第19話 授業の目的
「よし! これでランニングは終了だ! みんなよく頑張ったな!」
往復2時間かけて裏山を走り抜いた俺達はスタート地点である練習場へと帰ってきた。
山頂から帰ってくる途中に何度か魔物に襲われたが、誰も怪我無く学校へ戻って来れてよかった。
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥‥ノエルちゃん‥‥‥‥」
「なん‥‥‥ですの? リリアさん?」
「レッドベアに‥‥‥襲われた後の話だけど‥‥‥あの後出現した魔物達も‥‥‥ヤバくなかった?」
「ですわね‥‥‥シルバーウルフに風鳥パラギアス‥‥‥‥‥それにドレインスネイクまでいましたわ」
「全部国でA級指定されている凶悪モンスター‥‥‥それらのモンスターを全てワンパンで倒すなんて‥‥‥‥‥さすがお兄ちゃんだよ‥‥‥‥‥」
リリアとノエルは俺のことを褒めているようだけど、俺がひねくれているせいかあんまり褒められてる気がしない。
俺がモンスターと素手で戦っている最中、2人は化け物を見るような目で俺の事を見ていたので、少しだけ不快な気持ちになった。
「クリス」
「何だ?」
「今日のトレーニングはこれで終わり?」
「まだやるぞ。最後にもう1度ここで素振りをする」
「あれだけ走ったのにまだやるんですか!?」
「あぁ。さっきやった時の半分でいいから。ここで木剣を振ってくれ」
「わかりました」
それから俺はリリア達に木剣を持たせて再び素振りをさせる。
このトレーニングを最後に取り入れたのにはもちろん理由がある。
その成果が顕著に出ているのが先程まで誰よりも綺麗に木剣を振っていたノエルだった。
「どうしたんだ、ノエル? さっきよりも動きが鈍ってるぞ」
「ぐっ!?」
あれだけ走った後だから、疲労のせいでまともに木剣を振れないのだろう。
あのレイラですら、ランニング前よりもフォームが崩れている。
「(さっきまで裏山を散々走らされたんだ。全身が疲労しているせいで、まともに剣を握る事さえ出来ないのだろう)」
だけどそこは選抜クラスと言われるだけある。
騎士団の中ではまともに剣を握れないものもいるのに、この子達はちゃんと素振りが出来ている。
「(ただ剣を振る時のフォームがバラバラで、到底素振りとは言えないな)」
ノエルなんて腕がプルプルと震えているので、木剣を持つのも辛いだろう。
そんな満身創痍の人間もいる中、ただ1人平然と素振りをこなす人間がいた。
「(この中で唯一まともに木剣を振れてるのがリリアなんだよな)」
3人の中でもっとも剣術の腕が劣っていたリリアが先程と変わらないフォームで素振りをしている。
疲労のせいで余計な力が抜けているせいか、先程よりも綺麗なフォームで木剣を振れていた。
「いいぞリリア! その調子で頑張れ!」
先程俺が指摘した箇所も修正されており、リリアのフォームは格段に良くなった。
彼女のフォームが良くなったのは、俺がお手本を見せたことも影響しているだろう。
あの動作を見て自分の物に出来るのは天賦の才といっていい。
もしかすると俺の想像以上にリリアは大物になるかもしれない。
「よし! 全員素振りが終わったな。今日の授業はこれで終了だ」
授業の終わりを告げると全員が地面に座り込んでしまう。
その中でも特にノエルの疲労が色濃く見える。
「(この様子を見るとノエルはしばらくは立てないだろう)」
他の2人と比べてノエルだけが授業を終えて疲れ切っていた。
それだけ一生懸命授業をこなしたという事だけど、ノエルはもっと体力をつける必要があるな。
「大丈夫か、ノエル?」
「大丈夫ですわ。それよりも今日の授業は非常に有意義なものになりました。ありがとうございます」
「そう言ってくれると俺も教えたかいがあるよ」
「えぇ。クリス君は疲れた時の体の動かし方を私達に教えたかったんですね?」
「そうだよ。疲れてない時なんて動けて当たり前なんだ。問題は戦い疲れて疲労困憊の時だ。その時こそ、その人の本当の力が試されるんだよ」
現に魔族との戦いでもこちらを疲労困憊にさせた後、俺達のことを襲ってきた奴もいる。
この子達もいつそういった状況になるかわからない。なのであえてこういう授業を行った。
「俺の教え子になった以上、これからはこういう実践的な授業を多く取り入れるから覚悟しておいてくれ」
「「「はい!!!」」」
「じゃあ今日の授業はこれで終わり!! 解散だ!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
俺の号令と共に今日の授業が終わる。
3人が俺に向かって頭を下げたのと同時に俺も一息ついた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます!
続きは本日の19時頃投稿しますので、お待ちください!
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