第33話「うまうま!」

 ばっしゃーん!!


「ぶはっ!!」「わぷっ!!」


 うぉぉお、ひ、ひでぇ匂いだ!


「ち、地下の水牢だって忘れてたわ……」

「忘れるようなことじゃねーだろ!」


 まぁ、それはマイトさんも同じこと。

 スパコーンてレイラをはたきつつも、仕方ないとばかりに周囲を探す。


 すると、あったあった、ありましたよ!!


「ま、これでチャラかな」

「チャラぁ……?」


 いったーい、と涙目になりながらもレイラが目を向ければ、なんとそこには地下の水牢がぽっかり。

 その先には黒々とした空間が広がっていたが、どうやらダンジョンの不思議パワーでやや明るくなっていた。

 そしてそこに鎮座しておりますわ、宝箱!!


 ──それも5つ!!


「んんきゃあああ! 開いた、やった! やったぁぁあ!!」

「ふふん! どーよ!」


 レイラちゃん、お宝に大興奮。

 マイトに抱き着き、テンションマックス!!


 しかも、どうやらこのダンジョン相当難関らしく、推奨レベルはCだと言うが、地形条件のせいで挑戦者はほぼいないと言う場所だ。


 ……まぁ不人気ダンジョンだしね。


「じゃー喜ぶのは後回しにして、まずは回収して、地上に戻ろうぜ」

「はいはーい♪」


 さすが盗賊職のレイラちゃん。お宝を前にさっそく目をドルマークにしてウッキウキ。マイトが何か言う前に、さっさと回収してしまった。


 ちなみに、壺と樽もあったけど、さすがに壺の方は水没していたこともあり、中の薬瓶も水浸してた。


 まぁ使えそうなので一応回収、樽も同様。



 なのでしめて────ダララララララ、ディン!!



 


 金貨袋    × 1(中身は金貨35枚!)、

 『牙のナイフ』× 1

 『鱗の盾』  × 1

 『マナポーション(中級)』×5、


 そして、魔石はなんと!!

 青の魔石(大)× 1、


 これは超高値で売れる予感!


 さらには壺から、

 『マナポーション』と『アクアマリン(小)』


 樽から、

 『銅貨30枚』と『どぶろく』×1、

 『干し肉(高級)』……は水浸しになったので、捨てていくことに。他は密閉されていたので、まぁ大丈夫だろう。


 それにしても、結構うまいな……!

 これがあと10個以上も?!


「す、すげーな『エルフの古の山塞』!!」

「そりゃねー。まぁ、この程度で効率がいいって感じれれるのはアンタだからよ。普通は一個でもクリアしたらもう撤収コースだし、その労力に見合うかと言われれば微妙なのよ」


 チラッ。


 なるほど。

 そう言うレイラが視線を向ける先は普段は水で満たされているであろうボス部屋。

 ここは宝物庫とボス部屋が区切られているタイプだが、仕切りはタダの格子でしかない。


 ……なので中は丸見えだ。


 その先には多数の腐った死体がくっ付いて一つの生物──群体になった『ボディー・フローター』という気味の悪いモンスターがデローンと床に広がっていた。


 本来なら、あれらが水中を無数の手足で泳ぎながら襲ってくると言うのだから、中々シュールな光景だろう。つーかキモイ。


 そして、水の中を突破して奴を倒して──ようやくこの宝をGET出来ると言うが……。

 

「たしかに、微妙っちゃ微妙か」


 水没エリアを抜けるだけで神経を擦り減らすだろうしな。

 そのうえでこの報酬なら基本赤字になるのではないだろうか? 水呼吸できる魔道具や魔法もあるが、どれも貴重だ。


 当然、クリアするだけで精一杯。

 そのあとで、他のダンジョンを挑戦しようと言う気にはならないだろう。


 ……オマケにここ・・は街から離れ過ぎているし、ファスト・ランですぐに帰れたとしても、しょっちゅうきたい場所かと言えば微妙なところ──。


「なるほど、不人気ダンジョンか」

 納得。

「そーいうわけ。で──どうする?」


 そういうレイラは期待に満ちた目をマイトに向ける。

 続けるのか、辞めるのか──と問うているのだろうが、そんなの決まってる!


「おうよ──どんとこーい!!」


 まだまだいけるぜ!

 余裕余裕!!


 あ、でも──。


「……地下はパスしとこう」

「同感……」


 うん。


 二人ともずぶ濡れの腐った水で酷い匂いを放っている。

 そうでなくとも、地下での発破は危険極まりない。モンスターが出現しても逃げ場がないしね。


 そうして、改めて探索の方針をきめると、宝物庫から出るマイトたちであった。




 はぁ……。上るのめんどくせぇ。




 ※  ※  ※




 そうして、こうして──不人気ダンジョン『エルフの古の山塞』を攻略していくマイトたち。


 ……いや、攻略といっていいのか、どうか。


 なにせ、レイラが知る限りの出口と、

 そうでなくとも、山塞のあちこちに残る冒険者の痕跡から出口にあたりをつけ探っていき、地下以外の出口が比較的アクセスしやすい場所を中心に攻略していくだけの簡単なお仕事だ。


 それを、複数回繰り返すだけで大金GET!!


 日が暮れるタイムリミットまでに6つのダンジョンをクリアし、その稼ぎたるや中々の物!!


 そして、現在の二人は一端安全地帯を確保して、戦利品を広げてニヤニヤしているところである。


 そう。ニヤニヤである。ニヤニヤ。


「……す、すごいわね」

「お、おう──」


 ……二人の前に燦然と詰みあがる戦利品。

 大量の金貨に、珍しい装備品の効果な薬とお高い魔石の山だ!



 ニヤニヤニヤニヤニヤ……。



 思わずこぼれるニヤケ顔を抑えることができずに、二人して脇をつつきあう。


 しかして、その内訳は──。


 『城主の見張り台』

  金貨         ×30枚

  魔鉄の強弓      ×1

  古木のウッドヘルム  ×1

  マナポーション(中級)×4

  赤の魔石(大)    ×1



 『突撃兵の詰所』

  金貨          ×40枚

  エルフ謹製のロングソード×1

  エクストラポーション  ×1

  無色の魔石(中)    ×3



 『古代兵器の整備場』

  金貨              ×40枚

  ポイズン水パイクシールド    ×1

  スカルレガース         ×1

  エクストラポーション      ×1

  無色の魔石(大)        ×1

  ファスト・ラン(鑑定済み)の巻物×1



 『死者の曲輪』

  金貨     ×30枚

  ボーンアックス×1

  呪怨布    ×1

  ハイポーション×5

  黒の魔石(中)×3

  未鑑定の巻物 ×2種

  


 『要塞の倉庫群』

  金貨         ×35枚

  忍びの直刀      ×1

  古木の小手      ×1

  骨の苦無       ×3

  マナポーション(中級)×10!

  無色の魔石(中)   ×2

  未鑑定の巻物     ×3種

  未知の薬瓶      ×3



 『屍の閲兵場』

  金貨     ×50枚!

  装飾刀    ×1

  呪言の木簡鎧 ×1

  ハイポーション×3

  黒の魔石(大)×1



「んきゃぁぁああ! 凄い凄い!!」

「はっはっは! 大量大量!!」

 抱き着くレイラちゃんをいなしつつ、上機嫌のマイト。


 ──なんたって、金貨だけで合計225枚!

 225枚ですよ!!


 日本円換算でいえば、一枚10万くらいが、225枚。

 つまり──2250万円ですよ!!


(うぉぉぉお……。すげぇ稼ぎだぜ!)

 

 そのほかにも小さな宝石類がザクザクに銅貨銀貨もザックザク!

 珍しい薬草や、高級お酒に食材となかなかの充実っぷり!!

 毒薬のほか、普段使いできそうな薬品も手に入った。


「いやーす、ごいな!! い、一日で何ちゅう稼ぎだよ……!!」

「や、やばいわね。これ────え? これ一生食べていける額はあるんじゃ?」


 あ、あはは、それはさすがに────……。


 フォート・ラグダの衛兵の給料はグラシアス・フォートよりも若干高めで一カ月金貨で3~4枚。

 それをもとに計算すると、年間約36~48枚の金貨で兵士一人が生きていける。


 とすると……。


「はは、一生は無理だな──せいぜい5,6年じゃね?」

「馬鹿! それってば金貨だけの話でしょ──魔石のでっかいのっていくらで売れると思ってんのよ!!」


 そう言えば魔石は大きくなればなるほど価値が高くなるらしい。

 なにせ、基本的に大きい魔石は大型で長年生きた魔物からしか算出されないのだ。


 ただし、例外はダンジョンの宝物庫。


 そこから算出されるデカイ魔石は純度も高く貴重品とされているんだとか。

 ……もっとも、魔法杖か、元々数の少ないアーティファクト級の魔道具に使うしかないため、需要は低いらしい。

 それでも、二人にとっては大金で、その価値は最低でも金貨100枚クラス。


 つまり大きい魔石を3つGETしていたので──。

 え~っと……。


「……ぶふぉ!!」

「んきゃ!! き、きったいなわね!」


 あ、ごめん!

 もろに唾が──って、いやいや、それどころじゃありませんよレイラさん!!


「え? これ──……3個あるけど」

「そーよ。3個で金貨300枚。……つまり、この品を全部あわせると、軽~く金貨500枚はくだらないわ」


 ぶほぉぉおっ!!


「んぎゃ!! だ、だから──もう……」


 顔を拭きふき、紅潮した顔のレイラちゃんもそれ以上うるさく言わずに再び目をキラキラ──。


「……で、どーする?」

「え? どうするって?」


 再び、背後のダンジョン群をチラチラ見やすレイラちゃん。

 そして、レイラちゃんの目線誘導にしたがい真上を見ると陽はまだまだ高い──時刻は昼を少し回ったくらいかな。


 ふむ、つまり──まだまだ日没までは時間がある。

 ……ってことは、


「あと、一つか二つは回れるな」

「やった!」


 いや、『やった!!』って……。

 まぁ、分かるけど──、


「ただそのだな。ダンジョントライ事体には問題がないんだけどね。一つ重大な問題がだね────」

「へ どうしたの青い顔して??」


 ……うん。


「いや、実はだね、さっきからお腹ちゃっぷん・・・・・ちゃっぷん・・・・・なのよ──」


 マイトさんね、魔力が全然ないの。


 なので、それを補うためにマナポーションをがぶ飲みしてなんとか凌いでいるんだけど、うん、そろそろ────。


「おっぷ」

「ちょっと大丈夫ほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ──!!



 ぎゃ、ぎゃっぁああああああああああああああああああああああああ!!



 せっかく、確保した戦利品吟味のための安全地帯はレイラの悲鳴によって失われることになるのであった──。

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