第3話 歴史ある学校

 アレンから王立クロムウェル学園の教師に任命された数日後、俺は城から離れた場所にある大きな建物の前に立っていた。



「城以外にこんな大きな建物を立てていたのか。この国の建築技術は進んでるな」



 この辺りには足を運んだことがなかったので、こんなに大きな建物が建設されていたことに驚いた。

 俺は城下町しか見ていないから知らないだけなんだけど、改めてこの国が広いことを思い知らされる。



「この学校に初めて足を運んだけど、予想以上に大きいな」



 門の大きさなんて俺の身長の2倍の高さがあり、学校の敷地面積もものすごく広いらしく、正門から建物までの距離が自然と遠く感じる。



「ここがこれから俺が働く職場か」



 王立クロムウェル学園。この国が建国したのと同時に創設された教育機関であり、最先端の学問を学べる最高の学術機関と言われている。

 基礎的な教養に加え剣術や魔法といった幅広い学問を学べる為、近隣諸国からも人気が高い。

 様々な学問が学べる性質上、この学校を卒業する時には幅広い知識が身に着く為、卒業後国の中枢で働く人間も多いと聞く。

 また他国からの留学生も数多く受け入れており、他国との交流も活発に行われている。

 そういった事情もあり入学するのが非常に難しく、世間ではこの学校に入学すれば輝かしい未来が約束されると言われているようだ。



「エリートしか入れない学校か。なんだか面倒な人間が多そうだな」



 正直やる気は全くないが、姫騎士を育ててほしいとアレンに頼まれたのでやれることはやるつもりだ。

 一体この学園にはどんな人間がいるんだろう。願わくば昔騎士団に居座っていたような性根の腐った人間がいないといいな。



「確かアレンの話だと、ここで待っていれば迎えの人間が来るんだよな?」



 予定ではこの学校に在籍している職員が俺のことを迎えに来てくれるらしい。

 だが約束の時間になっても待ち合わせ場所には誰も来なかった。



「遅いな。どうしたんだろう?」



 アレンからもらった案内用紙を何度も確認したけど、日にちや時間を俺が間違っているわけではなさそうだ。

 となると学校側が俺のお迎えを忘れている可能性がある。

 だからといって俺に何か出来るわけでもなく、お迎えをここで待つしかない。



「このままここで待ち続けた結果、不審者と間違われないよな?」



 今日からこの学校の寮で暮らすことになるので手荷物も多い。

 そのため傍から見るとどこかの片田舎から出てきた不審者のようにも見える。

 町のパトロールをしている衛兵に見つかれば、間違いなく詰め所に連れて行かれるだろう。

 そのぐらい今の俺の姿はエリート学校に無断で侵入しようとする不審者そのものだった。



「もしかしてアレンが俺に日にちを伝え間違えたのかな?」


「間違えていませんよ。クリス先生はちゃんと遅刻もせず、約束通り待ち合わせ場所にいます」


「うわっ!? びっくりした!」



 いきなり肩を叩かれたので誰かに襲われたと勘違いしてしまい、思わず腰に携えていた剣の柄を掴み身構えてしまう。

 俺が背後を取られるなんて久しぶりの出来事だ。

 気配もなく現れた女性に対して、俺は最大限の警戒心を持って接していた。



「(いきなり俺の背後を取るなんて、この女性は何者なんだ?)」



 今まで俺は数々の敵と戦ってきた為、誰かに近づかれたら気配でわかる。

 だがこの女性が現れた時、人の気配を全く感じられなかった。

 このような経験をしたのは魔王軍の四天王と戦った時以来である。



「(この女性は一体何者なんだ?)」



 もし彼女と戦闘になったら本気を出さないと簡単にやられてしまう。彼女はそれぐらいの強者つわものだ。

 もしかしたらこの人は俺を迎えに来た学校の職員ではなく、他国から送られてきたスパイの可能性じゃないか? 不意にそう思ってしまった。



「(さっきからずっと微笑んでいるけど、一体何を考えているんだろう?)」



 彼女の所作を見ても全く隙が無い。

 もし俺が戦闘を始めたら、彼女もすぐさま戦える準備が出来るような状態に自然となっている。

 俺は何が起こってもいいように最大限の警戒をしながら、目の前の女性と話す事にした。



「遅れてすいません。職員会議が少しだけ長引いてしまいました。貴方がクリス・ウッドワード先生ですね」


「はい、そうです」


「自己紹介が遅れました。私はこの学校の副校長をしている、ミリア・サーシャベルトといいます」



 眼鏡をかけた童顔の女性、ミリア・サーシャベルトはそう言って俺に会釈をした。



「あんたが‥‥‥この学校の副校長だって!?」


「はい、そうですよ。何かおかしいですか?」


「おかしいことはないけど、副校長にしてはやけに若くないか?」


「クリス先生がそう思うのも無理ありませんね。だって私、まだ22歳ですから」


「若っ!? てか、俺と同い年なの!?」


「そうみたいですね」



 『そうみたいですね』じゃないだろう!? 22歳でこの学校の副校長に選ばれるなんて、どういう人生を送ればそんなに早く出世が出来るんだ!?

 それこそ多額の賄賂を渡さなければ、この国最高の学術機関である名門校の副校長になることは出来ないだろう。

 そう思ったら目の前の女性、ミリア・サーシャベルトのことが胡散臭く感じられた。



「(でも賄賂を渡したからといって、簡単に副学長になれるわけではないよな?)」



 この学校は長い歴史を重ねた名門校である。それゆえ賄賂を渡したところで副学長にまで昇進することは出来ないはずだ。

 そう考えると彼女は実力で副学長の座を勝ち取ったのだろう。

 この年齢で副学長に選ばれるという事はそれだけ彼女が優秀な人材だということの裏返しかもしれない。



「ここで立ち話をするのも野暮ですから、学校を案内しながら色々と説明させていただいてもいいですか?」


「あっ、あぁ。頼む」



 正直なことをいうとこの女性を信用していいか俺にはわからない。

 まだ年端も行かない彼女が学校の案内をするということは、もしかすると俺がこの学校で働くことを良しとしない勢力から嫌がらせをされている可能性がある。



「クリス先生、どうしました?」


「何でもない」


「それなら早く行きましょう。まずはクリス先生が学生達と交流することになる教室へ案内します」


「わかった」


 ミリア副校長に先導の元、俺は学内へと入る。

 案内されてる最中も俺はミリア副校長に警戒しながら施設を回った。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは本日の19時に投稿する予定なので楽しみにしててください!


最後になりますが、この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。

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