第47話 共同生活
子グマを預かる事となった俺は校長室を出たその足で自分の部屋へと向かう。
アレンから預かった子グマがどうしているかといえば、俺に肩車をされて意気揚々と手を振っていた。
「いいよなぁ。お前はお気楽で。羨ましいよ」
「グマ!」
「悪いが今の言葉は褒めてないぞ。単なる皮肉だからな」
この子グマを預かって1時間も経ってないが、なんとなくこのクマの言っていることがわかる。
この子グマは鳴き声だけでなく体で喜怒哀楽を表現してくれるので、何を言いたいのか簡単にわかった。
「そういえばリリア達は何をしているんだろう?」
俺の研究室で別れてから1度も会わなかったし、さすがに今日は自分の部屋に戻ってるか。
「こんなに遅い時間だと夕食も既に済ませてるよな」
俺の部屋に食材は何もないし、今日はこの子グマと一緒に外で食べるか。
1人だったら何も食べずに寝てたけど、このクマに何かを食べさせないといけない。
誰とも結婚をしていないのに、子供が出来た気分になった。
「ただいま‥‥‥っていかんいかん、いつもの癖でつい言ってしまっ‥‥‥」
「「「おかえりなさい!!!」」」
「ちょっ、待てよ!? 何で俺の部屋にリリア達がいるんだ!?」
「いつもクリスお兄ちゃんと夕ご飯を食べてるんだから、お兄ちゃんのことを待ってるのが普通でしょ?」
「そうですわ! むしろクリス君は私達がいないと思ったんですか?」
「私達はいつでもクリスの側にいる。心は1つ!」
「リリアとノエルの言葉の意味はわかるけど、レイラは何を言いたかったんだ?」
帰ってきてお迎えの人がいるのは嬉しいけど、俺が望んでいたのはこういうのではない気がする
3人がエプロンをつけて俺のことを出迎えるのはいいが、色々と聞かなければいけないことがあった。
「3人に質問してもいいか?」
「うん、いいよ!」
「一体どうやってこの部屋に入ったんだ? 俺はこの部屋の鍵を3人に渡してないはずだよ」
マスターキーだけでなくスペアキーも俺が持っているので、この3人がこの部屋の鍵を入手することは出来ないはずだ。
今日の朝出かける時にもしっかりと鍵をかけたはずなのに。どうしてこの3人がここにいるのだろう。その理由がわからなかった。
「それはもちろん、アレンお兄ちゃんにもらったんだよ!」
「アレンがくれただと!?」
「はい! クリス君のお部屋に入るのに鍵がないと不便だからと言って、校外学習の後特別にスペアーキーをくれました」
「あの野郎!! だからさっきあんなことを言ってたのか!!!」
俺がリリア達と同棲したものだと勘違いしていたけど、その理由はこういうことか。
アレンとしては気を利かしたつもりなのかもしれないけど余計なお節介だ。
これでは俺がリリア達と付き合ってると思われるだろう。
この学校で1番偉い人間が教師の不祥事を助長させるようなことをするなよといいたい。
「それよりお兄ちゃん」
「何だ?」
「今肩車をしているクマさんはぬいぐるみなの?」
「グマ!」
「わっ! 本物だ!」
「可愛い! こっちにおいで」
「グマ!」
俺に肩車されていた子グマは器用に俺から降りて、レイラの下へと向かう。
そして椅子上に座っていたレイラの太ももの上に乗ると幸せそうな表情をしていた。
「やっぱり可愛い。クリス、この子はどうしたの?」
「先日の校外実習でリリア達が連れてきたレッドベアーがいただろう」
「私が持ってたやつだ!」
「そうだ。それでさっきアレンと話をしていた時、この子グマを預かってくれと言われて渋々預かることになった」
「そうなんだ」
「レイラちゃん! あたしもその子グマを抱いてもいい?」
「いいよ」
「ありがとう! この子グマ、すっごくモフモフしてて可愛いね!」
リリア達が喜んでいる所を見ると、アレンの予測はあながち間違っていないようだ。
彼女達ならこの子グマの世話をちゃんとしてくれるだろう。3人が子クマを可愛がっている所を見てそう思った。
「そういえばクリス君」
「何だ?」
「レッドベアーの子供という割には、この子グマはやけに黒いですね」
「その事なんだけど、どうやらあのレッドベアーは人為的に作られたものらしい」
「どういうことですの?」
「レッドベアーの体内から魔力石が発見されたんだ。アレンとも話したけど、たぶんあれは人の手によって埋め込まれたものだと判断した」
「それって誰かが悪意を持って、あのレッドベアーを山に放ったってことですか!?」
「だな。もしかするとこれから大きな事件が起きるかもしれないから、ノエル達も注意してほしい」
「「「はい!」」」
今回の件は明確に悪意を持って仕組まれた事件である。
誰が行ったことかわからないが、この学校の生徒達を狙っていることは確かだ。
リリア達もいつどこで被害に遭うかわからないので十分に注意してほしい。
「そういえばお兄ちゃん」
「何だ?」
「この子グマの名前は何て言うの?」
「そういえばまだ決めてなかったな」
「それならあたし達が決めてもいい!!」
「いいよ。好きに決めてくれ」
「やった! ノエルちゃん、レイラちゃん。一緒に決めよう!」
それからリリア達3人は子グマを囲んで話し込んでいる。
よっぽど意見が合わないのか、三者三様の意見が出てきて話がまとまらなかった。
「まだ決まらないのか?」
「今決めてる所だから、ちょっと待って!」
ちょっと待ってと言われても既に10分以上も経過してるぞ。
リリアだけじゃなくて、ノエルもレイラも一切退く様子がない。
「お兄ちゃん! この子の名前が決まったよ」
「どんな名前になったんだ?」
「リエラって名前にしたんだ」
「リエラか。何でその名前になったんだ?」
「あたし達3人の名前から取ってるの! リリアのリにノエルちゃんのエ、レイラちゃんのラから取ってリエラって名前になったんだ!」
「なるほどな。3人の名前から1文字ずつ取ったのか」
「うん! これならこの子がお兄ちゃんの側にいる間、お兄ちゃんはあたし達のことを忘れないでしょう」
「確かにそうだ」
俺が3人のことを忘れないようにするためにそんな名前をつけたのか。
そんなことをしなくても俺がリリア達のことを忘れることはないのに。可愛い子達だ。
「グマ!」
「リエラもその名前が気に入ったのか」
元気いっぱい返事をする子グマことリエラ。
どうやらこの子も自分の名前が気に入ったように見えた。
『ぐ~~~~~』
「あっ!?」
「お兄ちゃん、そんなにお腹が減ったの?」
「仕方がないだろう!! 今日は色々あってろくに昼食も取ってないんだよ」
「ふふっ、それならそろそろ夕食にしましょうか」
「賛成! 私もお腹が減った」
「そしたら私も夕食の配膳を手伝うね」
「新しい家族が出来たので、もう1つ食器を用意しないといけませんね」
今日1日色々あったけど、結果的によかったと思う。
なんだかんだまた1人大切な仲間が出来たし、子グマを預かったのはよかったのかもしれない。
「リエラ君の為に食器をもう1つ準備しないとね」
「グマ!」
「今リエラ用の椅子も持ってくるから。ちょっと待ってて」
それから4人と1匹で美味しく夕食を食べる。
夕食後中々帰りたがらないリリア達を寮へと送り、リエラと一緒に部屋で寝た。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ここまでご覧いただきありがとうございます
この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます