第14話 毎朝の日課

 リリア達と濃密な話し合いをした翌日の早朝、俺は1人でランニングをしていた。

 毎朝の日課となっているランニング中も頭の中ではリリア達の顔が思い浮かぶ。

 それぐらい彼女達との再会は俺に取って忘れることの出来ない出来事だった。



「それにしても厄介なことになったな」



 昔俺が旅の途中で助けた女の子達が教え子になるとは思わなかった。

 正直昨日のことを思い出すだけで頭が痛い。これから俺はあの3人とどう付き合って行けばいいのだろう。その事に頭を悩ましていた。



「こうなったのも全ては俺の不用意な発言が原因なんだけどな」



 リリア達と幼い頃にした約束が全ての始まりだった。

 結婚するなんて重い言葉を軽々しく口にしてしまったせいで、俺は今窮地に立たされている。



「それにしてもまさかリリア達があの時の約束を覚えているとは思わなかった」



 もちろんあんな約束をした俺も悪い。正直子供だからといってあの3人の記憶力を侮っていた。

 そこは俺の反省しないといけない所だ。今後人と話す時は子供であろうと不用意な発言をしないように気をつけよう。



「でも俺の側にいたいからという理由で、この学校に入ろうとは思わないよな?」



 しかも俺の副官になるために姫騎士を育成する為の選抜クラスに立候補するなんて普通は考えない。

 もし王子に見初められて姫騎士に選ばれたらどうするつもりなんだろう?

 いざその場になって姫騎士になることを辞退したいと言っても、俺は何も出来ないぞ。



「それにもし俺がこの学校に赴任しなかったら、どうするつもりだったんだろう?」



 それこそ姫騎士を育成するというお題目がなかったら俺はこの学校にいない。そうなっていたらあの3人はどうするつもりだったんだろう?

 そうなったらそうなったで卒業するまで大人しく授業を受けていたのかな?

 でもあの3人が大人しく学校の授業を受けている姿が俺には想像出来ないので、何かしら事件を起こして俺に会う為の口実を作っていたと思う。



「一体誰が姫騎士の話をあの3人に吹き込んだんだ?」



 もしかしてアレンがあの3人にその話を吹き込んだのかな? いや、あいつも入学試験の時にあの3人と再開したはずだ。なので事前にその話を出来るわけがない。



「となるとあの3人にこの学校を紹介した人物が他にいるはずだ」



 あの3人をこの学校へと導いた真犯人。

 その人物が一体誰なのか、俺には見当もつかなかった。



「駄目だ!? いくら考えても答えが出ない!?」



 こういう時はアレンに直接聞くのが早いか。アレンならきっと俺の疑問に答えてくれるだろう。 

 もしあいつがあの3人を言葉巧みに惑わしてこの学園に入れたなら、それ相応の罰を下す必要がある。

 最低でもあの3人を普通クラスに編入させるぐらいの処置をしてもらおう。

 そう心に決めて日課であるランニングを終えた。



「そしたら今日は授業が始まる前に校長室に行って、アレンに話を‥‥‥って、あれ? あそこの雑木林から人の気配を感じる‥‥‥」



 まだ太陽が昇ったばかりなので、生徒達はおろか教師達もみんな寝ているはずだ。

 なのでこの時間に出歩いている人間はいないはずなんだけど、雑木林から人の気配がする。



「万が一この学校に害のある人間が敷地内に侵入してたらまずいな」



 この世界に魔王という脅威はなくなったが、平和が訪れたわけではない。

 現に近隣の国々では冷戦状態が続いており、いつ戦争が起こってもおかしくない情勢だ。

 昔は魔王という驚異のおかげで世界中の国がまとまっていたのだが、その脅威がなくなった途端様々な国が自分勝手な主張を始めた。

 その結果国同士の対立が激化し冷戦状態となっている。



「こんな面倒な世界情勢になるなら、魔王なんて討伐しなければよかった」



 その方が今よりも世界は平和になっていたかもしれない。

 俺にそう思わせるぐらい今の世界情勢は混沌としていた。



「もし雑木林の中に他国のスパイが隠れていて、生徒達を狙ってたらまずいよな」



 まがいなりにも俺はこの学校の教師だ。生徒の安全を守る役目を担っているので、不穏分子は排除しないといけない。

 なので俺は雑木林の中にいる人間に声をかけることにした。



「誰だ!! そこにいるのは!!」


「わっ!? お兄ちゃん!?」


「なんだ、リリアか」


「『なんだ』じゃないよ!? いきなり大声を出されて、すっごく驚いたんだからね!?」



 茂みの中にいた不審者の正体はリリアだった。

 彼女はTシャツに短パンというラフな姿で尻餅をついており、突然現れた俺のことを見て腰を抜かしたようだ。



「驚かせてごめんな」


「本当だよ!? いきなり声をかけてきてびっくりしたんだからね!?」


「わるいわるい。でも木剣なんて持って、何をしていたんだ?」


「自主練習だよ! 朝起きてからずっと、ここで素振りをしてたんだ!」


「そんなに汗だくになるまで素振りをするなんて、一体何時間やってたんだ?」


「えぇっと‥‥‥太陽が昇る前に始めたから、結構な時間してたと思う」


「だからそんなに汗をかいてるのか」



 太陽が昇る前から素振りを始めたということは、リリアも俺と同じ時間にトレーニングをしていたことになる。

 入学したてでやる気に満ち溢れているのはいいけど、そんな長時間自主練習をしなくてもいいだろう。そんなことをしてもいつか怪我をするだけだ。



「お兄ちゃんは何か勘違いをしているようだけど、これはあたしの日課なんだよ」


「日課?」


「そうだよ! 毎日上下の素振りを1000回した後、斬撃や袈裟切りのような型を反復練習してるの」


「ほぅ。中々いい心がけじゃないか」


「でしょ! もっと褒めてくれてもいいんだよ」


「あぁ。リリアは偉いな。いい子いい子」



 リリアの頭を優しく撫でて上げると彼女は気持ちよさそうな表情をする。

 今の彼女はまるで愛玩動物のようだ。彼女の髪を優しく撫でる度に『うん♡』という吐息が漏れ、思わずときめいてしまう。



「ねぇ、お兄ちゃん」


「なんだ?」


「あたしがやってたこのトレーニングメニューに見覚えはない?」


「リリアのトレーニングか‥‥‥‥‥あっ!? もしかしてこれは俺がサイロンの村でしていたトレーニングじゃないか?」


「そうだよ! よく覚えてたね」


「当たり前だよ。今でも取り組んでるトレーニングだからな。忘れるはずがない」



 まだ俺が駆け出しの頃、実力も実績もない俺は少しでもアレンに近けるように必死に練習をした。

 それこそまだみんなが寝ている早朝に起きて、今のリリアのように人知れず剣を振っていた。



「もしかして俺が村を去ってから、毎日木剣を振っていたのか?」


「うん! だってクリスお兄ちゃんはあたしの憧れだから、お兄ちゃんのようになりたくて毎日頑張ってたんだ」


「俺に憧れたっていいことはないぞ。こんな才能ない奴よりもアレンみたいなキラキラと輝いている人間を参考にした方がリリアもいいんじゃないか?」



 それこそゾンビのように泥臭く戦う俺よりもスタイリッシュに戦うアレンの方が格好いいと思う。

 正直こんな才能のない男のどこが格好いいのか、俺にはわからなかった。


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ここまでご覧いただきありがとうございます!

続きは明日の7時頃投稿しますので、楽しみにしててください!


最後になりますが、この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。

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