第24話 秘密の対談

「着いたぞ。ここなら邪魔が入らないからゆっくり話せるはずだ」


「ここはクリスさんの研究室ですか?」


「そうだよ。この場所は滅多に人が来ないから、重要な話をするにはうってつけの場所だ」


「確かにここなら安全ですね」



 俺がミリアを案内した場所は普段俺が使っている研究室だ。

 普段は殆どこの部屋を使っていないので埃っぽいが防音設備もしっかりしているので、内緒話をするならこの場所が1番適していると思う。



「それにしてもミリアが俺に用事があるなんて珍しいな。どうしたんだ?」


「どうしたんじゃないですよ!? クリス先生が職員会議に参加しないから、そこで決まったことを伝えに来たんです!!」


「そうなのか。それはご苦労様」


「本当ですよ!! 貴方がいないせいで、いつも会議が紛糾して大変なんですから!! 少しは反省してください!!」


「それに関しては本当に申し訳ない」



 俺の授業は予定されていた時間を超えてしまう事が多い。

 なので大体授業が終わると、俺は学校には戻らずそのまま部屋へと戻ってしまう。



「(まぁ、あの教師陣の相手が面倒臭くて関わりたくないのが本音だけどな)」



 顔を合わす度に俺の指導方針に真っ向から反発するので、正直ちょっとイライラしていた。

 最近だと面と向かって『さっさと学校を辞めて騎士団に戻れ』という不届きものまでいる。



「(おおかた俺がこの学校を辞めたら、俺のクラスの担任に成り代わるつもりなんだろうな)」



 あのクラスが時期王妃を育てるクラスだということは教師陣全員が認知している。

 俺にはこの学園の校長であり以前はこの国の宰相をしていたアレンとアイリス王じじいが後ろ盾としてついているので何もしてこないが、剣術を担当する教師陣がこの椅子を取ろうと必死になっているらしい。



「‥‥‥リスさん!! クリスさん!!」


「おぉ!! どうした?」


「今の私の話、ちゃんと聞いてましたか?」


「ごめん、聞いてなかった」


「何で聞いてないんですか!! 重要な話なんですよ!!」


「わるいわるい。今度はちゃんと聞くから、もう1度だけ話してくれないか?」


「わかりました。もう1度だけ言いますから、忘れないでくださいね」


「はい」



 ミリアは本気で怒っているようだけど、傍から見るとあんまり怒っているようには見えないんだよな。

 腰をあててプンスカと怒るミリアの姿はまるで俺の教え子であるリリア達のように見え、妹をめでるような感覚に陥っていた。



「それじゃあ改めて説明しますけど、今度行われる校外実習の事です」


「校外実習? なんだそれは?」


「知らないんですか!? 校外学習というのはこの学校の裏にある山を登山する、1年生の学校行事です!!」


「あぁ。そういえばこの前そんな話をしたな」



 確か数日前、朝のホームルームでリリア達にもそんな話をした気がする。

 最近リリア達が俺の周りに四六時中いる為、そういう行事があったことを忘れていた。



「確か各クラス3名ずつのチームを作るんだけど、うちのクラスは3人しかいないからペア決めをしなくていいんだよな?」


「そうですよ! ちゃんとわかっているじゃないですか!」


「その話は既にクラスのみんなに伝えたよ。だから問題はないはずだ」


「いいえ、まだです!!」


「まだ何かあるの!?」


「はい! 各先生方の役割分担です。それが今日決まりました!」


「ほぅ。俺の配置はどこになったんだ?」


「クリス先生は山頂のゴール地点で生徒達を迎える役割です」


「そうなのか。俺はてっきり生徒達の警護にまわるものだと思っていた」


「もちろんそれも兼ねています。生徒達には身の危険が生じた時、事前に支給されている魔法弾を空へ打ち上げるように言ってありますので、その信号を見たらクリス先生が助けに行ってください」


「わかった。この学校は生徒達の安全対策もばっちりなんだな」


「当たり前です!! 最近裏山の坑道に風鳥パラギアスやドレインスネイクの出現が確認されているんですよ!! 警戒して当然です!!」


「おっ、おう!?」


「魔王を倒したクリスさんにとっては楽な相手かもしれませんが、この国ではAランクに指定されている魔物です!! 並みの教師陣が複数人で戦ってやっと勝てる魔物なんですから、警戒するのは当然のことです!!」



 あの裏山でのランニング中に出現した魔物はそんなに強かったのか。

 いつも俺が軽く腹に蹴りを入れるとゴムボールのように飛んでいくので、そんなに強い魔物とは思わなかった。



「それにここ最近今までこの森に出現しなかった魔物の存在が確認されているんです。生徒達の安全の為にもクリスさんには馬車馬のように働いてもらいますからね」


「あっ、あぁ。わかった」



 どうやら俺はとんでもない大役を仰せつかったらしい。

 生徒達全員の警護なんて本当に出来るのだろうか。正直不安しかない。



「まぁ、なるようになるか」



 今までだって何とかなってきたんだ。今回もきっとなんとかなるだろう。

 それにあのモンスターなら、俺1人でなんとか出来る自信がある。

 だから問題はないはずだ。



「当日は急病人の対応係として、フィーナさんが来ますのでよろしくお願いします」


「げっ!? あのじゃじゃ馬娘まで来るのかよ!?」


「何か問題がありましたか?」


「いや、何でもない」



 まさか俺やアレンと共に魔王討伐任務に参加したフィーナまでこの行事に参加するなんて予想外だ。

 彼女が来るということは当日はアレンもくるだろう。となると久々に魔王討伐パーティーが結成されることになる。



「以上が私からの連絡事項です。校外実習は来週ですので、忘れないでください」


「わかった」


「それとクリスさんにお迎えが来てますよ」


「お迎え?」


「ドアの所を見て下さい。あそこからクリスさんの生徒が貴方のことを見てますよ」



 ミリアがドアの方を指差すとそこから出ていた顔が引っ込んだ。

 あの顔は俺も見覚えがある。本人はいまだに隠れているつもりらしいが、俺にはバレバレだった。



「リリア‥‥‥‥‥あいつは一体何をしているんだよ」


「先生のことが心配で様子を見に来るなんて、それだけクリスさんが生徒達に好かれているという事ですね」


「まぁな」



 確かに好かれてはいると思うけど、わざわざ俺の研究室にまで来ることはないだろう。

 ミリアはその様子を見てクスクスと笑っている。

 どうやら俺とリリアのやり取りが彼女のつぼに入ってしまったようだ。



「クリスさんのお迎えも来たことですし、私はこの辺で失礼しますね」


「わかった」


「あっ!? それと最後にもう1つ、クリス先生に言っておくことがありました!」


「何だ?」


「生徒と仲良くするのは構いませんが、必要以上に仲良くならないようにしてくださいね」


「もっ、もちろんわかってるよ!?」


「わかってるのならそれでいいです。それと生徒達の事だけでなく、もっと近くにいる人のことも見て下さい」


「うん? それはどういうことだ?」


「何でもありません!? それじゃあまた明日会いましょう!?」


「あぁ。また明日な」



 そう言ってミリアはこの部屋から出て行った。

 最後は顔を真っ赤にしていたし、あれは一体何だったんだろう。



「お兄ちゃん、お疲れ様」


「お疲れ様。教師同士の秘密の話を聞くなんて、中々悪趣味な事をするじゃないか」


「あたしが来たのは今さっきだから、ミリア副校長の話は聞いてないよ」


「本当か?」


「本当だよ!? 更衣室で着替えた後、クリスお兄ちゃんを探すのが大変だったんだからね!?」



 嘘か本当かわからないけど、ここはリリアの話を信じるか。

 よく見るとシャワーを浴びた後なのにうっすらと汗をかいている。

 その様子を見れば、リリアが俺を探していたのもあながち間違いではないと思った。



「それよりお兄ちゃん」


「何だ?」


「ミリア先生と何を話してたの?」


「今度行われる校外学習のことだよ。色々と決まったことがあるから、リリア達にも後で話す」


「わかった」



 ミリアは薄々俺とリリア達の関係に感づいている。

 たぶん彼女は俺達の関係を知った上で、それ以上の行動をしたらどうなるのか俺に対して注意をしたに違いない。



「(これ以上リリア達と距離が近づくことがあれば、俺にも何らかの処分が下るはずだ)」



 今は黙認をしているが、目の余るような行為をしないでほしい。

 ミリアが俺にいいたかったのはそういうことだだろう。



「それよりお兄ちゃん」


「何だ?」


「ノエルちゃん達も外で待ってるから、早く帰ろう」


「そうだな。お腹も減ったし部屋に戻るか」



 校外学習のことは後で話せばいいだろう。

 リリア達に特段話す事はないけど、俺の役割を説明した方がいいか。



「それじゃあ早く帰ろう! 買い出しの時間が遅くなっちゃうよ!?」


「あっ、あぁ」



 俺はリリアに連れられて、俺が住んでいる寮へと急ぐ。

 それからノエルとレイラと合流し、3人で夕食の買い出しへと向かった。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時頃投稿しますので、お待ちください!


最後になりますが、この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。

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