第21話 料理対決
「ルールは簡単です。クリス君のお口に合う美味しい料理を作った方がこの対決の勝者となります」
「その勝負望むところだよ! 丁度コンロは2口あるから、1口ずつ使えばいいよね?」
「それで構いませんわ。ついでに言っておきますけど、クリス君の胃袋を喜ばすのは私です!」
「その言葉を言えるのは今だけだよ! お兄ちゃんの胃袋を掴むのはあたしなんだからね!」
いや、俺は別に2人に胃袋を掴まれるつもりはないんだけど。
俺は食にこだわりはないから夕食は町に売っている固いパンをもいいし、最悪数日は食べなくても生きていける。
「(夕食を作ってくれるのは嬉しいけど、この2人が喧嘩をしているせいか空気が重いんだよな)」
これから可愛い女の子達が手料理を振る舞ってくれるという最高のシチュエーションのはずなのに、何故か部屋の空気が重い。
これも一重にリリアとノエルが喧嘩をしているからだ。2人がギスギスしているせいで、心なしか部屋の空気がよどんでいる気がする。
「クリス、クリス!」
「何だ?」
「リリアとノエルのご飯、楽しみだね!」
「そうだな」
何故か俺の隣にはこの対決には関係のないレイラがいる。
どうやら彼女は2人の料理を試食する為にここへ来たらしい。
「まっだかな、まっだかな~~~♪」
フォークとスプーンを両手に持つ彼女は、上機嫌で歌を歌っている。
その様子を見ればレイラが心の底から2人の料理を楽しみに待っていることが俺にまで伝わった。
「クリス、どうしたの? さっきから浮かない顔をしてるよ」
「何でもない。それにしても相変わらずレイラは可愛いな」
「そう?」
「そうだよ。レイラを見ていると癒されるよ」
「えへへ♡ ありがとう♡」
やっぱりレイラは可愛いな。こういう無邪気で子供っぽい所が彼女の可愛さをよりいっそう引き立てている。
「(出来ればレイラのような純真さをリリア達にも学んでほしい)」
料理を作りながら時折睨みあう彼女達を見てそう思った。
「お兄ちゃん! もうすぐご飯が出来るから、もうちょっと待っててね!」
「わかった」
料理を作り始めてからおおよそ1時間が経つ。どうやらリリアの夕食がもうすぐ出来上がるようだ。
食器に料理を盛り付けているので、もうすぐリビングに料理が運ばれてくるはずである。
「(一体どんな料理を作ったのだろう?)」
買い出しの様子を見ていたけど、リリアがどんな料理を作ったのかわからない。
どんな料理が運ばれてくるのか、それは俺にもわからなかった。
「クリス君! 私の料理も出来ましたから、今そっちに持って行きますね!」
「あぁ、頼む」
どうやらリリアに引き続き、ノエルの料理も出来たようだ。
キッチンから漂ってくる料理の匂いがリビングにまで届いた瞬間、俺のお腹が鳴ってしまった。
「クリスもリリア達の料理を楽しみにしてたんだね!」
「まぁな」
レイラにお腹の音を聞かれて恥ずかしいが、こればかりは仕方がない。
魔王討伐の旅をしていた時に2人の手料理を食べたことがあるが、どちらの料理も美味しかった。
口では悪態をつきつつも俺は2人の料理が出来上がるのを楽しみにしていた。
「リリアとノエルは一体どんな料理を作ったんだろう?」
「さぁな。ただものすごく美味しい料理が運ばれてくるに違いない」
レイラは目をキラキラと輝かせてキッチンを見ている。
フォークとスプーンをカチカチと叩いているのは行儀が悪いが、それだけ2人の料理を楽しみに待っているのだろう。
俺達は2人の料理が出てくるのを今か今かと待ちわびていた。
「お兄ちゃん、出来たよ!」
「ありがとう。リリア」
「愛情をたくさん入れたから、美味しく召し上がれ!」
そう言ってリリアが俺の前に出してくれたのは野菜がたっぷり入ったシチューだ。
しかもその野菜は彼女の故郷の村で取れる野菜がふんだんに使われており、懐かしい気持ちになった。
「リリア、この料理はもしかして‥‥‥‥」
「お兄ちゃんがあたしの村へ来た時に作ってあげたものと同じ料理だよ」
「やっぱりそうか」
この料理はリリアの得意料理の1つで、俺とアレンが村を訪れた時に振る舞ってくれたものだ。
その証拠にあの時作ってくれたものと材料は全く同じである。
リリアは俺との思い出でノエルと勝負をするようだ。
「リリアの料理‥‥‥すごく美味しそう」
「レイラちゃんの分はこっちね」
「わぁ! 私のは大盛だ!」
「お昼休みにレイラちゃんがご飯をいっぱい食べてたから大盛りにしたんだよ!」
「ありがとう! 私、大盛り大好き!」
レイラが大食漢なことを察するなんて、さすがリリアだ。
いや、リリアの観察眼が凄いわけではないな。世話焼きのリリアのことだ。1人では頼りないレイラの身の回りのお世話をしている時に気づいたんだと思う。
「それじゃあいただきます!」
「どうぞ。召し上がれ」
リリアが作ってくれたシチューを一口飲んだけどものすごく美味しい。
このシチューは香辛料だけでなく、野菜の甘みを感じる事が出来た。
「どう? お兄ちゃん? あたしが作った料理は?」
「美味しいよ。さすがリリアの料理だ」
お城の晩餐会で出される料理みたいに派手さはないけど、故郷を思い出すような懐かしい味がする。
それは昔アレンの両親が俺に作ってくれたような料理だった。
「レイラちゃんはどう?」
「すごく美味しいから、おかわりがほしい!」
「もう食べ終わったのかよ!?」
「うん! 美味しかったから、これぐらいペロリだよ!」
一体レイラはどんな胃袋をしているんだ?
あれだけたくさんシチューが盛られていたのに。並盛の俺より食べるのが早い。
「今おかわりをよそってくるから、ちょっと待ってて!?」
「リリア、レイラのおかわりは並盛でいいよ」
「えっ!? 私、大盛りが食べたい!?」
「あんまり食べ過ぎるとリリアとノエルの分がなくなるだろう。少しは自重しろ」
レイラには遠慮という物はないのだろうか。
このままの勢いだとリリアが作ったシチューの鍋ごと食べてしまいそうだ。
「お兄ちゃんはあたし達のことも気遣ってくれるんだね」
「当たり前だろう。元はといえばこの料理はリリアが作ったんだから、その張本人が食べなくてどうする?」
「確かにそうだね! ありがとう、お兄ちゃん!」
「あっ、あぁ」
なんだかリリアにお礼を言われるとむず痒い気持ちになる。
間近でリリアの笑顔を見たせいで、自分の胸が高鳴ってしまった。
「おっほん!! 青春している所すいません!!」
「のっ、ノエル!?」
「さっきからリリアさんの料理ばかり絶賛されてますが、クリス君は私のことを忘れてませんか?」
「もちろん覚えてるよ!? 忘れるはずないだろう!?」
目の前にはブスっとした表情で俺の事を見つめるノエルが立っている。
たぶん1人だけ仲間外れにされたことが嫌だったのだろう。
自分が作った料理を持ちながら、不満げな表情で俺のことを見ていた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは本日の19時頃投稿しますので、お待ちください!
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