第39話 空き教室の攻防(リリア視点)

《リリア視点》


「おい!! お前は何でそいつのことを庇うんだよ?」


「あんな風によってたかって1人の子を殴ってたら、誰だって止めに入るでしょ!!」



 授業終わりの昼休み、あたしはとある男の子を助けるために空き教室で3人の男と対峙していた。

 この3人の顔は見覚えがある。たぶん彼等は全員Bクラスの生徒だ。

 校外実習の時この人達の顔を見たことがあるので、間違いないだろう。



「お前は知らないと思うけど、そいつはBクラスの落ちこぼれなんだよ!」


「まだ入学したばかりなんだから、落ちこぼれかどうかなんてわからないでしょ!!」


「それがそうでもないんだな」


「えっ!?」


「お前は知らないかもしれないけど、こいつはこの学校に裏口入学したんだよ!」


「裏口入学?」


「そうだよ! こいつの親がこの落ちこぼれを学校に入れるために多額の資金を寄付したって聞いてるぜ」


「そのおかげで本当はEクラスになる予定が、Bクラスに入れてもらえることになったんだ!」



 勝ち誇るように話す3人の表情がものすごく気に食わない。

 この話だって証拠がないただの噂話なのに、あたかも本当の話のように決めつけるなんて許せない。



「さっきから憶測ばかりで物を言って、どこにそんな証拠があるのよ!!」


「証拠はないけど根拠はある。この話は俺の父さんが言っていたんだよ」


「どういう事?」


「うちの父さんはこの国の税務調査の仕事をしていて、そいつの親が営んでいる商会の動きが怪しいと言ってたんだ」


「嘘!?」


「本当だよ。既に調べはついていて、入学する直前にこいつの親がこの学校に多額の寄付をしていたんだ。捕まるのも時間の問題さ」



 この人達の言ってることはわかる。もしかしたらこの子の親は子供の為を思って過ちを犯してしまったのかもしれない。

 でも‥‥‥。



「だからといって、この子に罪はないでしょう!!」


「お前はわかってないな」


「犯罪人を親に持つ子供も犯罪人になるんだよ!」


「俺達はそいつが悪さをする前にこうして懲らしめてるんだ!」


「そうだぞ! 被害が出る前に俺達が痛めつけてるんだから、お前もありがたく思え!」



 違う!! こんな考え方は絶対に間違っている!!

 確かにこの子の親は悪いことをしてしまった。でも、それだけの理由でこの子まで悪者扱いをするなんて間違っている。



「もういいんです」


「えっ!?」


「僕のことは放って置いてください。このままだと貴方まで巻き添えになってしまいます」



 体中痛めつけられてボロボロのはずなのに。それでもこの子はあたしのことを心配してくれる。

 だからこそこのままこの子を見捨てられない。何よりもこんな奴等に屈したら、お兄ちゃんの顔に泥を塗ってしまう。それだけは絶対に嫌だ!



「君も俺達の話は理解しただろう」


「わかったらならさっさとそこをどけ。どかなければお前も痛い目にあうぞ!!」



 確かに彼等の言う通りだ。今のままだと3対1、このまま戦っても勝ち目はない。

 頭ではわかってる。こんな戦いに勝てるわけないって。この子を置いて早く逃げろって、心が叫んでいる。



「俺達の言ってることがわからないのか?」


「さもないとお前もそいつと同じように‥‥‥」


「‥‥‥どくわけないでしょ」


「はぁ!? 今なんつった?」


「どくわけないって言ってるでしょ!! あんた達はあたしの言っていることが聞こえないの!!」



 こんな所で逃げてはお兄ちゃんに申し開きが立たない。

 あたしの村に来たお兄ちゃんは口は悪いが正義感に溢れ、誰よりも優しく誰よりも勇敢に戦っていた。



「(あの姿を見て、あたしはクリスお兄ちゃんを好きになったんだ)」



 もしお兄ちゃんがあたしと同じ状況だったら見て見ぬふりをするわけない!!

 こんな理不尽な仕打ちをしたやつのことを許すわけがないと思っている。



「貴方達は何を言ってるのよ!! この子はまだ何も悪い事をしてないんだから、罰なんて受ける必要はないでしょう!!」


「だから言ってるだろう。そいつの親が‥‥‥」


「さっきから親の話ばかりするけど、この子はまだ何もしてないじゃない!!」


「ぐっ!!」


「あんたたちはその事を口実にこの子を使って普段の憂さ晴らしをしたいだけでしょ!! 本当にみっともないわ!!」



 彼等がこの子をいじめている理由は何となくそんな感じがする

 きっと実技の授業で他の生徒よりも劣っていることに劣等感を感じており、その憂さ晴らしをしているに違いない。



「この!! 言わせておけば!!」


「おい、この女もやるぞ!! 身ぐるみをひん剥いて、俺達にたてつけないようにしてやろう」


「そうだな。それが手っ取り早い!」



 3人の魔の手が徐々に近づいてくる。

 正直に言うと怖い。自分よりも体格が大きい男の子が下卑た笑いをしながら、自分に向かって来るのがこんなに怖いとは思わなかった。



「(でも、こんな所でくじけてられない!!)」



 クリスお兄ちゃんはこれよりももっと酷い状況で、あたしのことを庇いながら1人で戦ったんだ。

 それに比べればこんな状況なんて紙屑同然の出来事だ。むしろあたし1人で対処出来ないとお兄ちゃんに笑われてしまう。



「おい、まずは女の手を封じるぞ。その後は俺から楽しむからな」


「いや、そこは俺からやらせてくださいよ」


「いやいや。俺が先でしょ」



 あたしの両手首を2人の男が掴んだ瞬間、教室の扉が大きな音を立てて開く。

 そちらに目を向けるとそこには昔あたしを助けてくれたヒーローが立っている。



「おい、お前達。俺の可愛い生徒に何をしてるんだ?」



 空き教室のドアの前に立つのは眉間に青筋を浮かべたクリスお兄ちゃんだ。

 絵本の中にしか存在しないと思っていた正義のヒーローがあたしの前に現れた。


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