第38話 新たな問題

 次の日の昼休み。俺は昼食を取る為に学生食堂、通称学食へ向かう。

 他の先生達は一流シェフが作った仕出し弁当を注文している中、俺が学食を利用しているのには理由があった。



「あそこの学食を使えば、昼食代は浮くはずなのに。何でみんな利用しないんだろう?」



 学食で出される料理はこの学校に所属する人間なら無料で食べることが出来る。

 それは教師である俺も例外ではない。

 あそこでは栄養満点の料理を無料で食べられる為、俺は毎日のように通っていた。

 

 

「それにあそこで昼食を食べるメリットも生まれた」



 俺が学食で昼食を食べていると、リリア達以外の生徒から声をかけられるようになった。

 生徒達の中でも特に声をかけてくるのはアメリアだ。

 彼女は校外学習の後から俺に声をかけてくるようになり、最近では昼食を食べながら剣術の話をしている。

 


「ただアメリアと話してるとリリア達が不貞腐れた顔をするんだよな」



 まるで『クリスお兄ちゃんはあたし達だけのもの!! 勝手に取らないで!!』と言わんばかりの表情をする。

 アメリアもそれを察知してリリア達と仲良くなろうとするものの、いまだに3人との距離感がつかめないでいた。



「でもアメリアは器用だから、リリア達ともその内仲良くなるだろう」



 今はそんなことより飯だ! 飯!

 午前中はずっと午後の授業の準備をしていて、お腹が減ってるんだ!

 今日は食堂のご飯をたらふく食べるぞ!



「うん? あれはリリアか?」



 誰も来なそうな空き教室の中にリリアがいる。

 彼女は背中にいる誰かを庇いながら、3人の男相手に何かを言っていた。



「ここからじゃよく聞こえないから、魔法を使うか。諜報インテリジェンス!」



 この魔法を使用すると教室内の声だけでなく、中の様子も見ることが出来る便利な魔法だ。

 だが欠点として魔法を使用している際は調べたい建物の壁を触っていないと効果がないことと、相手側にも感知されやすいという難点がある。



「だけどここにいるのは魔法慣れしている歴戦の猛者ってわけでもないし、この魔法を使っても気づかれることはないだろう」



 中にいるのはまだ魔法もろくに扱えない学生だ。

 素人の俺がこの魔法を使ったとしても、気づかれることはないだろう。



「クリスさん。そんな所で何をしてるんですか?」


「げっ!? ミリア!? 何でここにいるんだ!?」


「ちょうど食堂で昼食を取ろうとしたんですよ。そしたらクリスさんが空き教室でこそこそと怪しい行動をしているのを見かけたので、様子を見に来ただけです」



 ちょうどいいタイミングだ! せっかくだからミリアにもこの光景を見てもらおう。証人は多ければ多い程いい。



「(しかもミリアはこの学校の副校長だ。俺よりも信用がある!)」



 たとえ相手が言い訳をしたとしても彼女が味方になってくれれば反論出来ないだろう。この状況において、これ以上心強い味方はいない。 



「いい所に来てくれたな! ミリアも魔法を使って、この教室内を見てほしい」


「こんな空き教室の中を見ても意味ないですよ」


「いいから!! 早く中を見てくれ!!」


「わかりました。クリス先生が言うならそうします」



 面倒くさそうに魔法を唱えたミリアは俺と同じように教室の中を見る。

 するとさっきまでとは表情が一変して、焦った顔をしていた。



「クリスさん!? もしかしてこの中で行われている事って!?」


「あぁ。十中八九いじめだろうな」



 たぶん何かの拍子でリリアがその現場に出くわしてしまい、その子を庇う為に3人の男相手に大立ち回りをしているのだろう。

 昔からリリアは正義感が人一倍強かった。だからいじめの現場を見て見ぬふりが出来ず、この喧嘩に割って入ったんだ。



「何をそんなに悠長なことを言ってるんですか!? 早く介入しないと!?」


「待てよ。まだいじめだと決まったわけではないだろう」


「ですが‥‥‥」


「こういうのはちゃんと証拠を揃えないとダメだ。中途半端に介入してこの件が有耶無耶になったら、また同じことが起こる」



 もしそんなことになったら、それこそリリアが庇っている生徒がどうなるかわからない。

 下手をするといじめがより一層苛烈になる可能性もあるので、注意深く見守る必要がある。



「でもリリアがいるから、悪い事にはならないはずだ」


「本当ですか?」


「あぁ。リリアは小さい頃、村の中でガキ大将をしてたんだ。あんななよなよした奴等なんかに負けるはずがない」



 見た目とは裏腹に口は立つし、腕っぷしもその辺の男より強い。

 何よりここ2週間ちょっとの間俺が鍛えたんだ。その辺の奴等に負けないだろう。



「こんなにクリス先生に信頼されてるなんて、リリアさんが羨ましいな」


「羨ましい? 何で?」


「それはクリス先生が考えて下さい!!」



 ミリアは一体どうしたんだ? 急に不貞腐れた表情なんてして、可愛くないな。



「とりあえず今は様子を見よう。何かあったらすぐに突入するぞ!」


「わかりました」



教室内が緊迫した空気に包まれる中、俺達2人はリリア達の様子を教室の外から静かに見守っていた。


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