第22話 故郷の味対高級な味

「私の作った料理も食べてください!」


「ありがとう。それじゃあ頂くよ」



 ノエルの作った料理は見た目からして凄く美味しそうだ。

 ただ料理の系統はリリアと違う。ノエルが作ってくれた料理は昔俺が自分へのご褒美をあげる時に食べていた料理だった。



「この料理は鳥の照り焼きか」


「そうですわ。出来るだけ鳥本来の味を楽しんでもらいたいので、香辛料を使うのは最小限にしています」


「なるほどな。そういう手法で調理をするとこういう味になるのか」



 この鶏の照り焼きはリリアの料理とは違い、高級ホテルの食事を食べているようだ。

 昔食べたノエルの料理も美味しかったけど、今回の料理はその時よりもクオリティーが上がっている。



「(きっと俺が町を去った後、必死になって料理の練習をしたに違いない)」



 そう思わせるぐらいノエルの料理の腕が上がっている。

 以前俺の為に作ってくれた料理も美味しかったけど、今回作った料理は以前とは段違いの味だった。



「クリス君、お味はどうですか?」


「美味しい。まるで貴族の料理みたいだ」


「そうでしょう! この料理はお父様が来賓をもてなす時によく振る舞っていた料理です!」


「ということは何か高級な香辛料を使ったんだな?」


「いいえ、使ってません。王都のお店で売っている野菜を使用して特製ソースを作り、そのソースの中に鶏肉を入れ一晩寝かせました」


「なるほどな。どうりで買い出しの時に殆ど食材を買わないわけだ」



 色々な野菜を買い漁るリリアとは違い、ノエルは殆ど食材を買わなかった。

 その行動を見て不思議に思っていたが、今ならその理由がわかる。

 前日から料理の仕込みをしてたなら、当日は殆ど準備をしないのも納得だ。



「見た目とは違って、かなりの手間がかかってるんだな」


「当たり前です!! クリス君に食べてもらうんだから、これぐらいの手間暇は惜しみません!!」


「手間暇を惜しみません‥‥‥か」



 彼女はエルフの国ではかなり高貴な家柄なので、こういった手間暇をかけることを嫌っていた。

 そんな彼女がこんなに時間をかけて料理を作るようになるなんて思わなかった。

 ノエルの成長を見て、思わず涙がこぼれそうになる。



「(俺が見ない間にノエルも成長したんだな)」



 俺があの町を去ってからノエルなりに努力をしたのだろう。

 そう思うとなんだか嬉しい気持ちになる。子供の成長を見る親の気持ちとはきっとこういう感じなんだろうな。



「ありがとう、ノエル。美味しかったよ」


「そう言ってもらえると私も作ったかいがあります!」



 故郷の味と高級な味。相反する味を堪能出来て俺は満足だ。

 正直夕食にこんな美味しい物を食べられるとは思わなかった。出来れば毎日この料理を食べたい。



「どうだ? レイラは満足したか?」


「うん! どっちの料理も美味しかった」


「そうかそうか。それなら俺は食器を片付けるからレイラ達はもう帰って‥‥‥‥‥」


「「ちょっと待った!!!」」


「なんだよ!? 2人揃って大声なんか出して!? 鼓膜が破けるかと思ったぞ!?」


「それどころじゃありませんわ!! 私達はまだ勝負の結果を聞いていません!!」


「勝負?」


「そうだよ! お兄ちゃんは忘れてるかもしれないけど、これはあたしとノエルちゃんの料理対決だよ!」


「どちらの料理が美味しかったかクリス君が答えてくれるまで、私達は帰れません!!」


「やっぱり覚えてたか」



 このまま両方の料理が美味しかったってことで終わらそうとしたけど、そうは問屋が降ろさないようだ。

 リリアとノエルは俺の目の前にきて俺の顔を覗き込む。

 どうやら俺はこの2人からは逃げられなさそうだ。



「それでお兄ちゃん! あたしとノエルちゃんの料理、どっちが美味しかった?」


「えっ!?」


「そうですわ!! クリス君はどっちの料理が美味しかったですか?」


「どっちの美味しかったと言われてもな‥‥‥」



 リリアとノエルの料理はそれぞれの良さがあり、どちらがいいか一概には決められない。

 しいていえば故郷の味対高級な味。どちらも良い所があるので1つに絞ることが出来ない。



「お兄ちゃん、あたしの料理が1番だよね?」


「いや、私の料理が1番美味しかったはずですわ」



 さてこの対決はどう落としどころをつけよう。どちらの料理も同じぐらい美味しかったので俺には優劣がつけられない。

 俺としてはどちらの料理も美味しいで終わらせたいけど、その判定は2人が納得しないはずだ。

 どうすれば2人が納得するような結果が出せるのか、俺にはわからなかった。



「2人共美味しいじゃ駄目なの?」


「レイラ?」


「2人の料理は私が今まで食べた中で1番美味しいと思った。だから2人の料理が美味しかったってことでいいと思うよ」



 鳥の照り焼きを口に運びながらレイラはそう主張する。

 照り焼きを一口食べた後はリリアが作ったシチューも置かれており、2人の料理をたいそう気に入っているようだ。



「(驚いたな。思わぬところから援軍が飛んできた)」



 滅多に自己主張をしないレイラがこういう発言をするのは珍しい。

 俺ではなく外野から見ていたレイラから正論を言われたので、リリアとノエルは面食らっているようだ。



「それに1人で食べるよりもたくさんの人達と一緒に食べる方が、料理が美味しく感じるってお母さんも言ってたよ!」


「レイラ」


「だからリリアとノエルも一緒に食べよう! 私はみんなで美味しいご飯を食べたい!」



 純粋無垢なレイラに言われたら、さすがの2人も言葉が出ない。

 それぐらい彼女の発言に説得力があった。



「はぁ。わかりましたわ。今日は一旦休戦協定を結びましょう」


「そうね。レイラちゃんにこんなこと言われたら、ノエルちゃんと張り合っていた自分が恥ずかしくなった」


「ありがとう2人共! それならみんなでご飯を食べよう!」


「そうだな。みんなで仲良く夕食を食べよう」



 みんなで食べるご飯が1番美味しいとはいうけど、レイラのその通りだ。

 思えばアレン達と旅をしている時も薪を囲んで固いパンを食べていたが、お城のパーティーで食べた高級な料理よりもあのパンの方が美味しかった。



「(俺がこう思うのも周りには気を許せる仲間がいたからだよな)」



 だからあんな固くてまずいパンを食べてても美味しいと感じたんだ。

 あのパンは旅人しか食べないような固くてまずいパンだったけど、大切な人達と食べるならそれはご馳走になる。



「お兄ちゃん、どうしたの?」


「もしかしてもうお腹一杯ですか?」


「そんなことはないよ。俺ももう少し食べる」



 いかんいかん。余計なことを考えてたらリリアとノエルに心配されてしまった。

 今はこの場を楽しむ事だけを考えよう。昔のことを思い出すのは後でも出来る。



「それじゃあみんなで食べよう!」


「うん!」


「それじゃあ一緒に! いただきます!!」


「「「いただきます!」」」



 レイラの号令の下、俺達4人の親睦会は始まる。

 この楽しい時間は2時間程度行われ、俺達の絆を深める為の重要な集まりとなった。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時頃投稿しますので、お待ちください!


最後になりますが、この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。

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