第31話「ダンジョンたくさん!」
うぉぉぉおおおおおおおん…………。
風のうねりの様な、
亡者の叫びの様な不気味な声のこだまする山の要塞──。
そこは遥か昔に放棄されたにもかかわらず、絡み合ったの木々の成長に伴い、今もうねり、のたうち、絡み合いながら上へ横へ下へと成長を続けていた。
「ひぇ!……な、なんか視線を感じる」
ビクビクしたマイトさん。
レイラちゃんの細い腰にキュッと抱き着きおっかなびっくり──。
「なんかじゃなくて、見られてるわよ──めっちゃくちゃね……って、どこ触ってんのよぉ!!」
「あだぁ!──な、殴るなよ。腰くらい、しがみつかせてくれよー」
しがみつかせてくれって……。
そこ、腰じゃないの!!
レイラちゃんが真っ赤な顔で、ピーピーと
「ピーピーとは言ってない! ピィィイ!!」
「いや、言ってる言ってる──つか、腰じゃなきゃなんだよ、スベッスベッの真っ平だぞ…………あ、硬──おっぶ!!」
いっだ……?
え、あれ? 鼻血でてないこれ──?
「今度はこれで殴るわよ……」
スチャキッ! とナイフをちらつかせるレイラさん。
「それは殴ると言うか刺すの間違いでは──あと、鼻血が止まりません……」
つーか、さっきの腰じゃなくて、なんだよ?
マイトさんより、ちっこいレイラちゃん。
そして、マイトさんがおっかなびっくり、しがみつくくらいのちょうどいい位置────あー。
「あー! じゃないわよ!! なんで納得&ちょっとかわいそうな子を見る目になってるのよ!! ア、アアア、アタシだって、そのうちもっと、こう──」
「はは、ないない、あはは──おっごっ」
いった。
あれ? なんか背中がチクチクする────って、刺さってる刺さってる!
「殴るって言ったでしょ」
「いや、痛った! 言ったけど、いったぁぁああい!」
あと、背中って──君ぃ!
逆手で刺したでしょ?! こう、暗殺者が首を掻くみたいに、逆手にもって背中をぐさーって殺意高いな。おい!!
「ふんっ。人の嫌がることしたら当然でしょー。ほら、ちょっと血が出たくらいでピーピー言ってないで行くわよ」
「い、いやー……思いのほか、背中がジンジンしてきまして。なにやら手足に痺れも──え~っと、ひょっとしてさっきのナイフに何か仕込みませんでした──?」
仕込みぃ……?
「あ」
「あ、じゃねーよ! 痛いよ!! 今チラッとみたら、なんか肩の方まで変な色に変色してるよ──! 君いぃ、どんな毒使ったのね?! ねぇどんな毒!?」
「うるっさいわねー。ちょっと間違えただけよ。えーっと、ゴソゴソ……吐き気毒、痺れ毒、遅効性毒、出血毒、激痛毒、腐敗毒、即死ど────うん
」
「…………うん。じゃねーーーーーーーーーーーーーーよ!! まてまてまてまてまて!!」
待ってぇぇぇえ!!
「いやいや、おかしいおかしい!! 吐き気毒から、段々と物騒な毒の順にグレードアップしていったのはなんとな~くわかったけどなに?! え? 即死ど──の先なに?! え? 即死?! 即死毒?! そ、即死しちゃうのマイトさん?!」
「大丈夫よ大丈夫、先っちょだけ先っちょだけ」
「先っちょからその毒出てるんでしょぉぉお!」
レイラのナイフは暗殺者も好んで使う「シリンジャー・ナイフ」という奴で、
柄の部分に毒の入ったアンプルを仕込むことができるナイフだ。
主に刃先と刀身の薄く掘られた溝から毒が染み出し──……。
「って、あかんあかんあかん!!──YOU! 今、柄の中を確認したよね?! なんかすっごい毒々しい色してたよさっきのアンプル!!」
「……うるさいわねー」
いやいやいや!!
うるさいとかじゃなくて──なんの毒?! ねぇ何の毒?!
さっきの並びから言って、遅効性とかそういうのじゃないでしょ!!
頭の中で入れた毒を指折り数えて──百歩譲ったところで、さっきの即死毒でしょ!?
最悪はその先の毒ってことでしょー!!
「大丈夫よ、即死毒じゃなければ──爆死毒だから」
「あーなるほどぉ、爆死毒か、それならまぁ────……って、ならねーよ!!」
なんだよ、爆死毒って!!
毒って爆死するもんなの?!
え? あれか、お前はもう死んでいる──……的な毒かぁぁああ!!
「あべしっ!」
「うるっさい。ほら、これ飲んで」
……あー。びっくりしたー。
「あべしっ、って感じで俺が爆発したかと思ったぜ──殴られたのね。……あ、センキュ」
コロン。
貰った薬を口の中で転がすマイト。
「ん、これ美味しい」
白い錠剤?
なんかラムネみたいな味がする──。
「ラムネだもん」
「あ、そうなんだ────って、なんでぇえ!」
なんでこの状況でラムネ渡したん?!
今、ラムネ欲しがる状況に見えたぁぁあ!
しかも、これぇぇえ!
あれじゃん!! 穴が開いて、ピーピーなるやつ!! そのピーチ味!
「ピーピー」
「ピーピー♪」
にこっ。
「ニコッ!! じゃねぇぇぇえええええええ!」
なんなん!!
何なん、この時間────!! 最後の思い出かぁぁああ!!
「って、あれ? なんか痛み消えてきた」
「ね」
うんうん。
「……いや、ねじゃねーよ!! なんの『ね』だよ!!」
わけわからんわ!!
わけわからんわぁぁあああああ!!
ピー♪
「って、騒いでるせいで大分寄って来たわねー」
「ん? よってって────うわ、なんだこの感触……」
さっきから見られてるような感覚あったけど、まとわりつくような視線を感じるけど──……え? まさか。
「そ、あの要塞からねー。まぁ、外周の敵たいしたことないから大丈夫よ。厄介なのはダンジョンのほう」
うげ……。
これモンスターの視線かよー。おっかねー。
「じゃ、最初の『うぉぉぉおおんん……』ってのは雰囲気ナレーションじゃなくて、マジでモンスターの声ってこと?」
「そーじゃない?」
……なんだよ、そーじゃないって! 知らないのかよ!
つーか、雰囲気ナレーションって。自分で言っててわけわからんわ!
「……ほんと、大丈夫なのか? 色々不安だぞ、俺」
普通に弱いし……。
郊外のダンジョンとか初めてだし──。
あと、結局さっきの毒なんなのよ?! 一番緒不安それだよ! ピー♪
「だから、大丈夫よ。たまーにここ来るし、慣れてるから」
「んー。微妙に趣旨と違う回答だけど、まぁ信じて任せるぞ、ピー♪」
実際レイラの足取りは自信満々。
不気味に聳え立つ巨大な要塞に向かってズンズン進んでいく。
ピー♪
「ここからは静かにしてね。雑霊はともかく、アンデッドやらプラント系はそれなりの厄介だから──」
「げー。アンデッドいるのかよ。……俺に倒せとかいうなよ? ピー♪」
マイトさんの武器、今武器屋で買い直した木の枝と、コルトネイビィしかねーんだぞ。銃が効かねーのは、ゾンビ物と植物系パニック映画のお約束なんだからな!
後はその辺で拾ってきた壁の破片とか──。(※もちろん、これは壁型の爆弾としてつかうため)
「わかってるわよ。それに無理して倒さなくても──アンタのそのスキルなら、ダンジョンクリアできるんでしょ?」
「……ダンジョンの出口がわかればな、ピー♪」
そうだ。
それさえできればダンジョンのクリア……と言っていいのかわからないが最奥の宝物庫に侵入するのは容易だ。
足りない魔力もマナポーションで無理やし上限を超えればなんとかなる。
問題はそこにたどり着ければ、だけどね。
ピー♪
マイトさんの雑魚っぷりは自分でも悲しいほど。
今まで郊外のダンジョンに挑戦しなかったのもこのせいだ。あまりにも雑魚過ぎてダンジョンの攻略はおろか、そのダンジョンにすらたどり着くことができなかった。
それが今回はレイラの先導で、ダンジョンまでの道のりをほぼノーエンカウントと突破し、ここに至る。
普段は、もっと静かにかつ、最短で行けるそうだが、マイトがいる以上、大きくモンスターを避けるしかないんだそうだ、ピー♪
「──で、ここなんだけど、『エルフの古の山塞』は……って、さっきからピーピーうるさいわね!」
「アンタのせいですけどぉぉぉおお!! ピィィィイイ♪」」
なんか腹立ったので、ラムネをバリボリ貪り食ってやりましたとも! ピー!!
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