第26話「ギブアンドテイク」

「──ちょっとぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ビクッ!!


「な、なになになに?!」


 突然の大声に飛び起きるマイト。

 時刻は昼前──すげぇ、明るい時間帯だ。


 つーか、

「なに? お、お前か? きゅ、急になんだよ……」


 跳ね起きたマイトの視線の先には、仰天した顔のレイラがひとり。

 なにやら、テーブルの上を見て硬直しているけど──なによ? なんかあったか?


「んー?……ど、どうしたんだよ」

 特に何の変哲もない。


 ……そこにあったのは、昨日回収したダンジョンからの戦利品の山で、

 今更、驚くのはさすがに半日ずれ過ぎだろう──。


「なによこれぇぇえええええええええええ!!」

「いや、それ・・かーい」


 なに驚いてんの……。

 昨日も見たやん──。


 ズレてんのも大概にしろよ──俺ぁ、まだ眠いんだよ──……って、ガックンガックンやめてぇぇえ!!


「な。な、な、なによこれ! どーんなってんのよ! 説明しないさいよー」

「あばばばばー」


 えー。

 何なんこの子。


「いや昨日説明しただろ? スキル『発破』で、ドカーン。以上説明おわり」

 そんで、寝るから。

 もうちょしたら起こし──……だから、がっくんがっくん! やめろ!!!


「寝るなアホぉぉお! そんな説明でわかるかー!!」

「いや、説明もなにも見たやん! 実際に近くで見てたやん!!」


 すぐ隣で、ドカーンしてたやん!

 そんで君もウッキウキで宝漁ってたやーん!


「漁って、た……けど、夢だと思ったのよ!!」

「いや、長い夢だなおい──」


 夜通しドカンドカンして、ダンジョン4つ回る夢って、よっぽどだぞ?!


「そ、そうだけど、だって──ありえないじゃない!!」

「あり得るからそこにあるんだろ──あとで分けてやるから、寝かせてくれ……」


 なにせ、胸が苦しくてな……。

 マナポーション、絶対ヤバい成分入ってるって──。


「おやすみ、ぐー……って、しつこいな、ガックンガックンやめんか!!」

 ズビシッ!!

「いっだ!! 殴ったわね!!」

「殴ってわるいか! お前がお触り禁止言い出したんだろ!!」


 うるさいわねー!


「そんじゃ、ルール変更、お触りオーケーよ!」

「都合いいな、おい。そんじゃ遠慮なくお触り──ごぶぉおおお!!」


 な、殴った?!


「え? なんで?!」

「触っていいとは言ってない!!」


 いや、言った!!

 言ったじゃん!!


「私はいいけど、アンタはダメ!!」

「いや、都合イイなおい!!」


 とんだダブスタだよ!!


「と、とにかく──もうちょっと説明してよ」

「っち、しゃーねーなー」


 頭ガシガシ、とりあえずもう起きるかと、洗顔に向かったマイトは廊下に出されていたルームサービスを回収。

 よくある朝食──……にしては遅いけど、

 それと、あとは洗顔用の水の張った桶を部屋の中に持ち込み顔をバシャバシャ。


 ぷはー。


「お前、飯は?」

「まだよ──さっき起きたばっかりだもん」


 あっそ。


 ……って、

「自分が先に起きたからって人を起こすんじゃないよ、まったく──」


 マイトさんは務め人じゃないし、学生でもないよ。

 起きる時間くらい選ばせてくれたまえよ──。


「だって、ビックリしたんだもん」

「だもんて……ったく」


 ほれ。


「あ、りがと」


 朝食にしては遅い、すっかり冷めきっているけど、そこそこ柔らかいパンを投げてやり二人で分ける。

 そんで、オカズのゆで卵と味の薄いサラダとメッセージカード。


  『昨夜はお楽しみでしたね 店主』


「うん、ちょっと宿の親父殺してくるわ──」

「ちょちょちょ!! ただのジョークでしょ!!」


 知るか!

 なんで、こんなチビに手ぇ出してると思われにゃならんのよ!!


「それくらいで一々──って、誰がペッタンコのクソドチビじゃごらぁぁああ!!」


 ぎゃー!!

 そこまでは言ってねー!!




   ぎゃーぎゃーぎゃー!!




「…………いってー、狂暴な女」

「アンタが弱すぎるんでしょ。……マジでレベル1? よく生きてるわねー」


 よけいなお世話だ!!


「……でも、ある意味納得──。たしかに、レベル1であんな・・・芸当が出来るんだもん。たしかに召喚者ってやつなのね、あんた」

「いまさらだなー」


 二人で朝食を食べつつ、レイラはあんな・・・芸当──こと、ダンジョンの成果を弄ぶ。

 たくさんの戦利品のうち、彼女の御眼鏡にかなったのがいくつかあったらしい。


 しゃれたデザインのナイフと、地味な指輪──。


「……ほしいならやるぞ」

「まっさか、欲しいだなんて────くれるのぉぉおお!!」


 ……うっさいなもー。


「報酬は払うって言っただろ──額を決めてなかったけど、まぁそれくらいなら全然いいぞ」

「それくらいって……アンタこれ、魔法装備よ?」


 ぶっ!


「え? それ、魔法装備なの?!」


 ……え?


 それってばマイトさんの近緊の目標じゃん!!

 やっぱり返して──。


「あ、でも、アンタじゃ無理だと思うわよ──魔法装備は装備でもこれ、推奨筋力100くらいよ、無理じゃない」

「むご!!」


 くそ!!

 魔法装備のくせに推奨筋力あるのかよ!!


「そりゃあるわ。ピンきりだしねー」


 むー。

 そりゃそうか……。


「……一応、それ何の効果あんの?」

「ん? これ?……えっと、敏捷上昇効果のある『盗賊のダガー』って奴ね。強奪とかの成功確率もあがるわ。……ま、それほど珍しいわけじゃないけど、ステータス上昇系ってやつよ」

「へー。そっちは?」


 レイラの指に光る地味な指輪。


「こっちは『旅人の指輪』──疲労耐性(小)がついてるわねー、推奨筋力は15だから、使えるかもね」

「……いらね」


 必要ないわけじゃないけど、そこまで食指は働かない。

 上げると言っといて返せというのもカッコ悪いしね。なによりマイトさんの目的はレベル上げだ。それには装備できる強い武器が必要なのであって──魔法装備そのものが目的ではない。


 っていうか……。


「お前、まさか鑑定とか使えるの?」


 なんか、ポンポン名称とか付与効果当ててるけどぉ──。


「まっさか、ただの『目利き』のスキルよ、鑑定の下位互換ってとこ」

「いや、それでもすげぇな、おい……」


 さすが盗賊。

 なるほど──やはり、こいつはお買い得だったかも。


「気に入った」

「あーら、今更ぁ──じゃ、こっち・・・もそろそろ答えてよ」


 くいくい。

 親指で指すのはテーブルの上の戦利品の数々。


 ……まぁ、昨日も説明したのに────しゃーねーなー。




   朝食を食べつつ、

         かくかくしかじか────




「──ってマジでぇぇぇえええ!!」

「おう、大分声が小さくなってきて、なによりだ」


「そ、そりゃー、二回も三回も聞いたら慣れるわよ」

「じゃ聞くなや!!」


 理解しとるやんけ!!

 こっちも、二回も三回も説明すんの結構苦痛なんやで!!


「いや、あのねぇ──理解と納得は別なの!! それに昨日は色々あって、流れで何とな~く、ってのもあったでしょ」

「まぁそれは否定しない」


 たしかに、マイトも色々あったしね。

 汚物は消毒だーからの、ザクザク切られてドカーンの、爪が痛そうで、脅して宿に連れ込み、夜通し、ドッカンドッカン──そりゃ、意味不明だわな。

 いや、一日が濃いな!


 ──そして正直、すまん。

 つーか、最後のは誤解を招くな、うん。


「いや、でも──すごいわね、そのスキルっての……?」

「まーよ」


 正直、マイトさんも驚いているくらいだ。

 とはいえ、出来ることならもっと早く気づきたかったけど──ま、それこそ今更だな。


「ふーん……。召喚者ってのはたまーに見るけど、皆そんなに規格外の力をもってるのね」

「全員じゃねーよ」


 むしろ、一部だな。


 そして、そのなかでもマイトさんは一部以外の人間……いや、ある意味一部と言えば一部か。


「そうなの? でもほら──、聖剣の使い手さんとか有名じゃない」

「あー……生徒会長・・・・な」


 なるほど。どうやら生徒会長どのはレイラですら知っているくらいに活躍しているらしい──。


 そう。生徒会長だ。

 学年丸ごと召喚されたマイトたちではあるが、実は、教師やそれ以外の例外もいる。

 召喚されたのは、ほとんどが当時高校1年の生徒とその担任達であったが、一部は生徒会の面々や部活のエース──そして、学年主任などもいたものだ。


 そして、その中には、当然選ばれし者とでもいうべき召喚者もいたわけだ。

 その一人が生徒会長の「藤堂院」(現在19か20歳)さんもいた。


 ほとんど1年の中にあって例外の例外ではあるが、その分、生徒たちからの信頼は厚かった。この世界でも元の世界でも、ね。

 そして、そんな彼だからこそ選ばれたのだろう。


 最強のスキルと名高い『聖剣』に。


 そして、そのスキル『聖剣』だかを使いこなし、あっという間にレベルを上げるや否や、その他召喚者から頭一つ抜きんでて、旅立って行ってしまった。

 当時は召喚者の人数もまとまっていたため、ひとりのモブにすぎなあったマイトには事情を知る由もなかったが、多分なにか旅立たな狩ればならない理由があったのだろう。

 もしかすると、異世界召喚というワクワクシチュエーションに心が躍っていただけかもしれないけどね。

 ま、事情はさておき、いわゆる初期成功組となった彼とマイトさんを一緒にされては困る。


 ──あの人こそ、まさに一部の例外って奴だ。


 すでに数年が経ち記憶もおぼろげになりつつあったが、今も思い出す意志の強いまなざし──。


 規格外の攻撃力でいきなり頭角を現し、「世界を救うため──」とかなんとか宣言し、一部の同じような志とスキルを持ったもので飛び出していったところまでは覚えているんだけどね……。


 今はどこで何をしているか、マイトはサッパリ知らない。

 知る気もなかったし、知ったとしてどうにもならない雲の上の存在だ。


「知り合いなの?」

「いんや」


 向こうも知らないだろう。


 当時一年で、しかもネタスキル持ちの雑魚のことなんてさ。

 別にそれをどうこう言うつもりはないし、むしろ頑張ってほしいとも思う。


 この世界に召喚者たちを送り込んだ神がどういうつもりか知らないが、もしかすると元の世界に戻れる可能性もあるかということで、

 送り込まれた目的らしい。世界を滅ぼす存在──いわゆる魔王を討伐に向かったことまでは知っている。


 もっとも、この前『魔塔主』と話した限りだとその魔王が世界を滅ぼす云々がそもそも怪しくなってきてはいたが──まぁ、それでも、生徒会長くらい出来る人なら、なんとか元の世界への帰還方法を見つけてくれるかもしれない。


 そして、それが一番望みがあると思っている。


 なので、凄いスキルを貰ってちょっとうらやましいなーという気持ちはあれど、そのことに対する嫉妬や恨みはない。むしろ、マジで頑張ってほしい。


「ふーん。でも、聞いてる限りアンタの──マイトのスキルも大概じゃない?」

「それは同感」


 とはいえ、ネタはネタだ。


 ぶっちゃけ、応用して攻撃にも使えると知ったのはつい最近。

 そして、その攻撃をくらったのが────……。


「なによ?」

「いや、なんでも……」


 ま、なんにせよ──マイトはスキルに気付くのが遅すぎた。

 それはもう今さらどうしようもないし、過ぎたことだ──。

 ただ、少々スタートが遅れたとしても、今からでも十分にこの世界で生きていくだけの力はつけられそうと思う、特にお金とかね!


「それよりほら、今日も稼ぐぞ」


 そう金だ金。

 まずは金を貯めて、魔法装備が手に入るダンジョンに向かって武装して、レベルを上げる!!

 今はそれを目標にしよう。


「あー、それなんだけど──」


 チラッ。

 レイラが気まずそうに窓の外を伺うと、なにやら物々しい雰囲気が漂っている。


「──ここ、囲まれてるわよ」

「……ホワッツ?!」

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