第23話 平穏な学園生活

 リリアとノエルが俺に手料理を振る舞ってくれたあの晩餐会から1週間が経過した。

 あの晩餐会後リリアとノエルの間で協定が結ばれたらしく、俺の晩御飯は2人が毎日交代で作っている。



「(リリア達が俺の家に来て夕食を作ってくれるのは嬉しいけど、1つだけ問題があるんだよな)」



 俺が懸念している問題とはリリア達と一緒に夕食を食べることだ。

 彼女達は俺が食べた食器の後片付けまでしてくれる為、就寝する直前までリリア達と過ごすことになり、そのことが周りにバレないか冷や冷やしている。



「(この関係が周りにバレるのも時間の問題だよな)」



 何度注意してもリリア達が聞く耳を持たない以上、何か問題が起こる前に1度アレンに相談した方がいい。

 あいつに一言相談しておけば何か起こった際、俺の力になってくれるはずだ。



「お兄ちゃん! 休憩が終わったよ!」


「わかった。そしたらいつものように素振りを始めよう」


「「「はい!」」」



 いかんいかん!? まだ授業中なのに余計なことを考えてる場合じゃない。

 今はリリア達に剣術を教えてるので、その事だけに集中をしよう。



「(ランニング後の素振りがこの授業の要なのだから、3人のフォームをしっかりチェックしよう)」



 そう思い直し彼女達が素振りをしている一挙手一投足を真剣に見つめる。

 人間の慣れというのは恐ろしいもので、ランニング後の素振りも初日に比べれば、全員がまともに木剣を振れるようになっていた。



「(3人共疲れた時の体の使い方がわかってきたみたいだな)」



 これなら長時間戦場で戦う事になってもそんなに苦労する事はないだろう。

 疲労困憊になった時の体の使い方を知っているだけで、自然と戦闘方法が変わってくる。

 近いうちあの3人もそれを自覚するに違いない。



『特別クラスの奴等、また素振りをしてるよ』


『ププッ!? あいつ等馬鹿だろう。毎日毎日学校の外ばかり走ってるみたいだし可哀想だよな』



 馬鹿なのはお前等だと声を大にしていいたいが、ここは我慢我慢。

 あいつ等はこの授業にどんな意味があるかまるでわかっていないようだ。



『俺、特別クラスに入らなくてよかった』


『本当そうだよな。あんなところで学べることなんて、何もないだろう』



 俺がこの3人に授業を教え初めて以降、周りからそういう声が上がっている。

 現に俺も剣術担当の教師陣に呼び出され、指導方法に対して注意を受けた。



「(あの時は俺の理論を他の教師陣に説明したけど、誰も理解してくれなかった)」



 幸いアレンが間に入ってくれたおかげで喧嘩にはならなかったけど、この調子だとまた俺に何か言ってくる可能性がある。

 それか既に俺を通り越してアレンに直接苦言を呈しているだろう。

 あいつは俺に何も言わないけど、そうなっている可能性が非常に高い。



「(防波堤になってくれてるアレンには悪いけど、俺は考えを変える気はない)」



 リリア達が強くなるためなら、この方法が1番てっとり早いと思っている。

 姫騎士になれるかわからないけど、戦場で生き抜くためにはこの手法が1番いいはずだ。

 それはその場所で数多くの死闘を繰り広げてきた俺自身が身を持って知っている。



「(あの場所がどれほど過酷なのか身をもって知っているからこそ、この指導法が1番正しいことがわかるんだよな)」



 アレンと魔王を倒す旅をしていて、綺麗な戦い方をしているだけじゃダメだということがわかった。

 生きて故郷に帰る為には泥臭い戦い方を覚えないといけない。あの場所はプライドだけでは生きていけないので、生きるためには何でもする必要があった。



「ノエル」


「何ですか?」


「いつもより構えが5cm程低いけど、どうしたんだ?」


「すいません!? 今構えを戻しますね」


「別に注意しているわけじゃないよ。その構えが楽なら、そのまま剣を振ってくれ」


「いいんですか?」


「あぁ。遠慮なく振っていいぞ」



 俺が許可を出すとノエルは再び素振りを始めた。

 何故俺がノエルのフォームを修正しなかったか。それにはちゃんと理由がある。



「やっぱりこっちの振り方の方が、ノエルもやりやすそうだ」



 俺が疲労困憊の中で剣を振らせているのは、自分にとって1番楽な構えを見つけてもらう為である。

 心なしか剣を振った時のスピードも速くなっている為、ノエルには今のフォームが1番適していると思う。



「(レイラは俺が何も言わなくてもその辺のことを察してくれたみたいだけど、リリアだけは違うな)」



 リリアの場合は走る前と後でも、剣を振るスピードが変わらない。

 彼女の場合はどんな状況でも同じフォームで剣を振り続けることが出来る。

 これは普通の人には絶対に出来ないことだ。



「(きっとリリアは俺が村から出て行った後、毎日欠かさず自主練習をしていたんだな)」



 そのおかげで自分が振りやすい型を自然と覚えたに違いない。

 フォームが雑なので色々と指摘することは多いけど、現時点で俺の指導に1番応えているのがリリアだった。



「(この3つの異なる才能をどう開花させるか、俺の腕の見せ所だな)」



 この学校を卒業する3年間の間にこの3つの才能がどう芽吹くのだろう。

 その才能を開花させられるか、全ては俺の手腕にかかっている。



「(久々に近衛騎士団団長としての血がうずいてきた!)」



 しっかりと育てれば、将来は強力な戦力となるに違いない。

 それこそこの学校を卒業したら、幹部に抜擢してもいいだろう。

 それほどの才能をこの3人は持っている。



「お兄ちゃん、素振りが終わったよ!」


「そしたら今日の練習はここまでだ! みんなお疲れ様!」


「「「ありがとうございました!!」」」



 こうしてこの日の授業はいつも通り無事に終わる。

 俺が挨拶を終えてが帰ろうとするといきなり両腕をとられてしまい身動きが取れなくなった。



「お兄ちゃん!」


「クリス君!」


「「一体どこに行こうとしてるの?」ですか?」



 リリアとノエルはそれぞれ俺の両腕を掴み大事そうに自分の胸に抱えている。

 両腕が2人の胸に挟まって気持ちいい‥‥‥っていかんいかん!? 教え子に対してそんな邪な気持ちを抱いていたらダメだろう!? 何を考えてるんだ、俺は!?



「まさか今日も1人で部屋に帰ろうとしているんじゃないでしょうね」


「ははははは‥‥‥そんなことあるわけないじゃないか」



 何でノエルには俺の考えがお見通しなのだろう。

 リリアもノエルと同じことを言おうとしていたのか、ムスッとした表情を俺に向けていた。



「(何とかしてこの状況から逃げ出せる方法はないかな?)」



 肝心のレイラはあくびしながら眠そうに目をこすっているのであてにはならない。

 こういう時に誰か助けてくれるとありがたいんだけど、そういう人に心当たりがなかった。



「クリス先生!」


「ミリア!? こうやって顔を合わせるのは久しぶりだな!」


「それはクリスさんが全然職員室に顔を出さないからじゃないですか?」


「それはそうだな」



 1年生の中で1番遅くまで授業をしているので、授業が終わったら俺は即部屋に帰っている。

 その関係で俺は放課後職員室に全く顔を出していない。

 なのでこの学校に赴任してからというもの、ミリアや他の先生方と殆ど顔を合わせることがなかった。



「1つだけクリスさんに聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「何だ?」


「先程からずっと疑問に思っていたんですが、貴方はなんでリリアさんやノエルさんと腕を組んでいるんですか?」


「これはちょっとしたハプニングがあったんだよ!? 2人共、ミリアの前なんだから手を放してくれ!?」


「「はい‥‥‥」」



 俺がそう言うとリリア達は渋々俺の腕を話してくれる。

 2人共不服そうな表情をしているけど、ミリアがいる手前しょうがなく放したようだ。



「それでミリア、俺に何の用なんだ?」


「そうでした!? 出来ればすぐにでも話したいんですが、ここではなくて別の場所で話しませんか? 生徒がいる前では話せないことなので」


「わかった。そしたらリリア達は先に帰っててくれ」


「‥‥‥‥わかった」



 ふくれっ面をしながらリリア達は渋々更衣室の方へと歩いていく。

 去り際に俺を見たその目は、どことなく寂しそうだった。



「(さすがにちょっとぶっきらぼうな言い方だったかな?)」



 いつもは俺の夕食を作ってくれているので、もう少し優しい言い方があったかもしれない。

 ミリアとの話し合い終わったらその事についてリリア達にちゃんと謝ろうと思った。



「クリスさん、どうしましたか?」


「何でもない!? それよりも早く話が出来る場所へ移動しよう」



 俺はリリア達3人のことを一旦忘れ、ミリアと一緒に話し合いが出来る場所へと移動した。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは本日の19時頃投稿しますので、お待ちください!


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