第46話 アレンの頼みごと

「わかった。アレンの頼みごとを聞くよ」


「ありがとう! やっぱり持つべきものは友達だね!」


「前置きはいい。それよりも俺に頼みたいことって何なんだ?」


「僕がクリスに頼みたかった事。それは一定の期間この子を預ってほしいんだ!」



 そういって机の下から取りだしたのは、人形のような見た目をした小さな子グマだった。

 何度もあくびをしている所を見るに、アレンが持ちあげるまで寝ていたのだろう。

 頻繁に目を擦っているので、さっきまで机の下でぐっすりと寝ていたようだ。



「その子グマはなんだ?」


「この子はあのレッドベアーの子供なんだよ」


「子供? でもこのクマはただのブラッドべアーだろう? あのレッドベアーとは全く似てないよ」


「それは魔力石のせいだよ。あれを使って魔力を大量に注ぎ込まれた結果、この子の親はブラッドベアーからレッドベアーに変化したみたいなんだ」


「なるほどな。あれのせいでブラッドベアーがレッドベアーに変化したのか。」



 本当に胸糞悪い話だ。人の手によって変化した人工的な魔物。それがあの森に住むレッドベアーの正体か。



「(一体誰がそんなことをしたんだ? 黒幕の目的が全くわからない)」



 あの山にレッドベアーを放って何の得があるんだ? それが全くわからない。

 俺達の持っている情報が少なすぎるせいで、黒幕の目的を予測出来なかった。



「アレンの事情はわかったよ。そしたら俺はその子グマをどうするればいいんだ?」


「だからクリスにこの子グマを預かってほしいと言ってるんだよ」


「俺がこの子グマを預かるの!?」


「うん。だからさっきからそう言ってるじゃん!?」


「そんなことを言われても、俺はクマなんて飼ったことがないぞ!?」


「そこはリリアちゃん達に育て方を聞けばいいんじゃないかな?」


「何故そこでリリア達が出てくるんだ?」


「だってクリスはリリアちゃん達と同棲してるんじゃないの!?」


「どっ、どうせいだって!?!?」


「クリスさん!? 教え子と同棲ってどういうことですか!?」


「そんなこと俺が知るか!!!」



 一体いつから俺がリリア達と同棲している話になったんだ!?

 そんな話初耳だぞ!!



「クリスさんは否定されてますけど、どういう事なんですか?」


「だってリリアちゃん達がよくクリスの部屋に行ってるって話を耳にするよ」


「確かにリリア達はよく部屋に来るけど、それは俺の夕飯を作るためだ!! まだ1回も俺の部屋に泊ったことはない!!!」



 王国で起きている不祥事の話といい、今日のアレンはやけに口が軽いな。

 俺達と関係の薄いミリアもいるというのに、誤解を生むようなことをたくさん話している。

 その行いはまるでため込んだストレスを発散しているように見えた。



「クリス先生。自分の教え子と一緒に夕食を食べているのは本当ですか?」


「それは‥‥‥本当だな」



 まずいぞ!? 俺の方を見るミリアが怒り狂ったオークのような目をしている。

 このままだと俺までこの場で何かしらの処分を言い渡されてしまう。

 どうにかして逃げたいが、認めてしまった以上逃げることは出来ない。



「まぁまぁミリアさん、アレンは教え子と夕食を食べていただけだし、ここは多めにみようよ」


「ですが、クリスさんが嘘を言っている可能性が‥‥‥」


「それはないから大丈夫だよ。そもそもクリスがあの子達といかがわし事をしてたら、夕食を食べていたことも否定すると思わない?」


「確かにそうですね」


「だから本当に夕食を食べてただけだと思うよ。ここはアレンのことを信よう」


「‥‥‥‥‥わかりました。アレン校長がそういうなら、この話は不問にします」


「それはよかった」



 ふぅ。これでこの問題は一件落着か。

 アレンがこの場にいてくれてよかった。

 1歩間違えれば、俺はこの場で学校をクビになっていた。



「ありがとう、アレン。俺のことを庇ってくれて。お前に1つ借りが出来たよ」


「どういたしまして。でも別に僕に借りを作らなくていいよ!」


「どういうことだ?」


「言葉の通りだよ! もしクリスが僕に感謝してるなら、この子グマを飼ってくれるよね?」



 ぐっ!? もしかしたらアレンはこの要求を受け入れさせるためにわざとその話題を出したのか?

 よくよく考えれば俺とリリア達の同棲疑惑を暴露したのはアレンだ。

 あいつは自分で蒔いた種を自分で回収しただけで何もしていない。

 どうやら俺はまんまとアレンにはめられたようだ。



「クリス。お願い!」


「‥‥‥わかった。そのお願いを聞き入れるよ」


「ありがとう! そしたらこの子グマをお願いね!」


「グマ!」



 こうしてアレンとの取引? により、俺は子グマと共同生活を送ることになった。


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