第31話 山の異変
俺とフィーナが山頂についてからおおよそ1時間が経過した。
幸いなことにこれまでゴール地点にたどり着いた生徒達は誰もいない。
俺達が1番早くここにたどり着いたようだ。
「それにしても朝から酷い目にあったな」
俺がこんな思いをしたのも全部リリア達のせいだ。
あいつ等が俺に過剰な要求をしてきたせいで、必要以上に体力を消費してしまった。
「(まだまだ仕事はたんまりと残っているのに、もう部屋に帰りたい)」
そう思うぐらい俺は疲弊していた。
「クリスが疲れ切った表情をしてるなんて珍しいわね」
「誰のせいでこんなことになったと思ってるんだよ?」
「なんのことかしら?」
「この野郎!! 惚けた顔をして!! 俺のことを見捨てた癖によく言うわ!!」
フィーナがリリア達との間を取り持てば、彼女達も落ち着きを取り戻したはずだ。
それなのにも関わらず見て見ぬふりをするなんて許せない。
そのせいで全力でこの山を登らないといけなくなったのに。何でフィーナはそんなに元気なんだ?
「そういえばフィーナ」
「何よ?」
「さっきスタート前にリリア達と話していたけど、一体何を話していたんだ?」
「別に。たわいもない世間話を話してただけよ」
「俺はそのたわいもない世間話が聞きたいんだよ!!」
フィーナの事だ。きっとリリア達に対して、何かよからぬことを吹き込んでいたに違いない。
俺が目を離した隙にリリア達と何を話していたのか。その内容が凄く気になっていた。
「ほら、また救援信号が上がってるわよ。与太話をしてないで、早く行きましょう」
「わかってるよ。行くぞ!」
俺は体を魔法で強化し、救難信号が出た場所まで一気に駆け抜ける。
後ろからフィーナが追ってきている所を確認しつつ、俺は助けを求めている生徒達の所へと向かった。
「ひぃ!? くっ、くるなぁーーー!?」
俺の眼前には血だらけになった男子生徒がいる。
その生徒は後ずさりをしながら体長4mを超えるレッドベアに襲われていた。
「グォォォォォォォ」
「ひぃ!?」
「うちの生徒に何やってんだごらぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
跳躍した勢いそのまま、俺はレッドベアの頭にかかとを落とす。
するとどうだろう。『バキバキッ!』という心地よい音と共にレッドベアは地面へと突っ伏してしまう。
「大丈夫か?」
「はっ、はい!?」
「怪我をしている所を見せろ。もしかしたら、俺1人でなんとかなるかもしれない」
急いで男子生徒の怪我を見ると右腕と右胸の肉がえぐられている。
右胸の怪我は幸いなことに肺に届いてないので即死は免れたが、出血が多すぎるのでこのままでは死んでしまう。
「クリス! その子の怪我の状態はどうなってるの!?」
「ちょうどよかった! この怪我は俺では治せないから、フィーナに任せてもいいか?」
「わかったわ! うわっ!? 凄い事になってるわね!? 今治すからちょっと待ってて!?」
俺と役割を交代したフィーナは男子生徒に治癒魔法をかける。
彼女がかけた回復魔法の所から緑の光が溢れ、怪我をしたところが徐々に塞がれていった。
「(フィーナが治癒魔法をかけてくれるなら、あの生徒もすぐに回復をするだろう)」
性格に難はあるけど、彼女の治癒魔法は世界で3本の指に入る程の腕前である。
命の灯が消えない限り欠損部位まで修復することが出来る彼女の治癒魔法ならすぐに治るはずだ。
「フィーナが頑張ってるんだから、俺は俺のやることをやらないとな」
今日の校外実習は3人一組のパーティーで挑んでいる。
となるとこの辺りに残りの2人がいるはずだ。
「おーーーい、レッドベアは倒したぞ!! この班のリーダーはいないのか!!!」
「はい! ここにいます!!」
「そしたらこっちに来てくれ。何が起きたか事情を聞きたい」
茂みから出てきた女の子はオレンジの綺麗な髪をなびかせて歩いてくる。
その生徒はエメラルグリーンの瞳が特徴的の綺麗な女の子だった。
「(凛々しい顔立ちをしていて綺麗だな)」
リリア達と同じかそれ以上に綺麗な女子生徒は真っすぐ俺の方を見つめている。
その真っすぐで曇りなき眼は好感が持てる。将来はこういう子が騎士団で活躍してくれるといいな。
「君がこのグループのリーダーなの?」
「はい! 騎士クラス1年B組のアメリア・ワトフォードです。先程は助けていただき、ありがとうございます」
「(この生徒はものすごくいい子だな)」
ちゃんと頭を下げてお礼を言える所に好感が持てる。
この校外学習で俺が助けた生徒達がみんな貴族のぼっちゃん達ということもあり、アメリア以外の生徒から一切お礼を言われなかったので余計にそう思った。
「それで先生、ジュリアスは無事なんですか!?」
「ジュリアス? あぁ、レッドベアに襲われていた男子生徒のことか」
「はい!」
「あいつなら大丈夫だ。人の欠損部位を復元させられるほどの力を持つ
「そうですか。よかった」
仲間の無事を喜ぶあたり、アメリアは他の生徒達とは違い根が腐ってないようだ。
出来ることなら彼女にはこのまま成長してほしい。
もしこの子がうちの騎士団に入団することがあれば、パーカー副団長の下に置いて鍛えてもらうか。
「アメリアにジュリアスか‥‥‥あれ? あと1人の班員はどこにいるんだ?」
「ロイの事ですか? 彼ならあそこの物陰で隠れています」
「あそこにいる気弱そうな男子生徒が残りの班員か」
「はい、そうです!」
こんなことを言うのは失礼だけど、なよなよしていて気が小さそうだな。
アメリアと比較するのは悪いと思うけど、これだとどちらが男なのかわからない。
「それでアメリア、ここで何があったんだ?」
「私達もわかりません。指定されたルートに沿って山を登っていたら、突然レッドベアが現れまして‥‥‥」
「なるほどな。またレッドベアーが現れたのか」
「またってどういうことですか?」
「言葉の通りだよ。今日はアメリア達みたいに、大勢の生徒がレッドベアーに襲われてこの登山をリタイアしてるんだ」
その数は既に10組を超えている。例年だとこの校外学習で脱落者が出ることはほぼないらしい。
そう考えると今回の校外学習は異常だ。まるで何者かが意図的に生徒達を襲っているようにも見える。
「私達の班の他にも脱落者がいるんですか!?」
「あぁ。しかも今まで俺が助けた班の連中もアメリア達の班と同じ状況だったんだ」
学校指定のルートを歩いていたらいきなりレッドベアーに遭遇したと全員が口を揃えて言っていた。
最初はたまたま一般登山道に紛れ込んだレッドベアーが出現したのかと思っていたが、これだけ被害が多いと何者かが意図的に仕組んだ事件のように思えた。
「昨日リリア達を山に連れて来た時は1体もレッドベアーを見なかったのに、一体どうなってるんだ?」
あの時は親子連れのブラックウルフを見ただけで、他の魔物なんていなかった。
それなのにも関わらずこれだけの数のレッドベアーが突然出現するなんて、何かあるとしか思えない。
その何かがわからず、俺はその場で首を傾げることしか出来なかった。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは本日の19時に投稿しますので、よろしくお願いします。
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