第33話 迫りくる脅威(リリア視点)

《リリア視点》



「リリアさん、本当にこっちの道で合ってるんですか?」


「うん! ここを真っすぐいけば、きっと頂上までの道が‥‥‥‥‥ない!?」



 地図を頼りに歩き続けた結果、あたし達が辿り着いたのは切り立った崖だった。

 その高さは5m~6mもあり、今のあたし達の力では到底登ることが出来ない。

 そのぐらい高い崖が目の前に現れた。



「リリアさん」


「何?」


「これ以上先へは進めないようですが、どうするおつもりですか?」


「どうするったって、引き返すしか‥‥‥」


「リリアは帰り道がわかるの?」


「わから‥‥‥ない」



 ここに来るまでの途中、目印も何もつけずに歩いていた。そのせいで元の道への戻り方がわからない。



「(このまま闇雲に歩いていても余計迷子になるんだろうな)」



 八方塞がりの状況になる中で、その事だけはわかった。

 


「一体どうするんですか!! このままでは私達、遭難してしまいますよ!!」


「そうはいってもしょうがないじゃん。ここまで来ちゃったんだから」


「全くもう。こんなことになるのなら、最初から私が地図を見るべきでしたわ」


「でも、ノエルも方向音痴」


「地図を上下逆さまに見ていたレイラさんには言われたくありません!!」


「喧嘩はやめよう!!! これ以上言い合いをしても何も解決しないよ!!!」


「「リリア「さん」が言わないで「下さい」!!!」



 どうしよう。ノエルちゃんだけならまだしも、いつもは温厚なレイラちゃんまで怒っている。

 ノエルちゃんが怒ってるのはよく見かけるが、レイラちゃんが怒る事なんて今までなかったので驚いてしまった。



「(困ったな。クリスお兄ちゃんならこんな時どんな行動をするだろう)」



 あたしは必死になってクリスお兄ちゃんがどう行動をするのか考える。

 そしたらおのずと自分達がこれから何をすればいいのかわかった。



「あっ!? いいこと思いついた!」


「何を思いついたの?」


「みんなでこの崖を登ろう!」


「正気ですの!? この切り立った崖を道具もなしに登るなんて、自殺行為です!?」


「でもお兄ちゃんがいたらこの崖を登ろうって言うと思わない?」


「‥‥‥‥‥確かに」


「クリスなら言うと思う‥‥‥‥‥」


「なら登るしかないよ! 幸いこの崖にはでっぱりが多いから登りやすいと思うよ!」



 クリスお兄ちゃんならきっと、『このぐらいの崖なら余裕だろう!』とかいって、悠々と登り始めるに違いない。

 それこそ口笛を吹きながら何でもないように登り、みんなを鼓舞するだろう。

 ノエルちゃんとレイラちゃんもその姿がありありと浮かんだのが、あたしの提案に対して文句を言う事はなかった。



「それじゃあ早速この崖を登ろう!」


「おーーー!」


「2人共待って下さい!?」


「ノエルちゃんどうしたの?」


「やっぱりこの崖を登りたくないの?」


「違います!? 今この近くで獣の声が聞こえませんでしたか?」


「獣の声?」


「そんな声聞こえた?」


「聞こえましたよ!? 2人共耳を澄ませて下さい!? 遠くから獰猛な魔物の鳴き声が聞こえてきませんか?」



 あたしとレイラちゃんが黙ると森の中から『グォォォォ』と叫ぶ獣の声が聞こえてくる。

 そしてその声は徐々にあたし達の方へと近づいているような気がした。



「この鳴き声は聞き覚えがある!」



 この鳴き声はクリスお兄ちゃんとランニングをしていた時に聞いたことがある。

 その魔物はいつもあたし達に対して果敢に挑んでくるが、クリスお兄ちゃんがワンパンで倒してしまい気絶してしまうちょっと残念な魔物だ。

 その魔物の名前は‥‥‥‥‥。



「レッドベアーだ!?」


「リリアさん!! 静かにして下さい!! 大きな声を出すと見つかってしまいます!?」


「ごめん!?」



 自分の手で口を塞いでいる間も頭の中はずっと混乱していた。

 物事を冷静に考えているつもりだけど、どうしても頭の中で考えがまとまらない。



「(どうしてこんな所にレッドベアがいるの!?)」



 この場所はいつもクリスお兄ちゃんと走っているランニングコースではないし、あの場所から遠く離れている。

 それなのにレッドベアーがこんな人里近くの道に出るなんて思わなかった。



「何であの魔物がここにいるの?」


「それはわかりません。でも幸いなことに相手は私達の存在に気づいていません。逃げるなら今です」


「わかった」


「私が先導する。2人はついてきて」



 そういうとレイラちゃんは茂みに隠れながら率先して動き出す。

 あたしとノエルちゃんは先を進むレイラちゃんの後をついていく。



「茂みを揺らす程度ならレッドベアーは気にしないと思う。だから不自然な音を鳴らさないようにしよう」


「わかりましたわ」


「足元に小枝とか落ちてるから、進むときは踏まないように注意して。私も進んでいる時に見つけたら出来るだけ取り除くようにする」



 そういうと歩きながら、レイラちゃんは足元に落ちてる小枝を手慣れた手つきで取り除いていく。

 慎重に歩くレイラちゃんは普段の眠そうな姿とは違い、真剣な面持ちをしていた。



「(たまに思うんだけど、レイラちゃんって何者なんだろう?)」



 剣術が上手いだけでなく、魔物との遭遇戦にも慣れている感じがする。

 今まで戦場で戦っていたような、歴戦の戦士のような風格がレイラちゃんから感じられた。



『ボキッ』


「あっ!?」


「みんな!! 走って!!」



 レイラちゃんの合図と共にあたし達は走り出す。

 枝を踏んだ音はレッドベアーにも聞こえていたようで、あたし達の姿を見つけるとものすごいスピードで追いかけてきた。



「レイラちゃん!! もう追いつかれるよ!!」


「諦めちゃダメ!! 今は精一杯逃げる!!」



 息が苦しい。心臓はバクバクと鳴り響き、足は棒のようになって思うように動いてくれない。

 ただそんな状態でもあたしは必死になって体を動かす。だって追いつかれたらあの魔物に殺される。だから必死になって走った。



「(まだお兄ちゃんに告白さえしてないのに。こんな所で死にたくない!!)」



 やっと愛しの人に会えたのに。こんな所で死ぬなんてやだ!!

 その一心であたしは無我夢中に体を動かした。



「きゃっ!?」


「「リリア!?」さん!?」



 地面から隆起していた木の幹に足を引っ掻けてしまい、その場に転んでしまう。

 その隙をレッドベアーが逃すわけがない。後ろを振り向くとレッドベアーの魔の手がすぐそこに迫っていた。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 迫りゆく死の恐怖のせいであたしは甲高い声をあげてしまう。

 その声はノエルちゃんやレイラちゃんだけでなく、この山林一帯に響き渡った。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは本日の19時に投稿しますので、よろしくお願いします。


最後になりますがこの作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。

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