第54話 本当の実力

 合同授業4日目。この日も俺は摸擬戦の審判をしていた。

 4日間も試合を見ていれば生徒達の実力も大体わかる。

 AクラスからEクラスの生徒達は俺の予測に反して、実力通りのクラスに振り分けられていた。



「一部そのクラスの実力に見合わない人間も見受けられるけど、殆どの生徒達が実力通りのクラスに割り振られたといっていいだろう」



 もっと偏ったクラス編成になっていると思っていたけど、実力通りに割り振られていて安心した。

 前に寄付金の多さでクラスを決めているという噂を聞いたことがあるけど、この合同授業を通じてその疑惑が払拭されたと思っている。



「それにしてもノエルとレイラは強いな。Aクラスの生徒を相手にしても余裕をもって戦っている」



 1年生の中でノエルとレイラに勝てる人間はいないだろう。

 あの2人ならこの学校の上級生と戦ってもいい勝負が出来るはずだ。そう言い切れる程実力差があった。



「問題はリリアだな」



 俺は現在Aクラスの生徒と摸擬試合をしているリリアの方を見た。



「最初は調子が良かったけど、今は逆にAクラスの生徒に押されている」



 序盤は勢いで相手を追い詰めていたリリアだったが、剣技の差で徐々に形勢が不利になっていく。

 このままずるずる下がっていったら、確実に負けるだろうな。



「やぁっ!!」


「そこ!!」


「ぐっ!?」



 Aクラスの生徒もリリアの攻撃に目が慣れてきたようだ。

 Bクラス以下の生徒とは違い、Aクラスの生徒は中々ミスをしてくれない。

 このままだとリリアは負けてしまう。俺がそう思った時だった。



「そこ!!」


「あっ!?」



 相手が振り遅れた隙をついて、リリアの攻撃が相手の胸に当たった。

 その衝撃に耐えられなかったのか相手は剣を放してしまい、その場で尻餅をついてしまう。



「それまで!! 勝者リリア・マーキュリー!!」



 冷や冷やした試合展開だけど、Aクラスの生徒を相手にしてなんとか勝つことが出来た。

 これでリリアは自信を取り戻してくれればいいんだけど、その兆しが全く見えなかった。



「リリアが他クラスの生徒と対戦する時は、ガードを無視したオープンな展開になるんだよな」



 毎回そういう展開になる原因は1日目に見せたリリアの失態のせいだ。

 あの戦いでリリアの弱点を分析されてしまい、対戦相手全員がそのような戦いをするようになった。



「両者、礼!!


「「ありがとうございました!!」」



 Aクラスの生徒に勝って、リリアはほっとしているようだ。

 ただ試合に勝っても彼女の顔に笑顔はない。

 その表情は今の試合結果に納得出来ていないように見える。



「(他の生徒達はリリアにとって苦手な戦い方をしていると思っているようだけど、あの展開はリリアがもっとも得意な戦い方なんだよな)」



 摸擬戦初日に不安定な試合内容をしていたリリアだったが、彼女が苦戦していた原因は戦い慣れをしていないせいだ。

 ここ数日摸擬戦を行ったおかげでその部分もだいぶ解消された。なのであの時のような不安定な戦い方をすることはないだろう。



「他の2人に比べて剣の技術に不安があるリリアは、ガードを無視した力任せのガチャガチャとした戦い方の方が合っているんだよな」



 リリアと同等または実力が上の人間と戦おうとしたら、この戦い方が1番勝つ可能性が高いと思っている。

 この戦い方ならノエルやレイラと互角に戦えるだろう。そのぐらいリリアにはこの戦法が合っていた。



「(ただ対戦相手の中には、その事に気づいている奴もいるだろうな)」



 特にAクラス内にいるトップクラスの実力者達はリリアの弱点を見つけているように見える。

 彼等はノエルとレイラに勝つことは諦めて、リリアを倒すことに照準を定めているように見えた。



「次!! ジャック・ライオッツとリリア・マーキュリー」


「はい!!」



 元気よく声を出すリリアとは対照的に静かにステージへと向かうジャック・ライオッツ。

 俺の予想だとこのジャック戦がリリアにとっての分水期になるような気がした。



「(ここ何試合かジャック・ライオッツの試合を見ていたけど、リリアとの相性は最悪だな)」



 本能で戦うリリアとは違い、ジャックの戦いは頭を使って冷静に戦う戦法だ。

 彼はノエルに似て冷静に相手のことを分析しながら戦うタイプなので、リリアとはすこぶる相性が悪い。



「(あれがAクラスで5番目の実力なんて、正直信じられないけどな)」



 あれ以上の実力者がまだ上に4人もいるなんて信じられない。

 俺はまだその4人の実力をちゃんと見てないからわからないけど、噂を聞くに相当な実力者みたいだ



「(その人間を相手にリリアはどう立ち回るんだろう)」



 ある意味これはリリアにとって正念場だ。

 自分の苦手をしているタイプを相手にどう戦うか、彼女にとって真価が問われる1戦となる。



「2人共位置について!! 始め!!」



 ロスタス先生の合図と共にリリアとジャックの試合が始まった。


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