第7話 ノエル・バーフェルミア
「いきなり会話に入ってこないでよ!! あたしは今クリスお兄ちゃんと大事な話をしているんだから!!」
「クリス君と貴方の結婚が大事な話というなら、私も指を加えて見てられません!!」
「一体どういうこと?」
「どうもこうもありませんわ!! だって目の前にいるクリス・ウッドワードは私と結婚することが決まっているのですから!! 部外者は手を出さないで下さい!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 一体どういうことなの、お兄ちゃん!?」
「どういうことも何も、何がなんだかさっぱりわからない」
リリアだけならまだしも、こんな美少女と結婚の約束をした覚えがない。
腰まで伸ばしたブロンドの髪をなびかせる色白で綺麗な美少女。そんな彼女が宝石のような蒼い瞳で俺のことを見つめている。
「(頼む!! 頼むから思い出してくれ、クリス・ウッドワード!! お前はこんな綺麗な美少女といつお知り合いになったんだ!!)」
必死に頭をフル回転させるが、おとぎ話に出てくる女神のような見目麗しい美少女のことを思い出せない。
生まれた時から昨日までの記憶を必死に手繰り寄せるが、結婚の約束はおろか彼女と出会ったことすら思い出せなかった。
「(やっぱり結婚というのは出まかせで、本当は1度も会ったことがないんじゃないか?)」
さっきのリリアの時とは違い、それだけははっきりと断言できる。
目の前にいる女の子はそのぐらい特徴的な容姿をしていた。
「本当にクリス君は覚えてないんですか!? 6年前、シャルルの町で約束したことを!!」
「6年前? シャルルの町、シャルルの町‥‥‥‥‥あぁっ!? もしかしてお前はノエル、ノエル・バーフェルミアか!?」
「やっと思い出してくれましたね。そうですわ。私はノエル・バーフェルミア。由緒正しきバーフェルミア家の正統後継者です!」
この口上も懐かしい。6年前エルフが住む町でノエルと初めて出会った時もこんな感じで自己紹介をされた。
あの頃は触れれば壊れるような儚い美少女だったのに、6年も経つとこれだけ綺麗になるのか。
ノエルの成長した姿を見て、彼女の父親でもないのに涙が出そうになった。
「ちょっとお兄ちゃん!! この子は一体誰なの!?」
「あぁ、そうか!? リリアは知らないのか!? 改めて紹介するよ。この子はノエル・バーフェルミア。彼女はシャルルの町っていうエルフが収める国に住んでいる女の子なんだ」
「エルフ? もしかしてこの子は魔法の扱いに長けているあのエルフなの!?」
「いかにも。魔法に関していえば、この世界で右に出る物はいないと言われる種族の末裔ですわ」
ノエルの言う通り、魔法の扱いに関しては人間よりもエルフの方が格段に上手い。
だからこそノエルがこの選抜クラスを選んだ事に疑問を持った。
「(彼女は何故適性のあったクラスに入らなかったのだろう?)」
ノエルレベルの魔法の使い手なら、魔導士や魔法剣士のクラスを選べたはずだ。
それなのにも関わらず、何故自分の強みを生かせない剣士のクラスに入ったのだろう。その理由が俺にはわからなかった。
「(さすがにこればかりはいくら考えても答えが出ないな)」
この疑問に答えを出したいなら直接ノエルにぶつけるしかない。
たぶん彼女なら俺の質問に対して素直に答えてくれるはずだ。
そう信じて彼女にこの疑問をぶつけてみることにした。
「ノエル、1つ質問があるんだけど聞いてもいい?」
「いいですわ」
「ありがとう。ノエルに質問したいことなんだけど、、君は何故自分の適性から外れているこのクラスを選んだんだ?」
「どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。ノエルみたいな魔法の使い手なら、魔法剣士や魔導士の方が向いてるだろう? それなのに何故剣士のクラスを選んだんだ?」
ノエルだったらどちらのクラスに入っても学年トップの成績を簡単に収めることが出来たはずだ。
それなのにも関わらず、彼女はそのような輝かしい未来を捨ててまで剣士のクラスを選んだのだろう?
このクラスは魔法の使用が原則禁止されており、純粋な剣の腕が成績に反映されるので、他のクラスよりもトップを取るのが難しい。
賢い彼女がそのことを理解していないはずがないと思う。
それだけにどうしてこのクラスに入ったのか。その事が俺の気がかりだった。
「クリス君の言う通りです。私も魔法剣士や魔導士クラスの方が自分の適性にあっていると思います」
「だろう?」
「だけど私はどうしてもこのクラスに入る必要があったのです」
「それはどうしてだ?」
「どうしてと言われても‥‥‥‥‥もしかしてクリス君は忘れたんですか? 私との約束を?」
「約束?」
「そうですわ! 私が剣士として一人前になったら、クリス君のお嫁さんにしてくれるって言ったじゃないですか!!」
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「本当にそんなことを言ったの!? お兄ちゃん!?」
「そうだな‥‥‥‥‥」
ノエルと話していて、その時の記憶が徐々によみがえってきた。
あれは魔王軍の四天王がまだ幼いノエルを誘拐して、彼女をアジトに監禁していた時のことだ。
俺は彼女を救う為敵のアジトに単身乗り込み、彼女を救出した直後の話である。
『クリス君、ごめんなさい‥‥‥私のせいでこんなことになって‥‥‥」
『そんなに泣くなよ。ノエルは悪くないんだから、気に病むことはない」
『でも‥‥‥‥‥』
『力がないことを悔やんでいるのかもしれないけど、お前はこれからもっと成長して偉大な魔導士になるんだ。だからこんなことでくよくよするな!」
『はい!』
『今日のことを教訓にして、また明日から鍛錬に励めばいい。努力家のノエルなら今日の敵だってすぐ倒せるようになるよ!』
四天王の1人に誘拐されたことが不甲斐なくて泣いていたノエルを慰める為に俺はそう言った。
そして泣き止んだノエルが俺に向かってこう言ったんだ。
『もしですよ‥‥‥もし私がこの町を出る許可をもらえるぐらい剣士として成長したら、私のことをもらってくれますか?』
『あぁ。その時は俺が責任を持って、ノエルのことを迎えるよ!』
『本当ですか!? 約束ですよ!!』
『もちろんだ。男の約束に二言はない!』
俺は泣きすぎて目元が赤く腫れあがっていたノエルに対してそう言ったんだ。
この時は彼女も喜んでいたし、何も問題がないと思っていた。
「(『男の約束に二言はない!』って、昔の俺はなに格好つけたことを言ってるんだよ!? 滅茶苦茶二言がありまくるじゃないか!?)」
安易な口約束はするべきじゃないと今この瞬間学んだ。
だけどよく考えてほしい。相手はまだ10歳になったばかりの女の子。そんな約束なんて忘れてると思うじゃないか。
よく男は昔の交際相手のことを名前を付けて保存し、女は上書き保存をするという。だから俺との約束なんて遠い昔の記憶として忘れているものだと思っていた。
「どうやらクリス君は私との約束を思い出してくれたようですね」
「ちょっとお兄ちゃん、どういうこと? 何であたし以外の女と結婚の約束をしてるの?」
「それは‥‥‥その‥‥‥」
言えない。まさかこんな昔の約束を覚えているはずがないと思って口から出まかせを言っていたなんて、真剣に交際を迫る2人の前では絶対に言えない。
そして今俺の両脇にはリリアとノエルがいる。2人は俺という緩衝材を間に挟み、目頭を釣り上げて睨みあっていた。
「ちょっとお兄ちゃん!!」
「どっちの約束を優先させるんですか? もちろんクリス君は私を選んでくださいますわよね?」
「違うよ!! クリスお兄ちゃんはノエルちゃんよりもあたしの方を選んでくれるよね?」
怖い、怖すぎる。俺はこれほど怖い経験を今までしたことがない。
魔王と戦っていた時ですら、こんなに冷や汗はかかなかった。
なのに今の俺は着用している白いシャツが透けてしまう程、汗をかいていた。
その様子を見れば俺がどれだけ動揺しているかわかってもらえるはずだ。
「(リリアもノエルも笑顔のはずなのに、何でこんなに圧があるんだ?)」
下手をすると今の2人は魔王よりも威圧感があるかもしれない。
どうすればこの場が収まるのか俺は必死になって考えるが、何も思いつかなかった。
「2人共待って。その話、聞き捨てならない」
「急に何よ?」
「もしかして貴方もクリス君と結婚の約束をしてるとか言わないですわよね?」
「そうだと言ったらどうする?」
「えっ!?」
「もしかして貴方もクリス君と結婚の約束をしているんですか!?」
「うん。しかも最近約束したことだから、貴方達の話よりも信憑性はある!」
そう言って目の前にいる小柄な少女は眠そうな瞳で俺のことを見つめていた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは本日19時頃に投稿しますので、楽しみにしててください!
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