第50話 寂しい背中
レイブン先生の長くて回りくどい話が終わり合同授業が始まった。
この授業は全クラスが入り乱れて行う摸擬戦なっていて、試合によってはAクラスとEクラスの生徒が戦う場合もある。
生徒達は自分の剣の腕を精一杯アピールするため、必死になって戦っていた。
「やぁっ!!!」
「この勝負そこまで! 勝者、ノエル・バーフェルミア!!」
俺は倒れた相手に追撃を加えようとするノエルを止める。
ノエルも俺が間に入ろうとしたタイミングで木剣を収め、ステージの中央へと戻っていった。
「(やっぱりノエルは強いな。Bクラスの生徒を相手にしているのに、何もさせなかった)」
エルフの街で師匠に鍛えてもらった成果が出ている。
剣の腕だけでいえば、上級生含めノエルの右に出る人はいないと思う。
そのぐらいノエルの剣術は完成されていた。
「(この中で唯一ノエルに対抗できる人間はレイラだけだ)」
全てのクラスの試合を見たけど、ノエルと対等に戦う事が出来るのはレイラしかいない。
彼女はノエルとは違い剣の師匠はいないけど、摸擬戦で負けることはないと思っている。
「(問題はリリアなんだよな)」
リリアも上位クラスと対等に戦える腕はあると思う。だけどノエルやレイラよりも彼女は弱い。
もしかすると上位クラスの人と戦ったら負けてしまう可能性がある。
その事にショックを受けないか心配していた。
「次!! リリア・マーキュリー!!」
「はい!!」
この試合でリリアが戦う相手はCクラスの生徒だ。
向こうの生徒はやる気に満ち溢れており、特別クラスの生徒相手に胸を借りるつもりのようだ。
「(普通にやったら勝てる相手なんだけど、今のリリアに勝てるかな?)」
実戦経験が不足しているせいかリリアが緊張しているように見える。
体がガチガチに固まっているせいで、本来持っている力を出せるのか不安だった。
「(そもそもこの学園に入ってくる人達は貴族の息女が多いせいか、戦い慣れてる人が多いんだよな)」
貴族のご子息はこの学校に入学をする前に自分の家で剣を学んでいる事が多い。
それこそお抱えの騎士と摸擬戦なんて何千回とやっているだろう。
実戦経験は向こうの方が上なので、この試合はどっちが勝つかわからなかった。
「2人共構えて。試合開始!!」
試合が始まるとCクラスの生徒がリリアの方へと飛び込んでいく。
その行動に面食らってしまったのか、リリアは開始早々受けに回ってしまった。
「(リリアが受けに回るのはちょっとまずいな)」
リリアは気持ちで戦うタイプだと思っている。
そんな彼女が相手の気迫に押されて、ずるずると後ろに下がってしまった。
「(もしかしたらこの勝負、リリアは負けるかもしれない)」
これだけ押されていれば、負けてしまうのも仕方がないことだ。
ただこれはあくまで摸擬戦であり、本番までまだ時間がある。
その間に弱点を克服すればいいと思っているので、俺はこの試合を楽観した気持ちで見ていた。
「あっ!?」
「そこだ!!」
おっ!? リリアが相手がミスした隙をついて反撃を始めた。
リリアの猛攻に対応できず、相手は防戦一方となっている。
「(こうなったら相手もさすがに耐えきれないだろうな)」
リリアの繰り出す攻撃は1つ1つがものすごく重い。なので1回受けに周ってしまうと受けることしか出来なくなってしまう。
目の前にいるCクラスの生徒もその例外に漏れず、リリアの攻撃を一方的に受けた結果、木剣が弾け飛んでしまった。
「これで終わりよ!!!」
「やめろ!! リリア!! この勝負はそこまでだ!!」
「お兄ちゃん!?」
「お前の勝利だから剣を収めろ!! そんなに力を入れられると俺もこの木剣を折らないといけなくなる!!」
Cクラスの生徒の鼻先三寸の所で俺は木剣を鷲掴みにして止めている。
今も木剣がミシミシと音を立てており、いつ折れてもおかしくない。
「(それにしても相変わらずリリアの力は強いな)」
リリアに力勝負で勝てる人はこの学園にはいないと思う。
もし彼女が暴走した時止められるのは、俺かアレンだけだ。
そう断言できるほど、リリアが持つ力は凄かった。
「ごめんなさい!?」
「わかればいいんだ。今すぐ木剣から力を抜いてくれ」
「はい!」
ふぅ。これで一件落着だ。久しぶりに本気を出したので、ものすごく手が痛い。
「(でもこれだけ力が入っているという事は、それだけリリアも必死だったんだな)」
その証拠に今の戦いの最中リリアは周りが見えてなかった。
剣を弾き飛ばした相手に対して追撃をかけている事からもそれがわかる。
「勝者リリア・マーキュリー!!」
「ありがとうございました!!」
リリアは一礼をすると闘技場に設置されたステージを降りていく。
摸擬戦に勝ったというのに、リリアは落ち込んだ様子でステージを後にした。
「リリアの奴、大丈夫かな?」
もしかすると今の対決でリリアは自信を失ってしまったかもしれない。
今後の試合にも影響するので、後でフォローを入れておいた方がいいな。
「クリス先生!? ぼーーーっとしてないで、早く次の生徒を呼んで下さい!?」
「すいません!? 今やります!?」
俺は次の生徒達を呼び出し、審判として数多くの試合をこなしていく。
その試合の最中、ステージの上から寂しそうに去っていくリリアの姿が頭から離れなかった。
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