第48話 渦巻く悪意

 アレンからリエラを預かってから数日が経った。

 最初はどうなっていくのか不安だったけどリエラはこの環境にすぐ馴染み、今では一緒に授業の準備をしている。



「よし! こっちは終わったぞ。リエラ、そっちはどうだ?」


「グマ!!」


「そっちも終わったのか。今見に行くからちょっと待ってて」



 今日はいつも使う練習場ではなく、闘技場内で作業をする俺とリエラ。

 作業の出来を確認するために、俺はリエラの所へと向かった。



「どれどれ‥‥‥うん! これなら大丈夫だな」


「グマ!」


「本当にリエラは優秀だな。こんなものまで作れるなんて才能があるよ」



 リエラは授業準備だけでなく、裏山をランニングしている時も率先してリリア達を先導している。

 正直リエラがここまで出来る子だと思わなかった。下手をするとこの学校にいる教師達よりもリエラの方が優秀かもしれない。



「これで午後の授業の準備は終わったな。結構時間が余ったけど、これから何をしようかな?」



 いつも1人でやっている作業を2人でやっているものだから時間が余ってしまった。

 しょうがないから今日は早めに学生食堂に行って昼食でも食べるか。リエラと一緒にな。



「あっ!? いた!! 研究室にいないと思ったら、こんな所にいたんだ!」


「アレン!? 何でお前がこんな所にいるんだよ!?」


「それはもちろんクリスに用があるからだよ。研究室にいると思ってそっちを尋ねたら、中には誰もいなくて驚いたよ」


「悪かったな。今日から新入生剣技会に向けた合同練習が始まるから、その準備をする為に闘技場に来てたんだ」


「そうなんだ。クリスも意外と忙しいよね」


「お前には負けるよ」



 学校の運営から学外の人間との交渉だけでなく、学内で起こるトラブルも全てアレンが見ているらしい

 なので普段授業準備をしている俺とは違う忙しさのはずだ。それこそ俺よりもアレンの方が休みが少なくて大変だと思う。



「そういえばアレンに聞きたいことがあったんだ」


「何?」


「この闘技場の中央に祭られているあの巨大な剣士の像は何だ?」


「あぁ、あれね。あれは何千年前にこの国を救った英雄を忘れない為に作られたゴーレムだよ」


「あれって銅像じゃなくてゴーレムなの!? 高さが5m以上はあるけど、動き出したら大変なことにならないか!?」


「それは大丈夫だよ。昔はこの国を守る兵士だったんだけど、戦いの最中にあのゴーレムの中にある動力源が壊れてしまって今は動かないんだ」


「なるほどな。だから置き場所に困って、この闘技場に放置してあるのか」


「そういうことみたい!」



 前々から悪趣味なものだと思っていたけど、置いてある理由を聞くとやるせない気持ちになる。

 動力源が壊れてしまったなら、誰か直してあげればいいのに。

 このままではあのゴーレムが可哀想だ。



「そんなことよりもクリス、僕の話を聞いてよ!!」


「そういえば俺に話があるって言ってたな。何の用だ?」


「この前の校外学習でアレンが倒したレッドベアーの鑑識結果が出たんだよ!」


「何だと!? 一体どんな結果が出たんだ!?」


「それが驚いたことに、あのレッドベアーからは何も検出されなかったんだよ」


「そんなはずがないだろう。リエラの親の体内から魔力石が見つかったんだから、他のレッドベアーからも見つからないと説明がつかない」



 あの裏山に放たれたレッドベアーは人為的に作られた物だろう。

 だが俺が倒したレッドベアーからはそういった痕跡が見つからないとはどういうことだ。

 アレンの言っている意味がわからなかった。



「僕もクリスと同じ意見だよ。今回の件は誰かが意図的に仕組んだものだと思う。」


「やっぱりアレンもそう思うんだな?」


「うん! だってそうじゃないと魔力石が見つからなかったことの説明がつかないでしょ」


「確かにな」



 この事件をアレンまで疑っているということは、この学校を狙う敵がどこかにいるはずだ。

 一体犯人は誰だろう。この学校の学生を狙う人に心当たりがなかった。



「それでアレン、今回の事件はアイリス王じじぃ達に話したのか?」


「もちろん! アイリス王には報告したよ」


「そしたらなんて返事が返って来た?」


「決定的な証拠も見つかってないし、この問題に関しては様子見だって言ってたよ」


「いかにも保守的なアイリス王じじぃらしい考えだな」



 問題が表面化するまで手を出さないという所がいかにもあの王様らしい所だ。

 そのくせ問題が大きくなると大慌てするのに。懲りない人だな。



「僕は近い将来、何か事件が起きそうな気がするんだよね」


「俺もアレンの話を聞いてそう思ったよ」


「グマ!」


「リエラも俺達と同じ意見のようだな」



 事件の被害者であるリエラもそう言ってるのだから、きっとこの事件はまだ終わってない。

 これからどういったことが起こるのかわからないが、警戒した方がいいと思う。



「その子グマに名前がついたんだ!」


「あぁ。リリア達が名前を付けてくれたんだよ」


「ふ~~~ん、リリアちゃん達が名前を付けてくれたんだ」


「何でそんな意味深な表情をするんだよ?」


「なんでもないよ。クリスもリリアちゃん達と上手くやってるみたいだね」


「ぐっ!? 何も見てないくせに言いたいことばかりいいやがって」



 アレンの方がフィーナと上手くやってるくせに。俺の事だけ槍玉にあげるなよ。

 お返しとして今度フィーナに会ったらアレンが学校でどう過ごしているか言ってやる。

 彼女の事だから、絶対に興味を持つに違いない。



「最近リリアちゃん達とどうなのか僕だけに教えてよ」


「だから何もないって言ってるだろう!?」


「グマグマ」


「リエラはいつも一緒にいるんだから、俺達がどう過ごしてるか知ってるだろう!! 何でそんな目で俺の事を見るんだよ!?」



 アレンだけならともかく、何で俺はリエラにまで煽られないといけないんだろう。

 なんだか最近俺とリエラのパワーバランスが崩れてないか? それもこれもリリア達がリエラを甘やかすせいだ。



「話が終わったからもういいだろう。俺は学生食堂に行って、昼食を取る」


「それなら僕も一緒に行くよ!」


「グマ!」


「リエラはともかくアレンはついて来るな!! 校長が学食で飯なんて食べてたら、学生が驚くだろう」


「これも生徒との交流の一環だよ。だからあまり固い事を言わないで、一緒に食べよう」


「勝手にしろ」



 こうして俺はアレンやリエラと一緒に昼食を食べる為学生食堂へと行く。

 食堂のおばちゃんしかいない空間で、俺はアレンとからリリア達との関係を根彫り葉彫り聞かれ、食事に夢中のリエラは俺の事を助けてくれなかった。



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