第11話 新生活の始まり

「アレン、1つ質問してもいいか?」


「いいよ」


「改めて確認するけど、俺はこれから姫騎士候補を育成するんだよな?」


「そうだよ」


「それなのも関わらず全員が俺の副官になりたいというのは、アイリス王じじぃの考えと矛盾してないか?」



 この話し合いの最中俺が抱えていた疑問はこのことだ。

 王宮で受けた説明だとアイリス王じじぃから王子の嫁候補を育ててほしいと頼まれていたのに、アレンには自分の副官を育てればいいと言われた。



「(アイリス王じじいとアレン、何故両者の意見は食い違っているんだ?)」



 姫騎士を育ててほしいというアイリス王じじいと自分の副官を育てればいいというアレン。

 何故両者の意見がここまで食い違っているのか、俺にはわからなかった。



「それについては問題ないから大丈夫だよ」


「それならもし俺があの3人を自分の副官にしたいと言ったら、アレンはどうするつもりなんだ?」


「その時は王様にそう伝えよう。きっとあの人ならクリスのお願いを聞いてくれるよ!」


「でもそうなったら誰が姫騎士になるんだ? 俺と対等に戦える人間なんて、この世界だとアレンしか思いつかないよ」


「その問題は僕がなんとかするから、クリスは心配しなくていいよ」


「本当か?」


「うん! もしそうなったら1学年下のクラスから姫騎士候補を選ぶようにする」


「下の学年から選ぶ!? 選抜クラスは今年限り編成されたクラスじゃないの!?」」


「それはまだ決まってないけど、今年の成果次第になるかな」


「おいおいおい!? そんないい加減でいいのかよ?」


「いいんだよ。もしクリスがあの3人を自分の副官にしたかったら、僕も一緒に王様に頼み込むから心配しないで!」


「いや、俺は別に副官なんていらないんだけど‥‥‥‥‥」


「遠慮しなくていいんだよ! 前にクリスが言ってたでしょ? 書類作業が大変だから、事務作業が出来る人材が欲しいって」


「それは書類作業専門の人を雇いたいだけで、副官レベルの人間はいらないんだけど‥‥‥‥」



 確かに書類作業が面倒だと以前アレンに愚痴った事があるけど、側近レベルの人がほしいなんて一言も言ってない。

 それこそ近衛騎士団の副団長がその部分を補っているので、俺の側近となる人物は必要ないと思う。



「クリスが指示をすれば、あの子達は何でもやってくれると思うよ。だからアイリス王に遠慮せず、あの子達と過ごす時間を楽しんでね!」



 おや? 今アレンがこの場にはふさわしくない発言をしたのは気のせいかな?

 俺の聞き間違えでなければ、『あの子達と過ごす時間を楽しんでね!』と言っていた。



「(俺は仕事としてこの学校に来ているのに、何故リリア達と学校生活を楽しまないといけないんだ?)」



 アレンの話を聞けば聞く程、あいつの言葉が胡散臭く感じられた。

 もしかするとアレンには俺をどうしても教師にしないといけない理由があるのかもしれない。

 ただその理由が何なのか俺にはわからなかった。



「(今にして思えば、アレンの発言にはおかしな所がたくさんあった)」



 そもそもの話、何故アレンは執拗にあの3人のことを俺に勧めるんだ? 

 今思えば王の間で俺のことを説得している時もいつもと様子が違った気がする。



「(俺が教師になるのを拒もうとすると情に訴えて俺を引き留めるなんて、いつものアレンならありえない)」



 アレンならもっと理詰めで俺のことを勧誘するはずだ。

 それなのに情に訴えてまで俺を教師にしたということは、どうしても俺を教師にしないといけない理由がある気がする。



「なぁアレン」


「何?」


「お前、まだ俺に隠し事をしてないか?」


「かっ、隠し事なんて、僕がするわけないじゃん!?」



 嘘だ。アレンは今明らかに動揺した。

 現に俺が真っすぐアレンの瞳を見つめているのに対して、あいつの目はせわしなく動いている。

 これはアレンが何か隠し事をしている時のサインだ。長年一緒に過ごしてきた俺が言うんだから間違いない。



「(もしかするとアレンには王様とは別の思惑があるのかもしれない)」



 なんとなくだけどそう勘ぐってしまう。

 姫騎士を育成するのは建前で、他の考えを持っている気がした。



「それよりもクリスはいいの? そろそろお迎えが来る頃じゃない?」


「お迎え? どういうことだ?」


「ほら、よく耳を澄ましてみて。外から足音が聞こえてこない?」



 確かにアレンの言う通り、外からドタドタと足音が聞こえてくる。

 その足音は扉の前で聞こえなくなり、その直後校長室の扉が勢いよく開かれた。



「見つけたよ! お兄ちゃん!!」


「リリア!? それにノエルとレイラまでいるの!?」


「当たり前ですわ! 私達はずっとクリス君のことを探していたんです!」


「それこそ校内中を探し回った。そのおかげで足がパンパン」



 勢いよく校長室に入ってきた彼女達の息は上がっている。

 その様子を見る限り、本当に校内中を駆け回っていたのだろう。

 さっさと諦めればいいのに何という執念だ。到底俺には真似出来ない。



「リリア達はさっきの答えを聞きに来たのか?」


「違うよ! 私達はクリスお兄ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べようと思って、ずっと探してたんだ!」


「そうなのか?」


「うん! あの後3人で話し合って、その話は一旦保留することにした!」


「保留ね」



 それはそれで助かるけど、本当に保留でいいのかな?

 一体3人でどんなことを話し合ったのだろう。俺は怖くてその内容を聞くことが出来なかった。



「3人が俺のことを探してた理由はわかったよ。だけどどうして俺がここにいることがわかったんだ?」


「ミリア副校長が教えてくれました! クリス君は今校長室にいるって」


「ミリアが教えただと!?」


「うん! 『さっきアレン校長の事を探していたので、校長室にいると思います』って言ってたよ」


「あいつ‥‥‥余計なことを‥‥‥」



 アレンの居場所を教えてくれたことには感謝しているけど、この子達にまでそのことを教えなくてもいいじゃないか。

 そのせいで俺は再び窮地に陥っている。さっきまで俺がアレンのことを問い詰めていたのに。いつの間にか俺が3人に問い詰められていた。



「それじゃあこれから一緒にお昼ご飯を食べましょう!」


「悪いな、ノエル。俺はまだアレンと話す事が‥‥‥」


「ちょうどよかった! 今クリスと話し合いが終わったから、連れて行っていいよ!」


「ちょっ!? 待てよ!? まだ俺はお前に聞きたいことが‥‥‥」



 俺がアレンと会話終わる前に両腕がロックされる。

 右にはリリア、左にはノエル。2人が俺の腕をがっちりと掴んでいた。



「お前達‥‥‥」


「お兄ちゃん、行こう!」


「今まで会えなかった分、今日はいっぱいお話しましょうね!」


「レッツゴー!」



 駄目だ。ここまでがっちりと腕を掴まれたら逃げることが出来ない。

 力づくで逃げようにもここまで体を固定されたら、いくら百戦錬磨の俺でも抜け出せなかった。



「もしかしたらアレンはこうなることを見越して、校長室に俺を引き留めていたんじゃ‥‥‥‥‥」


「何のことかな? 僕にはさっぱりわからないよ!」



 絶対に嘘だ!! リリア達が来ることを見越して、アレンは時間稼ぎをしていたに違いない。

 その証拠にこいつは今俺のことを見て微笑んでいる。きっとここにリリア達がくることも計算していたんだ。



「それじゃあ校長先生、あたし達はこれで失礼します!」


「うん! クリスのことをよろしくね!」


「『よろしくね!』じゃない!! アレン!! 覚えておけよ!! この落とし前は絶対につけるからな!!」



 俺はリリアとノエルに引きずられながら、校長室を後にする。

 それから俺達は俺が使用している研究室へ移動して、リリア達3人と一緒に昼食を取りながらとめどない話を日が暮れるまでした。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

以上で1章が終了となります。この章は物語の序章となり、リリア、ノエル、レイラ。3人との学園生活は次章からスタートします。


また投稿頻度につきましては次章から1日1回投稿を予定していましたが、しばらくの間朝と夕の2回投稿を続けます。。

これも読者の皆様からフォローや★★★評価をたくさんいただけたおかげです。

本当にありがとうございます。


続きは本日の19時頃投稿しますので、楽しみにしててください!


最後になりますが、この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。

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