第26話 事前演習

 校外学習前日、俺はいつも通りリリア達を山へと連れて行く。

 だが今日はランニングをする為にこの山に入ったわけではない。

 魔物との戦闘訓練をする為にここへ来た。



「3人共、準備は出来てるか?」


「はい!」


「もちろんです!」


「いつでも大丈夫!」



 武器を手にリリア達はやる気十分だ。

 腰に剣を携えて、魔物と戦う準備も出来ている。

 この調子ならいつ魔物が飛び出してきても大丈夫だろう。



「(数日前からこの校外学習に向けて、準備をしたかいがあったな)」



 ミリアに校外学習の内容を言われた次の日から鋼鉄製の剣を使った授業に切り替えた。

 そこで丸太を敵に見立てて切る練習をしたり、3人1組になって魔物を倒す訓練を行い、今までの基礎的な授業とは違いより実践に近い授業を行った。



「(ここまで入念に準備をしたんだから、摸擬練習に気合が入るのも納得だな)」



 3人共早く魔物と戦いたくてうずうずしているように見える。

 俺としても事前準備の仕上げとして、早く魔物と戦わせてあげたかった。



「それじゃあ出発するぞ!」


「「「はい!」」」



 元気いっぱいの彼女達を連れて、俺達は山の中へと入った。

 木が生い茂る山のふもとを音を立てないようにして歩いていく。

 30分程山を歩いた時、俺はあることに気づいた。

 それは俺だけでなく他にも気づいた人がいたようだった。



「クリス君」


「何だ?」


「さっきからずっと歩いていますけど、全然魔物がいませんね」


「そうだな。こんなはずじゃなかったんだけど‥‥‥」



 俺達がランニングで使っているコースにはたくさんの魔物が出てきたのに、国が整備した道には1体も出てこない。

 これでは山の中をただ散歩しているだけだ。あまりに平和過ぎてあくびが出そうになる。



「道が変わるだけで、こんなに魔物が出ないものなんだな」


「ある意味人間と魔物の住みわけが出来てるよね」


「だな」



 あの魔物達は賢いから、人間の住んでいる地域には出てこないのだろう。

 人間と魔物との共存が出来ており、お互いに理想的な生活が送れている。



「なるほどな。他の先生達がこの山を校外学習の場所に指定したのも納得だ」



 国が整備した道には殆どモンスターが出ないから、教師陣もこの場所を校外学習の場所に選んだに違いない。

 ミリアから渡された書類の表紙には『魔物との戦いに慣れる為に行う実践的な学習!』と書かれていたが、『山登りをして仲間達との絆を深める学習!』に変えた方がいいんじゃないか?

 そう思うぐらい山の中は平和だった。



「リリア」


「何?」


「以前裏山には凶悪な魔物が出現するって言ってたけど、国が整備した道に魔物は出ないのか?」


「うん! 魔物なんて滅多に出てこないし、出てきたとしても滅多なことでは人を襲わないみたいだよ」


「それならこの校外学習は何のためにやるんだ?」



 魔物との戦いに慣れる為にやるって書かれてるのに、その魔物が出てこないんじゃ本末転倒だ。

 これでは山に入った意味がない。俺達は午後の授業時間を使ってピクニックをしているようなものだ。



「他のクラスの先生達が山に入って魔物との摸擬戦をやらなかったのはこういう理由だったのか」



 校外学習に出かけても殆ど魔物が出ないなら、摸擬戦等やる意味がない。

 だからわざわざこの山に来てまで、戦闘訓練をしなかったんだ。



「(他のクラスの教師達が生徒達に授業中剣を握らせていたことには何の意味もなかったんだな)」



 そう考えるとこの授業をしている意味がなくなってしまう。

 ミリアは散々俺に対して危機感を煽っていたが、実際はただのピクニックだ。

 当日は剣の代わりにお茶とお弁当を持参してこの山を登った方がいいと思う。

 そっちの方が学友との仲も深まると思うので、俺はその案をミリアに押したい。



「クリス」


「何だ?」


「あそこに魔物がいるよ」


「本当か!?」


「うん! ブラックウルフの親子がいる」



 レイラの指差す方を見ると確かにブラックウルフの親子がいる。

 ただその親子は木陰に座って気持ちよさそうな表情で寝ていた。



「とりあえずあの親子と戦っておく?」


「いや、やめとこう。敵意のない魔物と戦っても意味がない」



 相手から襲ってくるならまだしも、何もしないなら放って置いた方がいい。

 無駄に戦った所で疲れるだけだし、何より魔物との間で遺恨も残る。

 魔物によっては人間への仕返しとして大勢の魔物を引き連れてくることもあるので、出来るだけ無駄な戦闘は避けた方がいい。

 なので木陰で気持ちよく寝ているブラックウルフの親子を俺は放って置くことにした。



「それにしてもあの狼さん達、気持ちよさそうだね」


「そうだな。今日は天気もいいから絶好のお昼寝日和なんだよな」



 授業がなければ、俺もあんな風に寝ていたい。

 いつも忙しい日々を過ごしているので、たまにはあのブラックウルフみたいにのんびりしたかったな。



「そしたらお昼寝でもする?」


「するわけないだろう⁉ 今は授業中なんだから、他の所に行くぞ!」


「はい」



 今日は魔物と戦う為にこの山にきたんだ。

 ピクニックをしに来たわけじゃないんだから先を急ごう。



「それじゃあ別の場所へ向かうぞ! みんな、俺に着いてきてくれ!」


「「「はい!!」」」



 それから俺達は山の中腹まで足を運ぶが、全く魔物は出てこない。

 結局この日は俺達に襲い掛かってきたホーンラビット1体をリリア達に相手にしてもらい、まともな戦闘経験を得ないまま校外学習の日を迎えた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時頃投稿しますので、お待ちください!


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