第20話 放課後の対決
「よし! 授業も終わったことだし、部屋に戻るか!」
長かった午後の授業もようやく終わった。
さっきまでランニングをしていたこともあって体中が汗でベトベトなので、さっさと部屋に戻ってシャワーでも浴びるか。
「ちょっと待って、クリスお兄ちゃん!!」
「どうしたんだよ、リリア?」
「確かお兄ちゃんって料理が出来なかったよね?」
「そうだよ。それがどうしたの?」
「そしたら今日の夕ご飯はどうするの?」
「そうだな‥‥‥その時間は食堂も閉まってるし、学園の外に出て外食でも‥‥‥‥‥」
「それはダメだよ!! 外食ばかりしていたら栄養が偏っちゃう!!」
「リリアの言ってることはわかるよ。でも外で食べるのが駄目なら、俺はどこで食べればいいんだよ?」
「それはもちろん、クリスお兄ちゃんの部屋で食べるんだよ!」
「俺の部屋で食べるの!? さっきも言ったけど、俺は料理なんて全く出来ないよ!?」
「もちろんそれはわかってるよ! だからあたしがクリスお兄ちゃんの為に晩御飯を作ってあげる!」
「俺の夕食をリリアが作ってくれるの!?」
「そうだよ。あたしが料理上手なのはお兄ちゃんも知ってるよね?」
「まぁな」
幼いながらも俺の為に一生懸命料理を作ってくれたのは記憶に新しい。
あの時リリアが作ってくれたスープはものすごく美味しかったな。
今思い出してもよだれが出そうになってしまう。それぐらい彼女が作った料理は美味しかった。
「だからあたしがお兄ちゃんの夕ご飯を作ってあげる」
「おっ、おう!? それならリリアにお願い‥‥‥」
「待って下さい!? そういうことなら、私がクリス君のご飯を作ります!!」
「ノエルも俺の夕食を作ってくれるの!?」
「はい! 私だって料理は得意です!! それはクリス君もよく知ってますよね?」
「そうだな」
エルフの町でノエルが俺の為に振る舞ってくれた料理も絶品だった。
あの料理を食べた瞬間、高級レストランに行ったのかと錯覚するぐらい、ノエルが作ってくれた料理は美味かった。
「ちょっとノエルちゃん!! あたしの真似をしないでよ!!」
「真似じゃありませんわ!! 私が元からやろうとしていたことです!!」
あぁ、どうしよう。授業が終わったばかりだというのに。リリアとノエルが喧嘩を始めてしまった。
こんな時俺はどうすればいいんだろう。リリアとノエル、どちらの肩を持てばいいかわからない。
「(リリア達はレッドベアーに怯えていたけど、俺からすれば2人の方が怖い)」
俺にとってリリアとノエルは国が指定しているA級モンスターと対峙するよりも恐ろしい存在だ。
それこそ2人と戦っても全く勝てる気がしない。
「(どうやったらこの話を穏便に終わらすことが出来るんだろう)」
2人が納得する案を必死になって考えるが、一向にいい案が出てこなかった。
「いいこと思いついた!」
「もしかしてレイラはあの2人の喧嘩を止める方法を思いついたのか?」
「うん!」
「ぜひとも俺にその方法を俺に教えてほしい! お願いだ!」
「いいよ! 教えてあげる!」
さすがレイラだ! いつもは眠そうにしているけど、いざという時は頼りになる!
俺はウキウキの彼女がどんな提案をするのか固唾をのんで見守った。
「出来ればでいいんだけど、夕食を作る時は私の分も作ってほしいな!」
「それは提案でもなんでもなくて、レイラがただリリア達の料理を食べたいだけだろう!?」
駄目だ!? レイラにはものすごく期待していたのに、ものの見事にその期待は裏切られた。
時折口から『じゅるり』という音が鳴っているので、彼女の脳内ではリリア達が作った夕食を食べているのだろう。
口をパクパクしながら幸せそうに笑うレイラを見て、俺は何も言えなかった。
「お兄ちゃん!!」
「クリス君!!」
「「どっちの夕ご飯が食べたいの!!!」」
「う~~~ん、そうだな‥‥‥‥‥」
どっちの夕食がいいのかなんて決められない。だって2人の夕食は同じぐらい美味しいのだから、どちらか1つなんて選べない。
「(純粋な料理の腕でいえばリリアか? でもノエルの料理も美味しいんだよな)」
どっちの料理も一長一短があって甲乙つけがたい。
結局優柔不断な俺はどっちの料理がいいか決められずにいた。
「いいこと思いついた!」
「今度は何を思いついたんだ?」
「せっかくだから2人が作った料理を食べて、どっちが美味しいか決めればいいんだよ!」
「なるほどな。料理対決か」
案外それはいい提案かもしれない。
2人の料理の腕を比べるのは失礼かもしれないけど、白黒はっきりつけるならそれが1番いい解決方法だと思う。
「なるほど。料理対決ということですわね?」
「うん! どっちの料理の腕が上か、お兄ちゃんに決めてもらおう!」
「それはいい提案ですわ。ぜひクリス君に私達の料理の腕を見てもらいましょう」
あれ? おかしいな。いつの間にか俺が料理対決の審査員になっている。
2人の料理を楽しみにしているレイラという美食家もいるのに、どうして俺が審判をやることになってるんだ?
「それじゃあ早速買い出しに行きましょう!」
「そうだね」
「わかった。それなら俺はこのままお暇して‥‥‥」
「「ダメ!!」」
「何でこういう時だけ息ぴったりなんだよ!? さては2人共仲良しだろう!?」
いつの間にかリリアとノエルがものすごい力で俺の腕を掴んでいる。
特にノエルなんてさっきまで地面に座ってへばっていたのに。一体その力はどこから湧いてくるんだ!?
「これからお兄ちゃんはあたし達の買い物に付き合ってもらうからね!」
「そうですわ! だからこのまま一緒に城下町まで行きましょう!」
いつの間にか俺は両腕を捕まれ、2人に引きずられるようにして歩いている。
リリア達が向かっている方向は彼女達女子が使っている更衣室の方向だ。
「とりあえずシャワーを浴びてから買い出しに行きましょうか」
「そうだね」
「お前達は何でそんなに仲がいいんだよ!? さっきまでいがみ合ってただろう!」
目的が一致すると人はここまで仲良くなれるのか。
先程までいがみ合っていた2人がここまで仲良くなれるなら、きっと世界は平和になるだろう。
散々喧嘩していた2人が仲良く話している所を見て、不意にそう思ってしまった。
「クリス!」
「レイラ!」
「リリア達の夕ご飯が楽しみだね!」
「そんな暢気なことを言ってないで、俺を助けてくれ!?」
駄目だ、レイラまでこの調子じゃもう逃げられない。
俺はこのままリリア達に連行されて、買い出しへ連れて行かれるのだろう。
2人に連行される姿がこの時は何故か容易に想像ついた。
「それじゃあ最初のシャワーはレイラさんから入って下さい」
「私からでいいの?」
「もちろんですわ。その間クリス君の見張りは私達がしてますので。シャワーを浴び終わったら交代してください」
「わかった」
「わかるな!!」
結局俺はリリア達の監視の目を逃れられず、一緒に買い出しへと行くことになる。
唯一の救いは俺もシャワーを浴びれたことだ。もちろんリリア達とは別の男子更衣室で。
シャワーを浴び準備が整った所で、俺はリリア達と共に夕食の買い出しへと向かった。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは明日の7時頃投稿しますので、お待ちください!
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