第49話 嵐の前の静けさ

 アレン達と昼食を取った後、午後の授業が行われる闘技場へと向かう。

 闘技場の中に入るとそこには既に1年A~E組の先生達が集まっていた。



「(学年の先生達が揃った時に漂うこのギスギスとした雰囲気、ものすごく嫌なんだよな)」



 座学の先生達とは違い、俺は実技の先生達とのあまり仲が良くない。

 何故俺が実技の先生達と仲良くないのか。それは彼等がお互いのことをライバル視しているせいだ。

 彼等に話しかけようとすると自分の自慢話か相手に対してマウントを取る発言しかしない為、俺はこの人達と極力関わらないようにしていた。



「(ここにいる先生方はみんな校長の椅子を狙っているから、こんなにギスギスした雰囲気になってるんだろうな)」



 俺は別にアレンの後釜になりたいと思わないし、高い役職に就きたいと思ったことはない。

 だけど特別クラスのクラスの担任をやらされているせいで、他の先生達から目の敵にされている。それはそれで居心地がものすごく悪い。

 


「(俺があの先生達を避けているのはそのせいだろうな)」



 レイブン先生のように会えば嫌味のようなことを言う人が多いので、正直嫌気がさしている。

 これならまだ騎士団の団長をやっていた時の方がよかった。

 あそこは最近正常化されてきて居心地は良かったので、早くあの空間に戻してほしい。



「おや、そこにいるのは特別クラスの担任をしているクリス先生じゃありませんか」


「レイブン先生」



 闘技場にきてそうそう1番話したくない相手と話す事になってしまった。

 正直なことを言うと俺はこの先生のことが苦手だ。校外実習の時もそうだけど、自慢話が鼻につく。

 俺のクラスを変に持ち上げようとするところも含め嫌味が多く、あまり関わり合いを持ちたくなかった。



「本日行われる全クラス合同の授業ですが、クリス先生のクラスはとてもとてもとても優秀な生徒達がいるので、我々のクラスなんて眼中にありませんよね?」


「いやいや、そうとも限りませんよ。俺は生徒達が今持っている力を全て出し切ってもらえれば、それでいいと思っています」


「はっはっはっはっは! そんなに謙遜しなくてもいいですよ。と・く・べ・つ・クラスの生徒達なんですから、我々Aクラスの生徒達なんて相手にならないでしょう!」


「ハハハハハ‥‥‥‥‥どうなんでしょうね」



 本当にうざいな。この人は。

 今日の摸擬戦は生徒達に実戦経験を積ませるのが目的なんだから、生徒達を競わせるようなことをしなくていいだろう。



「(この人は他の先生達にもこんなことを言ってるのかな?)」



 だとしたらこの人が嫌われる理由もよくわかる。

 そういえば校外学習の時、この人に話しかける先生は殆どいなかったな。

 他の先生達がこの人を犬猿する理由が何となくわかった気がする。



「レイブン先生!」


「ロスタス先生、どうしたんですか?」


「もうすぐ生徒達が来るので、そろそろ私達も準備をしましょう」


「もうそんな時間か。それではクリス先生。また後で会いましょう」


「はい。また後で」



 そう言ってレイブン先生は他の先生達が集まっている所へと行ってしまう。

 俺はというとあの先生から離れられて、ほっと胸を撫でおろした。



「(ロスタス先生が来てくれたおかげで助かった)」



 あのままレイブン先生と2人っきりでいたら、いつ手が出てもおかしくなかった。

 そのぐらいあの人の言葉遣いに対して俺はイライラしていた。



「先程は助けていただきありがとうございます」


「いえいえ。あの人はいつも他の先生方にダル絡みをするので、我々教師陣の間でも困ってるんですよ」


「そうなんですか?」


「はい。まぁ本人も悪気があるわけではないので、許して下さい」


「わかりました。ロスタス先生がそういうならそうします」



 本当にロスタス先生は優しいな。自分の出世ばかり考えている他の教師陣とは全然違う。

 俺にとってロスタス先生はこの学園のオアシス的な存在と言っていいだろう。

 他の教師達に比べて地味に見えるけど、仕事が出来るだけでなく周りへの気配りが出来る素晴らしい人だ。



「(何でこの人がこんなに過小評価されてるんだろう?)」



 本来ならAクラスの担任をしていてもおかしくない程能力がある人なのに。この学園もよくわからない人選をするな。

 おそらくはその人の肩書で担当するクラスを決めてるせいだと思うけど、ロスタス先生は理不尽な仕打ちをしていると思う。



「クリス先生もそろそろ準備をお願いします」


「わかりました。一応確認ですが、俺は生徒達が行う摸擬試合の審判をやればいいんですよね?」


「はい、そうです」


「改めて質問しますが、本当に俺がそんな大役を任せてもらってもいいんですか?」


「もちろんですよ! これは実戦経験が豊富なクリス先生にしか務まりません」



 この人はこうやって人を乗せるのも上手いんだよな。

 こういう所を見ていると余計この人が上に行けない理由がわからない。

 ロスタス先生は笑顔も素敵だし、本当にいい先生だよな。俺もこの先生の行いを見習いたいと思っている。



「ありがとうございます」


「それじゃあ私は別の準備があるので。これで失礼します」



 そう言ってロスタス先生はレイブン先生達がいる場所へと戻って行った。



「本当にあの先生はいい人だな」



 レイブン先生よりもあの人がAクラスを受け持った方がいいのに。もったいない。

 きっとアレンが来る前はもっと腐っていたんだろうな。ロスタス先生の扱いを見てなんとなくそう思った。



「さて、俺も準備をするか」



 それから俺も自分の持ち場へと移動して、これから行われる特別授業の準備を始めた。


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