第6話 リリア・マーキュリー
ミリアに学校案内をされた翌日。
入学式を終えた俺は名簿を持って選抜クラスの生徒がいる教室へと向かう。
自分が受け持つクラスへ向かう道中、俺は今日の入学式で起こった一連の出来事を思い返していた。
「それにしてもアレンがこの学校の校長をしているとは思わなかったな」
アレンが壇上に登って挨拶をしているのを見て、大勢の人が見ているにも関わらず驚きの声を上げてしまった。
俺が『やってしまった!?』と思った時にはもう遅い。入学式に参加した人全員が俺のことを訝し気な目で見つめていた。
「生徒達の中には俺の方を指差してクスクスと笑っていた人までいたし、本当に最悪だった」
あれほど恥ずかしい思いをした経験は生まれて初めてだ。
俺は周りの教師達に対してひたすら謝り倒した後、必死になって笑いを堪えるアレンのことを入学式が終わるまで睨んでいた。
「その後はミリアに呼び出されて滅茶苦茶怒られたし、全くいいことがない」
もしかして今日は厄日なのか?
いや、そう考えるのは早計か。さすがにこれ以上悪い事は起きないだろう。
「よし! さっきまでのことは忘れて気持ちを切り替えよう! これ以上生徒達の前で醜態を晒すことは出来ない!」
これ以上格好悪い所を見せたら、生徒達からなんて言われるかわからない。
なので俺は気持ちを切り替え、自分のクラスへ向かった。
「ここが俺が受け持つクラスだよな?」
クラスの前に着くと何度もクラス札を確認し、自分が受け持つクラスだということを念入りに確認する。
これ以上失敗を重ねることが出来ないので、何度も何度も確認した。
「よし! 間違いないな」
クラス札を何度も確認したので間違いない。俺が担当するクラスはこのクラスで合っている。
「さて、俺が受け持つ生徒はどんな人達なのかな。今から会うのが楽しみだ」
これは俺の想像だけど特別クラスにいる人達は、真面目な優等生が揃っている気がする。
それか一癖も二癖もある癖の強い人間が揃っているか。その2択だ。
どちらにしても俺に取ってやりにくい職場ということに変わりはない。
「そう考えると急に気が重くなってきた」
貴族というのは自分1人では何も出来ないくせにプライドだけは一丁前の連中だ。
だから俺が教えようとしても、自分のやり方にこだわり俺の指導に従わない可能性がある。
「まぁいいか。その時はどちらが上なのかはっきりとわからせてやればいい」
俺の実力がわかれば、生徒達も大人しく従うだろう。
教室に入る前、俺は暢気にそんなことを考えていた。
『キーンコーンカーンコーン』
「もうこんな時間か。とりあえず中に入ろう」
俺が教室のドアを開けると中にいる女の子達が一斉に俺のことを見る。
その女の子達は姫騎士候補というだけあって、全員がまごうことなき美少女だ。
「(さすが将来はこの国の姫になる女の子達だ)」
3人共見た目だけでいえば、どこかの国のお姫様と言われても納得してしまう。
そのぐらい可愛い子達が揃っていた。
「初めまして。俺がこのクラスの担任になるクリス・ウッドワードだ。これから3年間よろしくな!」
俺が挨拶をすると3人共押し黙ってしまう。
あまりの気まずい空気に俺はたじろいでしまった。
「がっかりさせて悪いな。みんなアレンの指導を受けたかっただろう?」
「‥‥‥‥‥」
何だ、この気まずい空気は? 俺が話しかけているのに何で誰も話さないんだよ。
目の前に担任の先生がいるのに、3人共下を向き俯いてしまっている。
それに全員どことなく耳や顔も赤いので、もしかしたら怒らせてしまったのかもしれない。
「3人は知らないかもしれないけど、こう見えて俺は魔王討伐パーティーの一員だったんだよ」
「それはもちろん知ってるよ。だってクリスお兄ちゃんは魔王を倒した英雄なんだから、この国で知らない人はいないはずだよ!」
「それはちょっと言い過ぎだと思うけど、俺が魔王を倒したことをよく知ってたな」
「うん! だってクリスお兄ちゃんはあたしの憧れの人だから。忘れるはずがないよ!」
「憧れの人なんておおげさな‥‥‥ってか今、クリスお兄ちゃんって言わなかったか?」
「言ったよ! お兄ちゃん、あたしのこと忘れちゃった?」
「えっ!?」
こんな可愛い子、俺の知り合いにいたっけ?
肩口まで伸びる栗色の髪をなびかせた女の子は期待に満ちた目で俺のことを見つめているけど、俺はこの子のことを全く知らない。
「(こんなに胸が大きくて可愛い女の子と出会っていたならすぐ思い出せるはずなのに、何故俺は思い出せないんだ?)」
大きくてくりっとした目元と特徴的な赤い瞳。そして3人の中でもっともスタイルがいいそのプロポーション。
これほど特徴的で可愛い女の子なんて早々見ないのに、この子とどこ出会ったのか全く思い出せなかった。
「もう! お兄ちゃんったら! 昔サイロンの村であたしと遊んでくれたのに、そのことを忘れちゃったの!?」
「サイロンの村、サイロンの村‥‥‥‥‥あっ!? もしかしてお前‥‥‥あの村にいた悪ガキ、リリア・マーキュリーなのか?」
「そうだよ! 悪ガキは余計だけど、やっと思い出したんだね!」
思い出したという言葉では言い表せない程、俺とリリアの関係は深い。
なぜなら彼女は俺がアレンと魔王討伐の旅に出た時、初めて立ち寄った村で出会った少女だ。
「大きくなったな。俺が15歳の時に村を訪れたから、こうして会うのは7年ぶりか」
「そうだよ! 全然お兄ちゃんが会いに来てくれないから、わざわざあたしの方から会いに来たんだ!」
「俺に会う為にこの学校に入るなんて、相変わらず無茶苦茶なことを考えるんだな」
「だってお兄ちゃんが騎士団の団長になった話を聞いたから、この学校に入学して卒業することがお兄ちゃんに近づける近道だと思ったの」
昔はあれだけ生意気な口を聞いていたのに、可愛いことを言うようになったな。
出会った時はツンケンしていて俺と目を合わせてくれなかったのに。俺が見ない間に成長したな。
「覚えてる、お兄ちゃん。あたしとの約束」
「約束?」
「そうだよ。お兄ちゃんがサイロンの村を離れる時、大きくなったらあたしと結婚してくれるって言ったよね?」
「えっ!? 俺、そんな約束なんてした!?」
「したよ!! お兄ちゃんが村を出る時、あたしにそう言ってくれたじゃん!!」
「あぁっ!? あの時のことか!?」
それは魔王軍の先遣隊を倒し、リリアの住んでいる村を去る時のことだ。
アレンと共に次の町に行こうと村を出ようとした時、リリアが俺にこういったんだ。
『クリスお兄ちゃん』
『何だ?』
『あたしが大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんにしてもらえないかな?』
『お嫁さん? もちろんいいよ』
『本当!? やったぁ!』
『俺はこれから魔王を討伐しに行くからしばらくリリアの側にいることが出来ないけど、父さんや母さんの言う事を聞いていい女になれよ』
『うん! 誰もが振り向くような立派な女性になってお兄ちゃんに会いに行くから、絶対に生きて帰ってきてね!!』
サイロンの村を出る時、確かこんなやり取りをリリアとした気がする。
ただあの時『あたしもついていく!!』と言って泣きじゃくるリリアを納得させる為にはこう説得するしかなかったんだ。
「(それにまだ9歳になったばかりの女の子が、そんな昔の約束を覚えてるなんて思わないだろう)」
現に俺はリリアから言われるまで、その約束を忘れていた。
だからリリアも俺同様に約束を忘れていると思っていたけど、忘れずに覚えていてくれたようだ。
「それでお兄ちゃん。あたしと結婚してくれるんだよね?」
「えぇっと‥‥‥‥それは‥‥‥‥‥」
「なるほどね。返事はわかったから、それ以上は答えなくていいよ」
「なんかごめん」
「いいの。小さい時の約束だし、覚えてなくても無理ないよ」
なんて物分かりがいい子なんだろう。昔のリリアなら烈火のごとく怒り泣きじゃくっていたのに。本当に成長したな。
だけどこういう態度を取られるとリリアに対して罪悪感が湧いてしまう。
昔の約束とはいえ彼女を傷つけてしまったことに対して、俺の心が痛んだ。。
「ちなみにお兄ちゃん、今彼女はいるの?」
「そういう人はいないよ」
「それなら提案なんだけど、試しにあたしと付き合ってみない?」
「俺がリリアと付き合うの!?」
「そうだよ! この学園にいる3年の間付き合ってみて、お兄ちゃんがあたしのことを好きになってくれたら、その時は結婚しよう!」
リリアからされた提案はすごく魅力的だ。
目の前にいる少女は7年前とは違い、見目麗しい美少女へと変化した。
俺も姫騎士を育成するという目的さえなければ、ぜひともお近づきになりたい。
そのぐらい今のリリアは魅力的な女性だった。
「ねぇ、どうなの? お兄ちゃんの答えを聞かせて!」
「そうだな。俺は‥‥‥‥‥」
「ちょっと待って下さい!! クリス君が貴方と結婚するなんて、聞いていませんよ!!」
突如椅子から立ち上がったのは腰まで伸びるブロンド髪をなびかせた耳の長い美少女である。
手足が長く色白で綺麗な女の子が俺とリリアの会話に入ってきた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは明日の7時頃に投稿します!
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