第27話「きたきゅうしゅー」

 ──囲まれる


 囲まれる──……あ、過去に揉まれる?


「いや、普通に包囲されてるって意味だけど? っていうか。揉まれたの?」

「そっちの揉むじゃねーよ! こう、なんていうか──人ごみというか、苦労して揉まれる的な、あー……」


 へー。


「人ごみで苦労して揉まれたのねー、大変そうね」

「いや、お前絶対なんか変な想像のほうの揉まれるだと思ってるだろ────……って、」


 そうじゃねぇだろっッ!!


「え? え? え? なななんん、なんで?!?!」

 なんで囲まれてるの?!

「いや、なんでもなにも────アンタがさっき説明してたじゃん」


 へ?

 説明、説明……説明したっけ。


「ほら、さっき──」

 さっき?


「……汚物は消毒だーからの、ザクザク切られてドカーンの、爪が──」

「あー、そこそこ・・・・!!」


 へ?


 そこそこって──爪?!


「……の、ちょっと前のとこよ」


 えー?

 前って……。


「汚物は消毒だーからの、ザクザク切られてドカーン??」

「それそれ、そこよそこ──」


 へ?

 いや、汚物は消毒、ドカーンに囲まれてるって────……。


「……ッ!!」


 ま、

「まさか!!」

 ガバッ!

「あ、ばか!」

 慌てて窓際に寄ったマイトであったが、それをレイラが押しとどめようとするも間に合わない。


 そして、

 見下ろした窓の先には、いつぞや見たチンピラどもが────って、なんで『鉄の牙』もおんねん!!!



  「おい、いたぞ!!」

   「やっぱりあそこか!」



 ぞろぞろぞろ!

  ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ──!


「げげ-! って、数多いなッ! し、しかも、バレたー!!」


 え? えええー?


 なんでこんなことになってんの?1

 宿の周囲にぐるっとチンピラとあの冒険者ども。

 しかも、かなりの数──そう、かな~りの数! いや、あの数はおかしいでしょ!!


「あぁ、もうバカ──なんでわざわざここにいることを教えるのよ!」

「いや、だって!!」

 つい……。

「……つーか、アイツら生きてたの?」

「そりゃねー。裏社会に通じている連中よ、しぶといに決まってるじゃない!」


 げー。


 しかも、汚物は消毒君も生きとるし──。

 いやそれどころかなんかパワーアップしとらん?……なんか、血だらけの二刀流になってなーい?


 千切れたのか、腕の代わりに杖つけてなーい!


 そして、

 『鉄の牙』ぁぁあ!!


「いやいや、多い多い! 全体的に多すぎでしょ!! え? アイツら4人組じゃ──」

「そんなわけないでしょ。『鋼鉄のあぎと』っていう──あいつら大型クランの一員なのよ」


 うげぇぇ!

 ってことはクラン総出で?!


「そーゆーこと。『鉄の牙』の他に、『鉄の爪』『鉄の角』に『鉄の歯』……あと『鉄の足の爪』もいるわねー」  

「多い、多い!! 多~い!! っていうか、足の爪ってなんだよ! もはや、嫌味じゃねーかよ、弱そうだな、おい!」


 まっさかー、


「『鉄の足の爪』はギルドでのランクはCよ。次期Bとも見積もられる──あのクランで最強よ」

「なんでやねん」


 なんで足の爪が最恐やねん!!

 『鋼鉄の顎』やろ?! せめて、顔パーツにしろよ!! そんで言ったら、角か牙が最強ちゃうんかーい!!


「ちなみに角はランクEよ」

 だからなんでやねん!!

 なんで一番強そうなパーツが雑魚やねん!!

「っていうかパーティでEって、俺より弱そうじゃねーか!!」


 

  つーか、爪やっぱり関係あるじゃねーか!!



「え?」

「いや、え? じゃなくて──ほらさっき、『……汚物は消毒だーからの、ザクザク切られてドカーンの、爪が──』っていったら、その前って言ったじゃん」

「あー、ね」


 あーね、じゃねーよ!!

 つーか、俺もどうでもいいよそんなこと────……いや、それよりも!


「ど、どうしよう」

「んー。……二択、」


 拝聴いたします。


「降伏、戦う」

 あー……。

「前者の場合! その心は──!」

「んー。降伏したら、そりゃまぁ──掴まって痛いことされて、身ぐるみ剥がれてバーベキューね」


「──なしで」


 痛いのは勘弁してください!!

 つーか、バーベキュー好きだなおい!!


「じゃー、戦うの?」

「む、無理ゲーかな?」


 んー。


「……相手は『鋼鉄の顎』総勢25名──チンピラは少なく見積もって15人、合計40名ほど。軍隊で言えば増強一個小隊ってとこね。勝ち目はまぁ──迫りくるチンピラを、マイト単身でちぎっては投げちぎっては投げ、襲い来る『鋼鉄の顎』をもマイト単身でちぎっては投げちぎっては投げ──」

「なしなしなしなしなし!」


 なしに決まってんでしょ!!

 つーか、ちぎっては投げの前提おかしいから!!


 しかも、単身んんんんんん?!


「いやいやいや、無理無理無理!! 無理だって────つーか、レイラはぁ?! なんで戦ってくれないの?!」


 え?

 マイトさん単身特攻が前提っすか!


「やーよ、無理だし、痛いし──臭いし」

「戦ってよ!! 俺のために戦ってよー!!」


 洗うから!!

 臭いなら、洗ってあげるからぁぁぁあ!!


「それにほら、命を懸けるほどの関係かっていうとちょっと……」

「そーいう時だけ冷静になんないの!」


 確かに昨日今日会ったばかりの関係だけどさぁ!!


「……そもそも、私は狙われてないし──」

 ボソッ。


「そっちが本音かーい!」


 何ちゅう薄情な!!



  「(ちょ、アンタたちなんですか! 当ホテルは銀貨──あべし!)」



 やべ! 入ってきた!!

 今の宿屋の店主の声だったよな──??


 いや、一個小隊と戦うとか無理でしょ!!


「ちょ、ど、どうすんの?!」

「あれすればー。ドカーンっての」


 しぬわ!!

 至近距離でやったら死ぬわ!!!


 ……って、


  「おい、こっちの部屋だ!」

   「バールのようなものもってこーい!」

    「えへへ、おで──汚物を消毒」



 ぎゃぁぁあああああああ!!

 いるぅぅううううううう!!


 汚物は消毒マンが突入して来とるぅぅう!!

 建物ごと焼かれるぅぅうううううううう!!


「じゃーそう言うことでがんばってー」

「この薄情者ー!!」


 レイラはそれだけ言うと、こっそり、窓から外に────。


「いたぞー!! 女狐のレイラの奴も一緒だぁぁああ!!」

「殺せ殺せ!!」「ひんむいて犯しちまぇええ!!」



 わーわーわー!!

 


「…………まずは脱出ルートを考えましょうか」



※ ※ ※



「いや、『まずは脱出ルートを考えましょうか、』って──」


 ──うぉぉおおおおい!!

 ずるっ!!


「お前、清々しいなッ、ある意味!!」


「あったり前でしょー。生き残るなら一人より、二人よ」

「さっきそれ言ってくれたら好感度が爆あがりだったんだけどなー!!」


 ったく!


「っていうか、なんでアタシまで──」

「そりゃそうだろ。お前、あんとき連中を盾にして躱したじゃん? オマケに、ギルド憲兵隊に『鉄の牙』のこととか色々ゲロっただろ?」


 そ、そりゃあー……。 


「……だって、痛くするって言われたし」

「そして、痛くされた連中が怒るってるんだよ。しかもお前の二つ名『女狐』だっけ? 他にも色々やらかしてるんじゃねーの?……オマケにギルドの個人情報の管理はザルだからな。おおかた俺が保釈したとこまで掴んだじゃ?」


 え、ええー……。


「じゃーアンタのせいじゃん」

「それじゃ、連中にそう・・言って来るか? なんだっけ? 『掴まって痛いことされて、身ぐるみ剥がれてバーベキュー』だっけ? お前はあっち・・・の方も剥されそうだな」 


 ゴンッ!


「いっだ?」

「下品よっ、ったく……。わかったわよ──」



  がんがんがんっ!



「おらあけろぉ!!」

「あけろあけろぉぉ!」


  ガガーン!!

   何か固いものがドアに打ち付けられ部屋の中がビリビリ揺れる。


「うげ?! も、もうドアまできた!」

 ど、ど、ど、どーする?!

「ったく、しょうがないわねー」


 ……ってことは、


「えぇ。選択肢三つ目よ────ザ・逃走」

「のった」


 拳をゴツンと合わせて再び組んだマイトとレイラ。

 真昼の逃走劇が始まる──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る