第34話「そこに顔があるから」


 ギャーギャー!!

  ウォォオオオオオン!!


 無数のモンスターが群がるなか、大量の戦利品をかかえて、ひーこらひーこら、逃げ惑うマイトたち。


 なんとか、入口付近まで撤収し、要塞外に逃げ出すことに成功し、一安心。


「……あーもう、ひどい目にあった! アンタがあんなとこで騒ぐからモンスターが追って来たじゃないの!!」

「うぅ、面目ねぇ……あ、ダメ、まだ腹がががが」


 戦利品を吟味中、盛大にリバースしたことで大騒ぎした二人であったが、当然ダンジョン近くでそんな大騒ぎをすれば魔物だって寄って来る。

 おかげで全力で逃げる羽目になったわけだけど、走ったばかりだからか、また──ウェロッ!


「ちょ! 今度顔にかけたら、マジで斬るからね!!」

「そ、そんなこと言われても──ウェ」


 ちょおぉおおおおお!


「いやもう、マジなんなのアンタ!!──いい? 百歩譲って吐くのはしょうがないわよ──マナポーションのまずさは有名だしね。それを今日だけで、え~っと、」


「45本──」


「そう、45本も飲んだらそりゃ吐きたくもなるし、むしろよくぞそんだけ飲んで耐えたと褒めたたえたくもなるけど、なんでわざわざ人の顔にふっかけえぇええええええええええええええええええええええええええ」


 うえろろろろろろおろ……!


 ビチャビチャビオチャ……。


「……ッッ──ッ!」

「ふぅ」


 スッキリ──。

 なんで顔にかけるのかって?


「そりゃ、そこに顔があるからさ」


 キラーン!


 リバース直後の至福感に包まれたマイトさんがいい笑顔でレイラに笑いかける──う~ん……レイラちゃん、凄い顔になってるで?


「……ッ!」


 え? なに……? 聞こえない。

 え? ゲロで口があけられないって?


 顔面が二目と見れない状態になったレイラちゃんが、身振り手振りでアピールしている──。

 

「──ふむふむ、『こっち・・・』か『宝物庫からでた未知の・・・・・・・・・・薬品・・』のどっちか選ばしてやる──? あはは、ヤダな……そんなの選べなあああああああああああああああ」


 ビュン!!

 すれすれを掠めるレイラちゃん自慢のシリンジャ―ナイフ!!


 ──あっぶなー!!


「あ、あたったらどーすんだよ、バカ!!」

「ッッ!……ッ!」


 え? なに?


 当ててんのよ! そして、バカはアンタだって?


「わははは、当てるほどのモンないだろうに、」


 ……だいたい馬鹿とは失礼な。馬鹿とは!!


 つーか、ゲロのせいで視界ゼロなのに、なんで正確にシリンジャ―交換してるの?!

 それ確かあれ・・でしょ!? 爆死毒でしょ?!


 ……って、

「あかんあかん!」


 それ、あかんて!!

 あぶないて!!


「もー、なに?! 見えてないくせに、なんか今、シリンジャ―ナイフの中に爆死毒と未知の薬品混ぜたよね?!」


 ……それ絶対ヤバいって!

 一回落ち着けって!!


「ほ、ほらぁ! なんか刃先から悪臭してるし、なんか陽炎のようなものが立ち上ってるよぉぉおお────って、いったぁぁああ!!」


 ──ビュンッ!!


 か、掠った掠った!

 今、掠ったって!! そして、腕に薬品が入ったぁぁああああ!!


「いたぁぁあああい!!」

「痛くしてんのよぉぉお!!」


 あ、喋った。


「うっせー!! お前はもう、しゃべるなぁぁぁあ!!」

「ちょ、ちょ、ちょぉぉおおお! そんな理不尽なぁぁああ!!」


 どっちが理不尽じゃぁっぁあああああああああああああああああ!!

 お前の顔も二目と見れないようにしてやろうかぁぁぁあああああ!!


「──ぎゃぁぁあああ!!」


 怒髪天をついたレイラにナイフに追われてマイトはフィールド上を駆けまわすのであった──……そして、


 …………。


 ……。


「はー。ひどい目にあったわ」

みーとぅMe too……」


 ふごふご


 何か怪しい薬品の影響で破裂寸前にパンパンに膨らんだ顔のマイトが、涙を流そうにも膨れ上がった瞼のせいでそれすら溢れない顔でようやく呟く──。


「ふん、自業自得よ。──おかげ様でもうそろそろ日没だしね!」

 そして、死ね!


 ブスッとした表情のレイラちゃん。

 日がだいぶ傾いてきたのを見て、汗と……ゲロを拭う。


「そ、そうですね。……そのぉ」

「わーってるわよ。さっきのは戦利品の分配を多めでチャラにしたげる」


 あ、はい。

 ありがとうございます────ただですね、その、わざとじゃなくても、吐き気は突然やってきまして──。


「顔にかける必要ないでしょ!! 顔にぃぃいい!」

「いやだってほら──そこにあったら、こう、ね」


「なるかバカ!! それとも何かぁぁああ! アタシに顔は便器かぁぁあああああ!!」



 …………二コリ。



 パンパンの顔でいい笑顔のマイト君──────って、ちょっとちょっと、ナイフはそろそろしまおうぜベイビィ。


「アンタは命をしまいましょうかぁぁ!」

「さーせん。はい、さーせんです。決してレイラちゃんのお顔を汚すつもりはなく、ただその──ほら、うん、さーせん」


 いや、ホント──なんでゲロかけたんだろ、俺。


「ったく、ほら行くわよ。シャワー代もおごってもらうからね」

「はいはい──」


 はぁ、そうして溜息をついたレイラとマイトは戦利品を大量に担いで街に引き返すのであった。

 その姿を、要塞の内部から多数の魔物と動く植物が恨めしそうに見ていたが──ダンジョンは今日も明日も変わらずそこにあり続けるのであった。



 そして、



 宿について、店主に嫌な顔をされながらもチップをはずんで時間外のシャワー浴びた二人。


 「「ふー。つかれたー」」


 ホカホカと頭から湯気をたてながら、ベッドにどっかり胡坐をかいて戦利品を分配開始。

 そして、ついでとばかりに明日の予定について話し合う。


「……えーっと、とりあえずポーション系は俺が使う分を除いて全部売るとして──魔石は買い取りがあればその時売っちまおう。装備も全部だな」

「いいわよ──あ、これは私が使っていい?」


 骨の苦無と小手──か、いいんじゃね? 何の骨か知らんけど。


「あ、『ファスト・ラン』の巻物も一応持っとくか、何が起こるかわからんしね」

「いいわね──それで、明日なんだけど、」


 うん。


「……場所は同じでいいかしら? 今日は半分お試しなところもあったし、残りの地上のダンジョンをもう少し探索しましょ、そのなかで一番効率が良かったところを再度攻略……どうかな」

「いいんじゃないか──それに今日の結果でいうと、『要塞の倉庫群』が一番うまかったしね」

「あーいいわね、あそこ! 珍しく宝箱が7つもあったし!」


 うんうん、そうそう。

 非常に珍しいタイプの宝物庫だった。


 おそらくダンジョンも元の地形にある程度左右されるのだろう。

 そのため大量の物資をため込んでいた地形がダンジョン化すると宝箱も増えるのかもしれない。

 ……それでいくと、どっかのお城がダンジョン化したりしたら、すごいんじゃなかろうか。

 いや、でもその場合はお城全体がダンジョン化するのか?


 ……んーわからん。


「じゃあ、決まりね。他のところがイマイチだったら、『要塞の倉庫群』を何度もトライする──どう?」

「OKそうしよう」


 うむ。


 ぶっちゃけ、いろんなところをグルグル回るより一か所を何度もトライする方が効率的だろう。まぁこの辺は検証がまだ済んでいないのでそれ次第。


 つまり、宝箱回復のクールタイムがあるかどうかだ。


 おそらくあるとは思うのだ。

 でなければ──さすがに、まずいだろう? 連続で時間を置かずにトライできるなら、それだけで億万長者だ。極端に言えばずっと発破と宝物庫突入を時短で繰り返すだけでいいのだから。


 少なくとも、数日後には宝物庫の中身は戻っているので、二度と使えないということはない。

 ならば、連続トライ時間を検証するのはありだろう。


「で──それはそれとして、」

「ん?」


 突然神妙というか、渋い顔のレイラ。


「たしか、『要塞の倉庫群』の出口の厚さは8000mmなんだっけ? アタシ、詳しくはそう言った数値の意味が分かっていないだけど、アンタ的には全快状態で、マナポーションを最低4~5本……。空っぽになった状態だと、7~8本飲まなきゃダメってことよね」


 う……。

 そ、そうだった──そうだった!


 ってことは──……例えば10回も連続トライしたら、最初の5本はさておき、

「……え、一回やるたびにマナポーションを8本? そ、それを一日に何回も繰り返すの?」


 え? 無理無理。

 絶対いやだけど──?


「……まーそう言うと思ったけど。じゃーどうすんのよ?」

「え。いや、その……」


 え? え? え?

 どうって言われても──えーっと…………。


 マナポーション、一か所あたり8本?!

 それを延々とトライしまくる??


 …………。

 ……。


(──マ、マジでぇぇええええええええええええええ!)


「い、いやいやいやいや、無理無理無理!! そんな無理!!」


 また顔にかけちゃうううう!!


「いや、なんでよ!! そこはおかしいでしょ!!」

「いやいや、おかしくないよ!! だって吐くもん!! ぜったい吐くもん! 最近はちょ~~~~~っと慣れてきたけど、吐くもん!!」


 だーかーら!!


「吐くのはしょうがないけど、なんでアタシにかけるのよ!! 刺すわよ!!」

「んむむむー!」


 この子マジで刺すからなー!

 でも吐いちゃうからなー!


「いや、だからぁ……。そこ悩むとこじゃないでしょ……」

「いや、悩むよ!!」


 なんでよ!!


「はぁ。もう、わかったから、とりあえず──その顔にうんぬんは、置いといて──」


 おいといての仕草のレイラちゃん。

 置いといていいのね。じゃあ、かけるか──…………さーせん。


 ジロリッ!


「……ほんっとに、もう!──で、その吐く方は別にして、さすがにマナポーションを一日に何本も飲むのってどう考えても問題ありよね?」

「ありだな」


 ありすぎる。


 というか嫌だ──。今まではギルド憲兵隊とかの妨害があったせいで、それほど連続で飲むことのなかったが、今日と──そして明日からは違う。

 爆音がしたとて、妨害がない以上何度でもトライできるのだ。


 そして、何度もトライできる・・・・・・・・・ということは、

 確実にマナポーションを何本も飲むことになるわけで、……え? それが80本?


「無理無理無理無理!! 普通に嫌だって!! 死んじゃうって!」

「わかってるわよ──あれ・・の中身は何か知らないけど、尋常じゃない味だし、あれだけ吐くってことはそもそも体が絶対受け付けないってことでしょ?」


 うーん……。体が受け付けないかどうかはイマイチ──健康そうな味ではないけど、

 まぁ、単純に飲みすぎだ。


 だけど、その「飲みすぎ」も問題だと思う。


 だって、考えてもみてみ?

 日本でだって栄養ドリンクを80本ガブ飲みしたらどうなるか────死ぬわ!!


 つまり、それよりも中身が謎成分のマナポーションがぶ飲み……あ、これもしかしてかなりヤバい?

「ヤバいでしょうねー」

「うごごご……。そりゃそうだよなー」


 だけど、マイトさん、魔力ゴミカスなので、マナポーションなしじゃせいぜい低ランクのダンジョンしか回れない。

 そして、回復のためには一晩くらい休まないといけない──まぁ、低ランクダンジョンでも暮らしていくぶんには、問題ないんだろうけど──……。


 それだといつまでたってもマイトはレベル1のまま。

 なんとしても金を稼いで──魔法装備かミスリルの装備を手にいれない、と……あれ?


「ん、んん?」


 なんでこんなにダンジョンの出口ぶっとばして金稼いでたんだっけ?

 そも、確か魔法装備を買おうとして……。そして、そのための金を稼いで、魔法装備を買う────……あれ?


「その装備で、おれ──」

「そーよ。ようやく原点に戻って来たわね」


 にこり。


「……え?」


「ばーか。何のために、アタシ雇ったのよー」

「え? そりゃ、顔に──」


 ジロリッッ!


「あ、そうか!!」

 レイラちゃんを雇った(?)のかは口止め兼護衛・・──つまり、


「そーよ。別に、アンタの魔力を上げる方法は何もマナポーションがぶ飲みだけじゃないでしょ」

「そ、そう、だった……」


 そうだよ、

 そうだよ──そうだった!


「ふふん、じゃ、明日からの方針は決まりね」

「あぁ、そうだな!」


 ガシッ!!


 意見の一致を見てマイトとレイラちゃん、硬く握手を交わす。

 そう、マイトさんのマナポーションがぶ飲みを避けるため、そして、今後の健康とレイラちゃんの顔面の安全のために────!!



「「レベルをあげるぞー!」」



 おー!!




 マイト、レイラ。

 装備を整え、ダンジョンを破壊するとともにレベル上げにトライするのであった──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る