第30話「コバルトランナー」
そして、
「はー!! はー!! はー!!!」
「ひー!! ひー!! ひー!!!」
「「し、死ぬかと思ったぁぁ……」」
ドサリっ。
二人して一斉に地面にへたり込むと、
未だにカタカタと震えるマイトが構えるのは、コルトネイビィ。
──それも、銃口から立ち上る硝煙がユラユラと立ち上り、たった今発砲があったばかりの様子。
そして、すぐ隣で同様にへたり込むのはレイラちゃん。
その傍らには、穴だらけになったコボルトソルジャーとその首筋に
どうやら、レイラが使ったものらしい。
「む、むり……。もう、無理。い、一回撤退しよ?」
「そ、そーね、賛成賛成、大賛成──」
二人で顔を見合わせると、大きなため息。
それくらいに、ついさきほどの戦闘は熾烈であった。
なにせ、二人を追い回すコボルトソルジャーの猛攻をしのぎつつ、さらに攻撃を巧みにかわしながら、二人とも荷物の中に先日ダンジョンで拾った戦利品の武器を荷物から引っ張り出すという離れ業をやってのけたのだ。
もっとも、戦利品の大半は、ダンジョン産なのでマイトが使えるはずもなく。
そして、マイトはマイトで、魔塔主から貰ったコルトネイビィに予備弾倉があるのを思い出したのだが、コルトネイビィも同様に荷物の奥にあった。
おかげで二人して荷物の間をコボルトからグルグル逃げ回りながらそれらを引っ張り出す羽目になったのだ。
生きた心地がしないのなんのって。
丸腰で羆に追いかけられているようなものだ。マジで死ぬかと思った……。
しかし、なんとか細かい傷を負いながらもマイトは予備弾倉を引っ張り出し、
レイラはレイアで昨日の戦利品の中からレイピアを引っ張り出し、
すーかさず
撃つべし撃つべし撃つべし!
刺すべし刺すべし刺すべし!
わおーん
──そうしてこうして、なんとか犬っころを何とか仕留めて、九死に一生を得たわけである。
「ひ、ひーん……俺生きてるぅぅ」
「うぅぅ、無様だわ──なんでこんな目に」
しくしくしく。
「と、とりあえず一回街に帰るぞ」
「そーね。傷だらけだし、お風呂入りたい」
……同感。
そうして、全身から悪臭をばら撒きつつ、なんとか街の方にトボトボ引き返すマイトたち。門の前では、街の衛兵に鼻をつままれながら一部始終を話し、チンピラどもと『鋼鉄の顎』の情報を提供できたのは運がよかったと言えよう。
そうして、何もしないうちに長い一日がようやく終わり、
宿にたどり着いたころには陽が傾いていたのであった。
え? 宿の親父?
……一応生きてましたよ。まぁ、すっごい迷惑そうな顔をされた挙句、宿を追い出されましたけどね!!
しゃーなし!!
そうして、レイラおすすめの二つ目の宿に泊まり直し、宿の主に無理を言ってすぐにお湯を用意してもらったのだ。
なので、今──マイトの部屋のシャワー室では、レイラがお湯を浴びています。
古いボイラーのけたたましい音に交じって、お湯が降り注ぐ柔らかな音が聞こえてなぜかドギマギ────あ、全然しねぇわ。
「──しなさいよ!!」
しゃっ!!
シャワーカーテンの勢いよくひいて、タオル一枚だけの薄着のレイラがプンプン怒ってる。
「いや、ゴメン。マジで全然──」
「く……腹立つわー。ほら、空いたわよ」
せんきゅー。
礼を言って……いや、礼いるか?
時間外のお湯の代金もマイトさん払ってるんですけどぉ。
あ……シャワー室、いい匂い──「嗅ぐな!!」……おっと、ゲフンゲフン。
「ふぃー、いいお湯でした」
「はいはい」
手早くお湯を浴びつつ、この世界では高価な石鹸で身を清めた後シャツ一枚のマイトさん。
復活した気分です、はい。
なにせ、下水道で泳いだり、ゴボルトに追われたりと大半な日でした。
「大半、アンタのせいだからね──」
「半分はお前のせいでもあるだろうが……」
むー!!
「ふんっ。で、どうするの、これから──」
髪の毛を絞りつつレイラがそっぽを向く。
……なんだかんだで付き合ってはくれるらしい──まぁ、保釈金とかいろいろあるしね。
「そりゃ、予定通りダンジョンを──」
「あ。それしばらく無理よ」
え?
「さっき街を見てきたでしょ?」
「見て、きたけど……」
それが?
「ばっかねー。色々騒ぎが起こりすぎて、衛兵隊もピリピリしているわ──ギルド憲兵もね」
そうレイラは続ける。
どうやら、トボトボ帰ってきたマイトと違ってレイラちゃんはちゃんと街の偵察もしていたらしい。
だけど、ええ? うそ──。
「ちょ、ちょっと待てよ。……げげっ。ってことは──」
「そーねー。こんな時に夜中にドカーン! なんて、騒音を立てたらとんでもない騒ぎになるわねー」
「うげげー……!」
マジかよ。
マイトさんのパーフェクトプランが。
「どこがよ……。穴だらけだったじゃない」
「うるへー」
はー。
大きなため息をついてがっくり項垂れるマイト。
いや、もう、ホント──がっくり。この街はもう無理かなー。
そう思い、マイトがジトジトしていると、ため息をついたレイラが一つ提案。
「……なので、こうしない──?」
「は?」
こう? とは──。
ニヤリと笑うレイラは、マイトの懐に合った銃を素早く奪うと、引き金に指を入れてクルクルクルと回し────じゃきりッ! と突き付ける。
「お、おいおい。弾は入ってないけど危ねーぞ」
「上等じゃない。危ないからこそいいんじゃなーい」
はぁ?
「何言ってんだお前……??」
「馬ー鹿。例え話よ、例え話。……つまり、街中のダンジョンは諦めて、その危ない郊外の──不人気ダンジョンに行ってみな~い。ってことぉ」
はああああ?!
「い、いや。こ、郊外ってお前……俺の話聞いてた?」
マイトさん、雑魚なのよ?
レベル1なのよ?
ワンパンで死ねるのよ?!
そのマイトさんが街の外に出るってそりゃ自殺行為。
しかも、不人気ダンジョン??
「つまり、俺に死ねと??」
「そこまでは言ってないでしょー」
いや、ほとんど同義なんですけどぉ。
「まぁまぁ、ここはレイラさんを信じてみないさいって」
「んんん-……信じたあげく死んだら元もこうもないんだけど──」
しかし、さりとて現状他に打つ手もないマイト。
……なので、
──実際に行ってみた。
「って、いやいやいや、無理無理無理!」
「嫌も無理もなにも。、もう来てるじゃん──しかも、準備万端」
「うるへー。『準備』は命の保証金だっつの!!」
言われるままに、郊外の不人気ダンジョンの前にたたずむマイトは一人地団太を踏む。
もっとも、昨日はさすがに疲れたので準備の日を兼ねて休日としたが、結局その日一日つかって物資を補うし、休息をとることが出来たので、次の日は元気いっぱいなのだ。
「なのだじゃねーよ!! 元気いっぱいだけど、元気だけでもどうにもなんねーよ!!」
「あーはいはい」
はいはいじゃねーよ!
適当だな、おい!!
「もーうるさいなー」
「うるさくないよ!……だって、ここ外じゃん!!」
ザ・アウェイじゃん!
しかも、街道から外れた場所!!
つまりはフィールド。モンスターとエンカウントする場所ぉぉお!!
「大~丈夫、大丈夫。アタシがいるでしょー」
「いやいや、全然信用できない!!」
昨日も逃げたじゃん。
しかも、マイトさんを盾にもしたじゃん!!
「アンタに言われたくはないわよ────ほら、いいから立ちなって……」
テコでも動かんと言わんばかりに、恐怖に負けてフィールド上の樹に抱き着くマイト──。
やだ!! モンスター怖い、
マイトさん死んじゃう──!!
「っていうか、それがすでにモンスターだからね」
「へ? なに言って──」
ギシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
「のわぁああああああああああああああああああああああ!!」
突如動き出す木が、ものっそい恐ろしい表情でマイトに襲い掛かる!
「ひぇぇえ! ト、ト、ト、
「違うわよ。ただのエビルプラントよ。Cランク相当かしらね」
どっちもモンスターじゃん!!
「そーいうことは早く言えよ! あと、ただのじゃなくて、トレントだろうがエビルプラントだろうが、モンスターはモンスター!」
いやー!!
喰ーわーれーるー!!
「あーもう、うっさい。大丈夫だって言ってるでしょ、それに
「うん、うん。なるほどぉー……って、一個も安心する要素ないじゃん──!!」
つーか、生きたまま養分とか嫌すぎるぅぅう!!
──キシャァァアアアアアアアアアア!
ぎゃあぁぁあ!!
あー来たー!!
「あーもう、うっさいうっさいうっさい、うっさいわねー」
ぞんっ!!
『──ギシャ?!』
ぷしゅー……。
叫び声をあげていたエビルプラントであるが、レイラがナイフを抜くなり一瞬にして、しおしおしおー……と縮んでいく。
「え? あれ?」
呆気にとられたマイトであるが、その先では、クルクルと指で弄んだナイフをホルダーに、スチャ! としまうレイラがいる。
わーお、今のレイラちゃんがやったの?
……ヵぁぁあっこいー!!
「だ~から、大丈夫って言ったでしょ。ほらこれ。新調したナイフ──高かったんだからね。これにこうして、エビルプラントを枯れさせる植物毒を仕込んでやればイチコロってわけ──」
「わーお、レイラさん好き!!──ステキーだいてー。いっしょうついてくー」
……ま、ナイフは俺の金で買ったんだけどね。
「うるさい」
「はーい」
そんなこんなでおっかなびっくり、頼もしいレイラさんい連られれてマイトがやってきたのは、フォート・ラグダから出て1時間ほどのフィールドにあるダンジョンであった。
「どう? ここなら街からそこそこ近くていいでしょ? 夜になる前には撤収できるし、人気もないし」
「な、なるほど」
条件は確かに悪くない。
……危険が危ない以外は。
だって、マイトさんはLv1ですもの。
ゴブリン一匹でもあぶないです、はい。
「そんなビビらないの。
だから、穴場みたいなものだとレイラはいう。
なるほど、確かに、
肉もとれないし、
装備の素材としてもいまいち。
そう言うわけで、レイラちゃんが案内してくれたのは、小山の様な形状の様々な木々が絡み合ってできた巨大な要塞のような建造物──絶賛大不人気のダンジョン群の総称『エルフ達の
「い、いやー、穴場とかよりも安全を気にしてほしいんですけど……」
「多少のリスクは負いなさいよー。一応冒険者でしょ?」
一応というか絶賛冒険者だけどね。
「なら大丈夫大丈夫。不人気なのは、出てくるモンスターとお宝が少ないの原因なのよ」
そう言って慣れた様子でズンズン奥に向かって歩いていくレイラ。
その姿に頼もしさを覚えつつも、マイトはどこか不安も覚えるのであった。
その不安が敵中することになるとは、この時まだ誰も知らない────。
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