第36話 生徒への思い
校外学習が終わり学校に戻ってから、俺は校長室でミリアに怒られた。
あんなに怒っているミリアの姿は見たことがない。
それこそ俺が一言いうとその何十倍の言葉が返ってくるという有様であり、今後彼女だけは敵に回さないようにしようと心に誓った。
「クリス先生、わかりましたか? 私やアレン校長は出来るだけ貴方のことを庇いますが、度が過ぎると庇えなくなることだってあるんですよ」
「はい」
「それがわかったら次回の授業はある程度カリキュラムに沿ってやってください。今回の件について、他の先生達には私が説明して回ります」
「悪かったな。色々と迷惑をかけて‥‥‥」
「全然迷惑なんてかかってませんよ。むしろクリスさんがこの学校に来てくれてよかったです!」
「そうなの?」
「はい! だってあの魔王討伐パーティーにいたメンバーが生徒達に剣を教えてくれるんですよ。アレン校長同様に、私もある程度のことは目を瞑ります」
「ありがとう」
ミリアがこんなことを言うのは俺の指導方針をある程度理解しているからだろう。
彼女は彼女で俺のことを思って叱っていることがわかった。
「それではクリス先生へのお説教はこのぐらいにしましょう」
「そうしてくれると助かる」
「今までのことは大目に見ますので、明日からしっかりと生徒達に剣術を教えてください!」
「わかった」
これ以上ミリアの怒りを買いたくないので、これからはある程度カリキュラムに沿って授業をするか。
今までは独自色が強すぎたので、自分の色をあまり出さないように注意しよう。
「それにしても今日はレッドベアーが多かったですね」
「そうだな。でもあの道を外れた所にはもっとたくさんのレッドベアーがいるんだよ」
「へぇーーー、そうなんですか‥‥‥」
「もしかしてミリアは知らなかったの?」
「はい! あの山には風鳥パラギアスやドレインスネイクが出現する話は知ってましたが、そこにレッドベアーまでいるとは思いませんでした」
博識のミリアが知らない話があるなんて珍しいな。
この学校に俺よりも長く在籍しているので、この話も知っていると思ってた。
「何はともあれ無事に校外学習が終わってよかったね」
「そうだな」
レッドベアーが出現した時はどうしようかと思ったけど、無事に終わってよかった。
怪我人は出たもののフィーナのおかげで死人は出なかったし、生徒達にとってはいい経験となったはずだ。
「それじゃあ今日はこの辺にしよう!」
「そうですね! それではクリス先生、今日はお疲れ様でした」
「あぁ。ミリアもお疲れ様」
そう言って俺は校長室を後にする。
俺は自分の部屋へと戻る為、誰もいない廊下を歩いた。
「それにしてもミリアは色々と考えているんだな」
普段周りの教師陣から何も言われないのはミリアのおかげに違いない。
もちろんアレンの力もあるとは思うけど、今日の発言を聞いてミリアが俺をフォローする為に裏で暗躍していることがよくわかった。
「俺ももう少し頑張らないとな」
この3年間でリリア達を強化する計画は既に考えてある。
あの3人はまだまだ教えたいことが山程あるので、これからも頑張ってもらおう。
「やっぱりもう少し基礎トレーニングをやった方がいいな」
この2週間毎日基礎トレーニングをしていたおかげで、疲労した体の使い方というものをあの3人は覚えてきた。
それは今日の校外学習でも如実に出ている。あの3人が山を登っても息一つ切らさなかったのはここ最近行ったトレーニングの成果だろう。
「よし! 明日からまた頑張るか!」
3人の成長に確かな手ごたえを感じながら、俺は決意を新たに自分が住んでいる部屋へと帰った。
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