル・バーフェルミアと初めて戦ったが手も足も出なかった。



「あんなに冷静かつ力強い戦い方をする剣士がいるとは思わなかった」



 試合が始まってすぐ、ノエルバーフェルミアが俺に向かって突っこんできた時は驚いてしまった。

 普段は俺と同じ受けの姿勢で戦闘を行う彼女が、俺との試合だけはリリア・マーキュリーのように烈火のごとく攻めてくる。

 不意を突かれた行動をされたせいで彼女への対応が一瞬送れてしまった。

 それが今回の試合の分岐点だったように思う。



「あの時はノエルバーフェルミアではなく、リリア・マーキュリーと戦っているようだった」



 もしリリア・マーキュリーが成長したら、あんな風に俺のことを攻め立ててきただろう。

 あの時の俺はノエル・バーフェルミアの中にリリア・マーキュリーの面影をみていたのかもしれない。 



「戦って見てわかったけど、やっぱり彼女は天才だな」



 あれは紛れもない傑物だ。このまま鍛錬を続けて行けば、間違いなく歴史に名を残すだろう。

 たぶん俺はこれからもあの子の足元には及ぶことはない。そのぐらい実力差があった。



「ただあれほどの技量を持つ者が、どうしてこの学校に来たのかわからない」



 あの子はエルフの国から留学して来たと耳にしている。もし彼女がエルフの国に住んでいるのなら、そちらの学校にいけばいいのに何故この学校へ来たのだろう。

 あちらの学校の方が教育の水準も高いはずなのに。おかしなエルフだ。



「おう!! ジャック!!」


「ガイルか」



 俺の控室に入ってきた大柄の男はガイル・フォールズ。俺と同じクラスのいけ好かない男だ。

 こいつは親がこの国の宰相の下で働いている位の高い貴族ということを笠に着て好き放題やっている。

 見た目は筋肉質のイケメンのように見えるが人を人とも思わない最低な人間で、授業には殆ど出ておらず放課後は女遊びに明け暮れているという話をよく耳にしていた。



「どうしたんだ? 俺の所なんかにきて? 慰めなんていらないぞ」


「勘違いするなよ。俺は女に負けるような雑魚を慰めに来たんじゃない」


「なら、何のようだ?」


「俺の次の相手がリリア・マーキュリーに決まったんだ。だからそいつの情報を俺に寄こせ」



 やっぱりそうだったか。

 この男が俺のことを訪ねたのはその事が目的だと思っていたけど、どうやら俺の予測は間違っていなかったようだ。



「ここまで来てもらって申し訳ないけど、俺はリリア・マーキュリーに対しての情報を持ってない」


「嘘を言うなよ。お前があの女と戦う前に摸擬戦の試合を全部見て、色々なデーターを集めていたことを俺は知ってるんだぞ」


「下種な行いをする癖に見る所は見ているんだな」


「何のことかわからないな」



 こいつ、惚けたことばかり言って。俺の皮肉が通じないようだ。 

 ガイルは一見するとただの遊び人のように見えるが、勝つための準備を怠らない男だ。

 ただ努力もせず他人頼りにするところを俺は嫌っている。

 宰相の下で働く貴族の息子ということもあり、 誰も彼の命令には逆らえないでいる。



「(生まれ持った才能と他人から得た知識を使って戦うのがこの男、ガイル・フォールズの姿だ)」



 だから俺もこいつと戦う時には手を焼いている。

 生まれ持った才能に悪知恵を働かせることで、今までろくな努力もせずここまでのし上がってきた、たちの悪い相手と言ってもいいだろう。



「あれはあの時限りのことだ。リリア・マーキュリーがその弱点を克服した可能性もあるし、俺のいう事はあてにならないと思う」


「お前は馬鹿か? この数日間で自分の弱点を克服できるわけがないだろう」


「それはどうかな?」


「あぁ!! 今何か言ったか?」


「別に。あの時俺が感じたことで良ければ教えるよ」


「最初からそういえばいいんだよ。早く情報を教えろ」



 こいつは本当に馬鹿な奴だ。リリア・マーキュリーは俺達より上のクラスである特別クラスに所属している。

 あんな無様な負け方をして、担当の教師が何の対策もしないわけがないだろう。



「(しかもあの子を教えているのはこの国を救った英雄、アレン・エレオノールの右腕だった男だ)」



 その男が彼女に何の策も伝えていないはずがない。

 もしくは普段の授業の中にそれを克服する為の策を入れているはずだ。

 あのクラスは俺達が受けている授業とは別のことをしているのでその可能性は高い。



「それじゃあリリア・マーキュリーの弱点を話すからしっかりと覚えてくれ」


「わかった」


「リリア・マーキュリーの弱点だけど‥‥‥」



 それから俺はこのいけ好かない男、ガイル・フォールズにリリア・マーキュリーの弱点を話す。

 この話はガイルの試合直前まで続けられ、せっかくの休憩時間が台無しになった。


------------------------------------------------------------------------------------------------

ここまでご覧いただきありがとうございます


この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る