第57話 才能という壁

「!?!?!?」


「あなたに‥‥‥努力も何もぜずのうのうと生きているあなたに私の何がわかるって言うんですか!!!」



 リリアダメだ!? その言葉はノエルにとっての地雷ワードだ。

 俺はノエルのことを知っているからそれがわかる。ノエルはリリアが思っているような人間ではない。

 ノエルもノエルでたくさんの悩みを抱えながら、今まで生きてきたんだ。

 それをリリアはわかっていない。



「そんなのわかるわけないじゃん!!! あたしはノエルちゃんじゃないんだから!!!」


「リリア‥‥‥ノエル‥‥‥落ち着いて‥‥‥」


「「レイラ(ちゃん)は黙ってて!!」」



 今にも取っ組み合いを始めそうな2人の間に急いで入る。

 幸い2人が取っ組み合いを始める前にリリアとノエルの間に入ることが出来た。



「お兄ちゃん!?」


「クリス君‥‥‥」


「そこまでだ、2人共!! 喧嘩はやめろ!!」


「喧嘩はやめろって‥‥‥お兄ちゃんはあたしの気持ちがわからないの!!」


「それはもちろんわかってるよ。俺だって同じような悩みを持っていたんだ。リリアの気持ちは痛い程わかる」



 俺もリリアにとってノエルみたいな存在であるアレンが側にいたから、彼女の気持ちは痛い程わかる。

 あいつも俺が苦しい思いをして手にした技を軽々習得するので、ノエルとレイラに置いてかれるリリアの気持ちは凄くわかった。



「クリス君!! 私の気持ちはわかってくれないんですか!!!」


「もちろんノエルの気持ちもわかるよ。ノエルのこと知らない人間にあんなことを言われたら、普通は怒るよな」



 ノエルがリリアに対して怒る理由もわからなくはない。

 この3人の中でノエルが1番才能という言葉を嫌っている。それなのにも関わらず自分のことをあんな風に言われたら、腹が立ってしまうだろう。



「あたしとノエルちゃん!! 一体お兄ちゃんはどっちの味方なの!!」


「俺はどっちの味方でもない。今回の件はお互いに非があると思ってる。まずはノエル!!」


「私ですか!?」


「そうだよ。落ち込んでいる相手に対して、マウントを取るような話し方をするな!!  人を励ます時はもっと相手の気持ちを考えて話せ!!」


「すいません」



 摸擬戦で全勝した人間が2敗した相手に対して、あのような言葉をかけるのは間違っている。

 それが許されるのはリリアと同じように負けた者だけだ。そのことをノエルは理解してないように見えた。



「次にリリア!!」


「あたし!?」


「そうだよ。リリアはなんでもかんでも才能って言葉で物事を片付けるな!! お前の悪い癖だぞ!!」


「だってノエルちゃんは、あたしよりも才能があるから‥‥‥」


「だから才能って言葉で全てを片づけるな!! それは自分が死ぬほど努力してから使うようにしろ!!」


「おっ、お兄ちゃんにあたしの気持ちなんかわかるわけ‥‥‥」


「わかるよ!! お前の気持ちは痛い程わかる!! 俺程才能という物に悩まされた人間はこの世にはいない!!」


「何を根拠にそんなことを言って‥‥‥」


「俺の側にはアレンという魔法も剣も何でも出来る超1流の天才がいたんだ。だからリリアが感じている無力感は、ここにいる誰よりもわかるつもりだ」


「あっ!?」



 そこでリリアは気づいたのだろう。俺が今までどんな思いでアレンの側にいたのかを。

 思えば魔王討伐の旅をしている時はずっと辛かった。

 魔法も剣も超1流で勇者の名をもつアレンと農村出身の一般人である俺。

 一緒に旅をしている時は常に比較され続け、周りからは『アレンに付きまとう金魚の糞』とか『才能皆無の一般人』みたいな異名をつけられたけど、それでも血反吐を吐くぐらい努力してここまでのし上がってきた。

 そのことはリリアもよく知っているはずだ。リリアと出会った時も俺はその事にずっと悩んでいて彼女に話したことがある。



「確かに才能は1つの武器になる。俺にはアレンのような才能がないせいで、死ぬほど努力しなければいけなかった」


「それは知ってるよ」


「だろう。血反吐を吐くぐらい死ぬほど努力をしてもアレンの足元にも及ばない男。それが俺、クリス・ウッドワードだ」



 今言った言葉の通り、俺は自分の命を懸けて力をつけてきた。

 だが俺の命を捧げてもアレンには届かない。才能という言葉にもっとも苛まれてきたのは俺だという自負はある。



「俺の言いたいことはわかったか?」


「はい‥‥‥」


「ごめんなさい」


「わかったならいい。とりあえず喧嘩はやめて、一旦教室に戻ろう」


「わかった」


「わかりましたわ」



 よし! これで2人の喧嘩は終わったな。

 あとは2人の頭が冷えるのを待てばいい。



「クリス先生!? これは一体どうしたんですか!?」


「ロスタス先生すいません。特別クラスは先に教室に戻りますので、あとは頼みます」


「えっ!? あっ、はい!? わかりました!」


「そういうことだ。みんな行くぞ!」



 それから俺はリリア達3人を連れて教室へと戻る。

 そこで表面上リリアとノエルは仲直りして、この話は一旦終わった。


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今年も1年ありがとうございました!

来年も皆さんに楽しんでもらえるように頑張って作品を作りますので、応援をよろしくお願いします。


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