第18話 凡才の力

 俺を先頭にして裏山を登っている最中、苦しい顔をするノエルやレイラとは違い、リリアだけが不安そうな顔で走っていた。

 そのことが俺の心に引っ掛かった。もしかしたら彼女はさっきまでの出来事を引きずっているのかもしれない。



「リリア、どうしたんだ? 何か不安なことがあるなら俺に言ってくれ。何でも相談に乗るよ」


「ありがとう、お兄ちゃん。それならお言葉に甘えて話しちゃおうかな」



 リリアがここまで深刻な顔をするということは、先程のことがよっぽど堪えているのだろう。

 悩みを聞いてあげることで彼女の心が軽くなるのであれば、その悩みを聞いてあげたかった。

 



「もしかしてさっきのことで悩んでるの?」


「違うよ」


「それならどうしてそんな深刻そうな顔をしているんだ?」


「う~~~ん、これは悩んでいるというか心配事なんだけど、この裏山って確か凶暴な魔物が大量に出現する場所じゃなかったっけ?」


「えっ!? そうなんですか!?」


「うん! 昔お母さんから聞いたんだけど、この山の獣道を歩いてると凶悪な魔物に遭遇するらしいの。だから国が整備してくれた道以外は歩いたらダメだって教わったんだ」


「そうなのか。リリアはよくそんな情報を知ってたな」


「もしかしてお兄ちゃんは知らなかったの!?」


「あぁ。その話は俺も今初めて聞いた」


「あたしの村では有名な話だよ!? この山で薬草を取る時は道を外れないように歩きなさいって、よくお母さんに注意されたんだ!」



 なるほどな。この山はそんなに危険な場所だったのか。

 この学校に来てからというもの、朝練をする時は毎日このルートを走っていたけど、凶暴な魔物を1体も見たことがなかった。



「クリス、本当にこの道で大丈夫?」


「大丈夫だよ。もし凶暴な魔物が出てきても、俺が何とかする」


「本当ですか?」


「もちろんだ! だから俺のことを信じてくれ」



 いくら凶暴な魔物が出るといっても、魔王に比べたら格段に弱いはずだ。

 それなら俺1人でも何とかなるだろう。どんな魔物が出てきても倒せる自信がある。




「グ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛」


「お兄ちゃん!? レッドベアーだよ!?」


「レッドベアーは気性が荒いってことで有名な魔物ですわ!?」


「クリス!? 剣を持ってないけど、大丈夫!?」


「あぁ。あれぐらいのモンスターなら余裕で倒せる」



 確かにレッドベアーは強い。鋭い爪と人間を超越したスピードで攻撃する為、手練れた剣士でも苦戦すると言われている。

 もしこのモンスターと出会ったら、一般人は荷物を置いてすぐ逃げるように言われている。



「レッドベアーがこっちに向かってきます!?」


「お兄ちゃん!?」



 レッドベアーの腕が大きく振りかぶられた瞬間、俺は目の前にいるクマのどでっぱらに前蹴りを入れる。

 このクマは剣や槍を持っていない人間を見て、簡単に倒せると思い油断していたのだろう。

 レッドベアーは一瞬驚きの表情を見せた後、ゴムボールのように地面を跳ね、やがて大きな木にぶつかって動きを止めた。



「クリスお兄ちゃん!?」


「何だ?」


「もしかしてあのクマさん、死んじゃったの!?」


「いや、気絶しているだけだ。ちゃんと死なないように手加減はしたから問題ない」



 山の生態系を壊すようなことをしたら、アレンやミリアに何を言われるかわからない。

 なので本当に軽く、かるーーい力でクマのことを蹴った。



「(この程度の力なら、あのクマも死ぬことはないだろう)」



 俺が本気を出せばあのクマの頭など簡単に潰すことが出来る。

 魔王を討伐する旅の最中に力の加減を学んだ結果、相手が怪我をしない最低限のパワーで攻撃することが出来るようになった。



「レッドベアーを武器も持たずに倒すなんて‥‥‥‥‥」


「お兄ちゃん凄すぎるよ‥‥‥」


「そうか? これぐらい普通だと思うんだけど?」



 俺は過去レッドベアーよりももっと凶暴な魔物達に囲まれたことだってある。

 それに比べればレッドベアーなんて可愛い物だ。赤子の頭を優しく撫でているのと何ら変わりない優しい対応をした。



「あたしは決めたよ! 今後お兄ちゃんを怒らすようなことは絶対しないようにする」


「その意見に私も同意します」


「私も!」



 レッドベアーは無事に追い払ったというのにリリアとノエルの顔は青ざめている。

 一方のレイラは2人とは対照的に眠そうだ。今も大きなあくびをしながら目を擦ってる。



「クリス」


「何だ?」


「ぼーっとしてるけど、ランニングはもう終わりなの?」


「終わりにするわけないだろう。頂上まで行く予定なんだから、まだまだ走るぞ!」



 レッドベアーが出現したせいで忘れていたが、今は授業中だった。

 先頭に立って皆を先導しないといけない俺がこんな所に突っ立っててどうする?。



「それじゃあ引き続きこの道を走るから、俺の後ろについてきてくれ」


「「「「はい!!」」」



 それから俺は木の根元でぐっすりと寝ているレッドベアーを尻目に山頂を目指す。

 無事山頂まで辿りついた俺達は学校へ戻る為、登ってきた道を引き返すのだった。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の8時頃投稿しますので、お待ちください!


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