第40話 隠された怪我
「そろそろ潮時だな」
「えっ!?」
あいつ等はこれだけのことをやらかしてたんだ。
俺の他にミリアもこの光景を見ていることだし証拠も十分ある。
そろそろあのガキどもにお灸を据えてもいいだろう。
「ミリアはそのままここで待機してくれ。俺が合図をするから、そのタイミングで中に入ってきてほしい」
「わかりました」
よし! これで準備が整った。あとは俺が登場してリリアを助け出そう。
俺はわざとらしく音を立てて教室のドアを開けると、驚いた表情をする生徒達に対して不敵な笑みを浮かべた。
「おい、お前達。俺の可愛い生徒に何をしてるんだ?」
「おっ、お兄ちゃん!?」
「ようリリア。そいつを守るためにずいぶん体を張っていたようだな」
「もしかして、今のあたし達のやり取りを全部見てたの!?」
「あぁ。リリアはとても勇敢だったぞ。さすが俺の教え子だな」
俺に褒められたリリアは照れているように見えた。
自分が危機的状況にも関わらずこんな表情をするなんて肝が据わってるな。
もしかしたら彼女は将来大物になるかもしれない。
「さて、リリアの後ろにいるのは‥‥‥‥‥ロイか」
「お兄ちゃんはこの人のことを知ってるの!?」
「あぁ。校外実習の時ちょっとだけ関わりがあったんだ。確か君はアメリアと一緒の班だったな」
こんな所でこの子と出会うとは思わなかった。
レッドベアーに襲われて、茂みの中でびくびくしていた子がリリアといたことに驚いてしまった。
「クリス先生‥‥‥」
「お前達にいいたいことはあるけど、まずはリリアからその汚い手を放せ。話はそれからだ」
俺が怒っている事が伝わったのか、男子生徒達は大人しくリリアから手を放す。
2人の顔が青ざめていたことからもわかる通り、俺がどれだけ怒っていたか伝わったのだろう。
それがわかっているからこそ、こんなにあっけなく手を放したんだ。そうでなければ、もっと抵抗していたに違いない。
「リリア、大丈夫か?」
「うん! あたしは大丈夫だけど、ロイ君が‥‥‥」
「安心してくれ。俺が来たからにはもう大丈夫だ」
「わかった!」
「ロイもこっちに来てくれ。君にも聞きたいことがある」
「はい」
俺がロイを呼び寄せて彼の体を見た所、怪我をしているようには見えない。
顔も腫れあがっていなかったので、一見すると綺麗な体のように見えた。
「見た所怪我をしているようには見えないな」
「そうですか‥‥‥」
「そしたら制服脱いでくれないか? 出来れば君の上半身を見てみたい」
「制服を脱ぐんですか!?」
「ちょっ!? クリス先生!? それは‥‥‥」
「どうしたんだ? 制服の下にはお前達にとって何が都合が悪い事でもあるのか?」
「いえ‥‥‥‥‥ただここには女の子もいるので、服を脱ぐのはいかがなものかと‥‥‥」
「リリア」
「何?」
「ロイが上半身の服を脱いでも気にしないよな?」
「うん! あたしは大丈夫! むしろお兄ちゃんが服を脱ぐのは大歓迎だよ!」
「さりげなく自分の願望を口にするな!!」
さっきまでのシリアスな雰囲気が台無しだろう。
こんな切羽詰まった状況でも、リリアは変わらないんだな。
「クリス先生も脱ぐんですか?」
「こんな所で俺が脱ぐはずがないだろう。それよりも早く制服を脱いでくれ」
「わかりました」
ロイの制服を脱がせ、上半身を見せてもらう。
するとどうだろう。ロイの上半身には大量の青あざが出来ていた。
「これは酷い。こんなにたくさん青あざが出来ているのに、今までよく我慢していたな」
「すいません」
「ロイが謝ることじゃない。謝るのはこのあざをお前につけた奴だろう」
俺があの3人組を睨むと彼等の肩がビクっと震えるのがわかった。
その様子を見れば誰がこのあざをつけたのか一目瞭然だろう。
「ありがとう。君はあとで保健室に行ってその怪我を見てもらった方がいい」
「わかりました」
「あとはあいつ等にことの経緯を聞くだけだな」
俺があの3人の方を見ると顔を真っ青にさせはた目からわかる程汗をかいている。
その様子は見ると、彼らはロイの怪我について必死になって言い訳を考えているように見えた。
「それじゃあ早速聞かせてもらうけど、お前達はここで何をしていたんだ?」
動揺する3人を前に俺はそう質問した。
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