第45話 情報交換

「‥‥‥以上がリリアから聞いた話だ。何か質問はないか?」


「ないよ。報告ありがとう、クリス!」



 先程起きた事件の報告を終えると、アレンが俺のことをねぎらってくれた。

 何故ミリアだけでなく事件に関係のないアレンがここにいるのか。それは俺にもわからない。

 俺がリリアから聞いた話を報告する為に校長室へ行くと、そこにはミリアだけでなくアレンまでいた。



「(どうしてこの場にアレンがいるんだろう?)」



 アレン曰く『ここは僕の部屋だから、僕がいるのは当たり前でしょ!』と言っていたけど、あいつは出張で今日1日外出をしているはずだ。

 なのでこの時間はまだ外にいるはずなんだけど、どうして校内にいるんだろう?

 その理由が俺にはわからなかった。



「(まさかこの件の処理をする為に戻って来たわけじゃないよな?)」



 さすがにそれは俺の考えすぎか。いくらアレンでも突発的に起きた事件の処理をする為に外出先から戻ってこないだろう。

 これ以上考えてもわからないので、俺はこの件について考えることをやめた。



「僕がいない間にそんなことがあったんだ。大変だったね」


「他人事みたいに言うなよ。アレンはこの学校の責任者だろう?」


「そうは言っても他人事だからね。この問題に僕は関わってないし、対処しようがないよ」


「ぐっ!! 正論ばかりいいやがって‥‥‥」



 仮にもこの学園の長をしているんだから、少しはこの問題に興味を持て。

 いじめなんて学校を揺るがすような大問題が起こっているのに何で他人事なんだよ。1歩間違えればアレンの進退問題にまで発展する事柄なんだぞ。



「クリスさんの肩を持つわけではありませんが、アレン校長はもっと危機感を持つべきだと思います」


「ミリアさんがそんな風に言うって事は、僕の方にも仕事が周ってくるんだね?」


「はい、そうです。もしかすると今回の問題はアレン校長にまで火の粉が飛ぶかもしれません」


「どうして僕に火の粉が飛ぶと思ったの?」


「今回のいじめ騒動を起こした主犯格がジム・デービスだからです」


「ジム・デービス、ジム・デービス‥‥‥‥‥あっ!? わかった! ジム・デービスってデービス家の三男坊のことだよね!」


「はい。なのでデービス様がアレン校長に苦情を言ってくると思います」


「待て待て待て待て待て!! 2人だけで盛り上がっている所に水を差すようで悪いけど、ロイのことをいじめていた奴はそんなに凄い家柄なの!?」


「はい。デービス家はこの国の財務関連の職に就く、王国にとって切っても切れない関係です」


「ちなみに家を継ぐ予定の長男は既にお父さんの下で働いているんだよ!」


「もしかしてそのデービス? って奴はアレンの知り合いなの?」


「うん! まだ息子さんとは会ったことないけど、宰相時代はよく話してたよ」


「なるほどな。それならアレンに声をかけやすいはずだ」



 もしかするとアレン経由で息子の罪をもみ消そうとしてくるかもしれない。

 ミリアが心配しているのはその事だろう。彼女はデービス家がアレンを使って今回の事件の隠ぺい工作をしてくることに警戒をしているようだ。



「ミリアさんは心配しなくても大丈夫だよ。あの人は話せばわかってくれるから」


「そうなんですか?」


「うん! 横領や不正決算が横行している財務チームの中でデービスさんはまともな部類に入る人だから、僕達の主張を話せばわかってもらえると思うよ」



 おかしいな。ただの立ち話のはずなのに、アレンは今この国を揺るがすようなとんでもない暴露をしなかったか?

 知りたくもないのに、この国の闇を垣間見た気がした。



「(これ以上のことは俺が介入出来る話でもないし、あとはアレンに任せるか)」



 外部からの苦情対応は俺の専門範囲外だ。あとはアレンに任せよう。

 こういうことはあいつの得意分野なので、きっと上手くやってくれるはずだ。



「それでミリア、あの3人の処分はどうなるんだ?」


「ジム・デービスを含む彼等3人の処分は、2週間の停学と新入生剣技会の出場禁止となります」


「新入生剣技会? 何だそりゃ?」


「この学園に入学した新入生の剣技をお披露目する場ですよ!! 1年生の担任をしているのに何で知らないんですか!!」


「悪い悪い。俺もまだ新入生みたいなものだから許してほしい」



 入学して早々こんな大きな大会があるなんて思わなかった。

 どんな大会なのか俺もわからないので、帰ったら改めてこの学校の行事を確認してみるか。

 この前の校外学習といい、もしかすると俺が想像している以上にこの学校は校内行事が多いのかもしれない。



「そういえばクリス」


「何だ?」


「僕もクリスに話したいことがあるんだけど、今時間をもらってもいい?」


「いいよ、それにしても急に改まってどうしたんだよ? アレンらしくないな」



 いや、待てよ。前にもこんなことがあったな。

 あれは旅の途中、アレンがとんでもない隠し事を俺に話した時と酷似している。



「(アレンがかしこまっている話す時は、必ず俺に厄介事が降りかかるんだよな)」



 ただそれがどんな内容なのか俺にはわからない。

 アレンが何を言いだすかわからないので、俺は思わず身構えてしまった。



「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。たいしたことない話だから」


「本当か?」


「うん! クリスはこの前リリアちゃん達が連れてきたレッドベアーの事を覚えてる?」


「あぁ。やけに人間に対して従順なクマのことだろう?」


「うん。実はあのレッドベアーを調べた結果、持ち主の魔力を増幅する魔力石が体内に埋め込まれてたんだ」


「何だって!?」


「ちょっと待って下さい!! 2人は一体何の話をしているんですか!? 私には理解できません!!」



 確かにこんな断片的な会話では何の話かわからないな。

 俺やアレンは魔王を討伐する旅をしていたからなんとなく内容がわかるけど、王国で暮らしていたミリアには理解出来ないはずだ。



「わかった。今説明するよ」


「お願いします」


「ミリアは魔力石がどんなものか知ってる?」


「はい。中に魔力を溜めることが出来る特殊な石のことで、それを使用することによって使用者の魔力が増大するものですよね?」


「正解だ。よく勉強してるな」


「これぐらいのことは私にもわかります」


「それを知っているなら話が早い。今回の件はその石がレッドベアーの体内に埋め込まれていたんだ。賢いミリアならこの意味がわかるよな?」


「はっ!? もしかして校外実習の時に現れたレッドベアーは人為的に作られた物だったんですか!?」


「うん! その可能性は高いと思う」



 一体誰が何のためにこんな大仕掛けをしてまでレッドベアーをあの場所に連れてきたのだろう。

 魔力石のテストをするなら、研究所で試せばいいはずだ。魔物を使う必要はない。

 それなのにも関わらず校外学習の時を狙ってレッドベアーを放つなんて、何か意図があるように思えた。



「ただそうなると犯人の目的がわからないな。一体何がしたかったんだろう?」


「それは僕も同じ意見だよ。魔物の性能を試すテストなら、わざわざ1年生の校外実習を狙わないよね?」


「となると俺達が考えつかないような目的があって、あの場を狙ったって事か」


「たぶんね。今の僕達にわかることは、学園の中で何かしらの悪意が渦巻いていることだけだよ」


「悪意ね」



 やっと平穏な生活を送れると思っていたのに。またトラブルに巻き込まれるのか。

 今はリリア達を教えることに手一杯だというのに。こういう事をされると凄く困る。



「現状はそんなところかな。今はクリスがこの前倒したレッドベアーを研究施設の方に回して調べてもらってるよ」


「これが人為的なものか判断するのはその後になるのか」


「うん! 近日中に結果が出るから、もう少し待っててね!」



 別に結果を知りたくはないんだけど、聞かないといけないんだろうな。

 こういうトラブルには見舞われたくないのに。どうしてこうなるんだろう?



「それでアレン、俺への報告はそれだけか?」


「うん! 報告これで終わりだよ」


ってことは、まだ俺に話があるんだな?」


「うん! 実はクリスにお願いがあるんだ!」


「お願いだと? それはお願いという名の厄介な問題じゃないよな?」


「もちろん違うよ!」



 怪しいな。アレンが俺に頼み事をする時は大抵ろくでもない話なんだよな。



「(嫌な予感がするけど、話だけでも聞いてみるか)」



 話を聞かずに断るのも悪いので、俺はアレンのお願い事を聞いてみることにした。


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