第42話 責任転嫁

「話は以上だ。3人はこれから生徒指導室で俺と‥‥‥」


「ちょっと待って下さい、クリス先生!?」


「うん? 確かお前の名前は‥‥‥」


「ジムですよ。1年B組のジム・デービスです!」


「ジムか。悪いな、名前を覚えてなくて」


「気にしないでください。それよりもクリス先生にいいたいことがあります」


「これだけ証拠も揃っているのに、まだ俺に対して言いたいことがあるの?」


「あるに決まってますよ!! 先程からクリス先生は証拠が揃っていると言っていますが、他の先生達は貴方の話を信じるんですか?」


「どういうことだ?」


「言葉の通りですよ。クリス先生ってこの学園内では発言力が低いじゃないですか。そんな人の話をまともに聞く人間なんてこの学校にいるのかなと思って質問しました」


「‥‥‥‥‥それは脅しと受け取って良いんだな?」


「やだなぁ。人聞きの悪い。これはあくまで僕の推測なので勘違いしないで下さい」



 確かにジムの言う事は一理ある。悔しいけどこいつの言う通り、俺の発言力は学園内でもかなり低い。

 今回起きた出来事を話したところで、真面目に話を聞いてくれる奴なんてアレンぐらいだろう。全員が与太話として流すのが関の山だ。



「それにクリス先生は他にも勘違いしていることがあります」


「それは何だ?」


「僕達がその子のことを暴行しようとしていたことですよ。僕達は彼女の手首を掴んだだけで、暴行なんてしていません」


「俺の証言があるだろう。それじゃあ駄目なのか?」


「それだけじゃ証拠にならないと言ってるんですよ。せめてもう1人ぐらい証人がいれば話は違いますけどね」


「それならここにロイがいる。この子に証言をさせればいい」


「そいつが本当に証言するのかな? 証言したら、あいつはどうなるんだろう?」



 こいつ、やることがあまりにも卑劣すぎないか?。

 ジムはロイに脅しをかけることで、今回のことを全てなかったことにするつもりのようだ。



「(だがお前の思惑通りに物事は運ばないぞ)」



 俺だって伊達に2年間騎士団の団長をしていたわけではない。

 不正の温床となり腐敗しきっていたあの騎士団の団長を2年間勤めていたんだ。こんな浅知恵しか使えないガキに負けるわけがない。



「なるほどな。ジムの言い分としてはここにいる証人が俺しかいないから、リリアへの暴行未遂は無罪といいたいんだろう?」


「そうです! わかってくれましたか?」


「あぁ、お前の言い分はわかったよ。なら証人がもう1人いればいいんだな?」


「えっ!?」


「しかも俺よりも地位が高い人物なら尚のこといいんだろう? そういう人物に1人だけ心当たりがある」


「一体どういう‥‥‥‥」


「話は全て聞かせてもらいました」



 俺が開けた扉から満を持してミリアが登場した。

 この学園のNo2が突然登場したことに、ジムだけでなくリリア達も驚いていた。



「あれれ?? ミリア副校長じゃないですか!? どうしてこんな所にいるんですか!?」


「クリス先生はまたわざとらしい事を言うんですね。全部わかってるくせに」


「何のことかさっぱりわからないですね」



 リリア達がいる手前惚けているが、これも俺の計算通りだ。

 あの3人が追い詰められたら最終手段として、学園の中で最も発言力の低い俺を潰そうとするのは容易に考えられる。

 だから俺はそのための対策を考えた。俺の地位が低いなら、俺よりも地位が高くて発言力がある人間を用意すればいい。

 その条件にぴったりと当てはまるのがミリアだった。



「何でここにミリア先生がいるんですか!?」


「そんなことはどうでもいいことです。それよりもジム・デービス、レルベ・マートル、セルジ・イシュタール」


「「「はい!?」」」


「3人には話があるので、私と一緒に生徒指導室に来てください」



 おお怖い怖い!? やっぱりミリアを怒らせてはいけないな。

 ジムは俺1人だけなら言いくるめられると高をくくっていたのか、ミリアが登場した途端顔が青ざめていく。

 その一方ジムの取り巻きであるレルベとセルジは膝をついて地面に顔をうずめているので、自分が逃げられないと悟ったのだろう。

 自分達が追い詰められてようやく罪の重さを知ったようだ。



「ロイ君とリリアさんからも事情を聞かせてもらいます。もうすぐここに応援の先生達が来るので、その場で待機してください」


「「はい!」」


「応援の先生の手配まで済ませてるなんて、ミリア先生は手際がいいんだな!」


「こんなことが起きたんですから当たり前です!!」


「まぁ、そうだよな」



 ここで手をこまねいているようじゃ、この学園の副校長は務まらないだろう。

 こういう対応に関してはこの学校に長くいるミリアの方が断然手際がいい。



「一体いつ応援の先生達を呼んだんだ?」


「クリス先生が教室に入った時に魔法を使って応援を呼びました」


「可愛い顔をしてえげつないことをするね」


「貴方には言われたくありません!!」



 可愛い見た目とは打って変わってやることはえげつないな。

 さすがこの学園の副校長をしているだけはある。

 これからは俺もミリアだけは敵にまわさないようにしよう。



「遠くから足跡が聞こえてきたな」


「応援の先生方が来たようですね」


「それならこの事件も一段落だな。それじゃあ俺はこれで帰るよ!」


「何を言ってるんですか?」


「えっ!?」


「クリス先生もこの事件の当事者なんですから、これから生徒達の事情聴取をしてもらいます」


「俺もするの!?」


「当たり前じゃないですか!! クリス先生にはきびきびと働いてもらいます!!」



 前言撤回だ。ミリアは敵にも厳しいが味方にも厳しい人間だった。

 こういう人が上に立つと組織が引き締まっていいけど、周りの人間は大変だ。

 それこそ馬車馬のように働かされてしまい、疲弊することが目に見えている。



「ほら、先生達が来ましたよ。クリス先生、この状況を説明してください」


「‥‥‥はい」



 俺はこの場から逃げることを諦めて、教室に入って来た先生達に状況を説明する。

 それからこの事件の当事者である5人を別々の部屋に連れて行き、事情を聞くことになった。


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