第29話 敵か味方か
「リリア、ノエル。大丈夫だよ」
「何が大丈夫なの?」
「そうですわ! あの人は明確に私達の敵ですよ!」
「大丈夫。フィーナはアレンと付き合ってるから」
「えっ!?」
「そうなんですの!?」
「そうだよ! ねっ、フィーナ!」
「レイラちゃんの言う通りよ。私は今アレン・エレオノールと結婚を前提にお付き合いをさせてもらってるわ」
おいおいおい!? こんな所でアレンと結婚前提の付き合いをしていると公言していいのかよ?。
俺が前にアレンとその事について話した時、あいつは結婚する気なんて全くなさそうだったぞ!?
「(この前酒場で飲んでいた時、歯切れの悪い答えが返ってきたから間違いない)」
なので俺の推測はほぼ100%当たっているはずだ。
フィーナは早くアレンと結婚したいみたいだけど、その話は当分先になると思う。
「けっ、結婚を前提にお付き合いしているんですか!?」
「そうよ。アレンとクリスと私の3人で魔王を倒した後、アレンが私に告白してくれたの」
「すっ、すごいですわ!!」
「あの朴念仁で有名なアレンお兄ちゃんが告白!? 一体どんな手を使ったのか知りたいです!」
リリアとノエルから羨望の眼差しを浴びるフィーナだが、アレンが彼女に告白する経緯を知っている俺からすれば複雑な心境だ。
魔王を倒した後すぐ、フィーナはアレンに迫った。それはもう強引に。
『何で私と結婚してくれないのよ!! 私達は固い絆で結ばれてたじゃない!!』
魔王城からこの国に戻る途中、こんなことをずっと言われていたら誰だって堪えるだろう。
その後もフィーナから熱烈なアプローチを受け続けた結果、アレンはフィーナに根負けして付き合うようになった。
「(あの2人が付き合っている姿を見て、結婚相手は慎重に選ぼうと思ったんだ)」
この国に戻ってきてから、毎日疲れた顔をするアレンを見てそう思った。
「(俺はアレンとは違う!! 付き合う女性はおしとやかで清楚な人を選ぶ!!)」
あんな風に自分本位に人を連れまわすような人を将来の伴侶にはしない。
そう強く決心したはずだった。
「なのに‥‥‥」
「お兄ちゃん!!」
「クリス君!!」
「クリス!」
「はい!!」
いつの間にか俺の目の前にはフィーナよりもあくの強い子達がいる。
その子達がフィーナより強引に迫ってきて、俺もいつ根負けするかわからない。
あの時はアレンのことを見て笑っていたけど、段々と俺もアレンの事を馬鹿にし辛い状況になっていた。
「クリス、あんたいい教え子を持ったじゃない」
「そうか?」
「そうよ! レイラちゃんはもちろん、リリアちゃんとノエルちゃんもものすごくいい子じゃない!」
「フィーナお姉ちゃんにそう言われると嬉しいな!」
「私も同感です!」
何故だ!? 俺がちょっと目を離した隙に、何故あの3人は仲良くなっているんだ!?
久々にリリア達と会った時、ずっと誰かに似ているとは思ってたけど、それはフィーナだったのか。
あの3人を見ているとなんだか嫌な予感しかない。特にリリアはフィーナのことをものすごく慕っているので、何かよからぬことが起きそうな気がする。
「クリス、大変だね」
「レイラ、お前ならわかってくれるか? 俺の苦労を」
「ごめん、それはわからない」
「ガクッ」
俺の心のよりどころであるレイラにまでそう言われてしまった。もう立ち直れない。
唯一俺の気持ちをわかってくれるはずのアレンもいないので、寂しい気持ちになった。
「ちょっとクリス、何肩を落としてるのよ」
「今なら俺、アレンの気持ちがわかるよ」
あいつは今までこんな大変なことに巻き込まれていたんだな。
悪いな、アレン。今まで馬鹿にして。
もしかしたら俺はお前の境遇を馬鹿に出来ないかもしれない。
「それでお兄ちゃん! あたし達はどこで受け付けをすればいいの?」
「そうですわ! せっかくですからクリス君に案内してもらいましょう」
「だぁぁぁぁぁぁ!! 2人共俺の腕を取るのをやめろ!!! 周りから変な誤解をされるだろう!!!」
最近俺の指導方針をめぐり学園内で悪目立ちをしているんだ。
こんな所を他の教師陣に見られたら、俺はこの学園から追放されてしまう。
追放されるのは近衛騎士団だけで十分だ。
「ぷぷっ。旅をしていた時とは違ってモテモテね、クリス」
「フィーナ‥‥‥覚えてろよ」
唯一俺を助けてくれそうなフィーナがこの対応だ。
たぶんフィーナはリリア達の味方になったのだろう。
俺は孤立無援の中、この状況を逃れないといけないらしい。
「それじゃあお兄ちゃん、受付に行くよ!」
「クリス君、一緒に行きましょう!」
「おっ、おぅ」
「レッツゴー!」
右にはリリア、左にはノエル。そして後ろにはレイラという美少女達3人に連れられて俺は先生達が待機している受付へと向かう。
心の中で必死に助けを呼ぶがその叫びは誰にも届かず、たまたま受付の手伝いをしていたアレンにその姿を見られ笑われてしまった。
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