第41話 クリスの裁定
「それは‥‥‥その‥‥‥」
「どうしたんだ? 何かお前達に不都合なことでもあるのか?」
言いよどむ3人を前にして俺はそう質問する。
出来るだけ穏やかな口調で話したつもりだったが怖かったのだろう。俺のことを見る3人の男子生徒は体を震わせている。
「(今回の件について、それだけ俺も怒ってるということだろう)」
もし俺が教師という立場でなければ、もっときつい口調になっていたに違いない。
それこそ騎士団の中でこんなことが起こってたら、もっと激しく怒っていたと思う。
「お兄ちゃん!! この人達がロイ君を教室に閉じ込めて彼のことをいじめてたの!!」
「ほぅ、そうなのか」
「いじめてたなんて人聞きの悪いことを言わないでください!?」
「そうですよ!? 俺達はロイに対して指導してたんです!? これはいじめなんかじゃありません!?」
「そうだよな、ロイ!! お前がちゃんと俺達の無実を証明してくれよ!!」
証明か。正直これはロイに対して脅しにも近いような発言だ。
もし俺達のいうことを聞かなければ、もっと酷いいじめをすると言っているように聞こえた。
「ロイ、正直に言ってくれ」
「僕は‥‥‥」
「ロイ君、勇気を持って!」
「僕は‥‥‥その‥‥‥」
駄目だ。こんな優柔不断な態度を取られては会話にならない。
きっと今ロイの頭の中ではどうすればいじめが軽くなるのか必死に考えているはずだ。
俺からすれば話してくれた方がいじめがなくなる可能性が高いと思うけど、その判断が出来ないように見えた。
「わかった。言い辛いなら無理に話さなくていい」
「すいません」
「謝らなくてもいい。いじめている人達を前にして、無理に話を聞こうとした俺が悪かった」
ロイの話は後で聞くとして、問題はこの3人だ。
先程から冷や汗をかいている3人は、この状況をなんとか逃れようと必死に言い訳を考えているように見えた。
「いじめの件は一旦不問にする。ただ今回の件は先生達に報告させてもらうから、覚悟してくれ」
「わかりました」
「ちょっとお兄ちゃん!? この人達を解放していいの!?」
「本人達が指導だと言ってる以上、指導なんだろう。いじめをしていたっていう決定的な証拠はない」
「う”っ”」
「残念ながら今の俺にそれを証明することは出来ない。疑わしいものは罰せられないんだ」
残念ながら俺はこの3人がロイをいじめていた所を見ていない。
リリアは不満かもしれないが、ロイが何も証言しない以上、この件に関してこれ以上追及することが出来なかった。
「俺達の無実が証明されてよかったな」
「あぁ。俺達はロイの指導をしていただけだから、この結果は当たり前だよ」
こいつ等、自分達に罰がないとわかった途端調子にのりやがって。
俺はあくまでロイの件は不問にすると言っただけだぞ。勘違いしてもらうと困る。
「ロイのことをいじめてないことは証明されたし、俺達は帰っていいんですね?」
「はぁ? 何を言ってるんだよ? 帰っていいわけがないだろう」
「どういうことですか!?」
「俺達がいじめをしてないって、今クリス先生が今言いましたよね!?」
「確かにロイへのいじめについては一旦保留にする。だけどお前達3人はリリアに対して暴行しようとしてただろう。その事について、まだ話が終わってないぞ」
ロイのことをいじめたことよりもそっちの方が罪が重い。
未遂で終わったとはいえ、俺の教え子に手を出したんだ。その罪はちゃんと償ってもらう。
「待って下さい!? 俺達はその子に何もしていません!?」
「何もしていない割には、か弱い女の子の手首を掴んで身動きを取れないようにしていたじゃないか」
「それは‥‥‥その‥‥‥」
「言い訳があれば言ってくれ。言い訳が出来ればの話だがな」
ロイの件については何も言えなかったが、この件に関しては俺も見ていたのでいくらでも反論が出来る。
3人はどうすればいいかわからずあたふたとしていた。
「そうだよ‥‥‥あれは僕のせいじゃない‥‥‥」
「何?」
「その女の子の身動きを取れなくしたのは僕じゃありません!! 全部レルベとセージが悪いんです!!」
「何?」
「先生!! あの2人がその子に乱暴しようとしてました! 僕は関係ありません!!」
「はぁ!? 何を言ってるんだよ、ジム!? その女の身動きを封じろって、お前が言ったんだろう!!」
「そうだそうだ!! 自分だけ被害者ぶって、美味しい所だけ持って行こうとしたのはお前だろうが!!」
やっぱりこうなったか。あの3人の仲間割れが始まり、ついには責任の押し付け合いが始まった。
正直に言って見るに堪えない光景だ。人が人に責任を押し付け合っている所がこんなに醜いとは思わなかった。
「(こいつ等は俺が今までのやり取りを見ていたことは知らないんだろうな。だからこんな無責任なことを言っていられるんだ)」
俺からしてみれば指示を出したお前が1番の悪だと言ってやりたい。
だが今の俺は学園の教師だ。感情で判断をせず、客観的に見て物事を判断しないといけない。
「俺から言わせてもらうと、お前等3人は同罪だ」
「同罪ってどういうことですか!? あの2人はともかく、僕は何もしてませんよ」
「お前は馬鹿なのか? 俺が状況を何も把握していない状態でノコノコと現れるはずがないだろう」
その言葉を言った瞬間3人の顔が青ざめる。
それで全てを察したんだろう。俺が今まで何をしていたかを。
「もしかしてお兄ちゃん、教室の外からずっとあたし達のことを見てたの?」
「さぁ、何のことかわからないな」
リリアはいぶかし気な目で俺の事を見てくる。
それは俺に対する不満を表しているのに他ならない。
彼女としてはもっと早く俺に出てきてほしかったのだろう。そのことを俺に目で訴えかけていた。
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