第25話「レイラちゃんといっしょ」

 そしてさっそく。


「というわけで──陽が落ちたことだし、そろそろいくか」

「え? いくって──え?」


 おいおい。


「話聞いてなかったのか?……ダンジョンだよ、ダンジョン──出口に向かうのさ」

「え、ええ、わかったわ──……ぇえええええええええええええええ!! 今からぁぁあ?」


 うーわ、うッさ。

 つーか話聞いとけよ。


「ちょ、無理無理無理!! アンタ死にたいの?! ダ、ダンジョンも基本的に夜は危険なのよ! 知らないの!」

「知らん」


 え?

 そうなん?


「な、なんで知らないのよ! 普通は──って、こいつEランクだったわ!」

 ブルシットド畜生!!

「……Eランクで悪かったな」


 じとぉ。


「はー。あのね……。ダンジョン内にも時間の概念はあるの、外とは多少のずれはあるし、ずっと明るいダンジョンもあるけど、外と同じでダンジョンも夜は活性化するの!! そんなの常識でしょ! 知ってるで──……知らないか」


 うん、

 知らんって言ってるやん。


「くっ……。で、でも、見たことはあるでしょ? ダンジョンの入口をギルド憲兵隊が見張ってるのを!」

「ん? あれってそういう意味も?」


 そーよ!!


「もちろん、知らない人が迷いこまないようにする意味もあるけど、もう一つは馬鹿な冒険者に警告する意味があるの! 入っちゃいけないってことはないけど、危険度が桁違いなのよ、ダンジョンの夜は!!」

「へー。あ、でも、中で過ごすパーティもいるって聞くけど?」

「──それは特別!! ダンジョン内にしか生息しなレアなモンスターを探したり、またはやむを得ない事情で身動きできなくなったりとかね! それでも、中で夜を越すパーティも、基本的には内部の安全地帯からは出ないようにしてるのよ!」


 へー。


 言われてみれば、たしかに「魔塔主マスター」以外は夜に出くわしたことないな……。

 乞食プレイをしているチンピラも夜にはいないと思ったら、そもそも、夜に攻略するパーティがいないからか。


 まぁ、なんとなく、時間帯が合わないからとか思ってたけど──なるほど、活性化ね。マイト覚えた。


「うん……でも、行こうか」

「そうよかった。わかってくれ──ズルー!」


 いや、口でズルーって、昭和か君は。


「き、聞いてなかったの? 夜のダンジョンは────」

「お前こそ聞いてなかったのかよ? 俺のスキルは────」







  ……実際に行ってみた。






 

「発破よーーーーーい!」



 ブゥゥン……ッッ!!


『目標──「ダンジョン壁」厚さ6500mm、使用魔力65』


 ……………発破しますか? Y/N


  ろんの、もち──……って、




   「……ぶあっつ分厚ッ!!!!」





 分厚~~~~い!!

 ……だが、しかーし!!!


 マイトさん、レイラさんに案内されてやってきたこのダンジョンであらかじめ飲んでおきましたともマナポーション!


 スチャ! っとポーズを取りつつ、四指に挟んだマナポーションをむさぼり飲み干し。

 盛大にげっぷ!!


 ──多分これくらいで足りると飲んだ概ね3本で大当たりでした!

 うん、相変わらずマズイがせっかくなので、ここはさっそく、




  ……ぽちっとな!!




 ⇒「Y」 ピコン♪



 『カウントダウンを開始します』


  『危害半径からの退避を勧告します』



 っしゃ!

 なんか久しぶりぃ!!


 そして、ここからの────退避ッ!!


「……ちょっとさっきからなら何してるの? なんか一人ブツブツいってるし──こわっ!」

「こわくねーよ!」


『カウントダウン開始──……60 59 58』


 ──前言撤回!

 やっぱり怖いッ!!


「え? え? え?」

「え、じゃねーよ、ほれこっちこい──」


 ひょい。っとレイラを小脇にかかえつつ、えっほえっほ!


「え? え? え? え? え?」

「だから、「え」じゃねーよ、索敵よろ──っと、そろそろ」


 いつも通り、65m以上はなれて、向こうを確認。

 そして、遮蔽物よし!! 覚悟よし──! レイラちゃんは、耳塞いで口を開けて──



  カウンダウ~ン。



 「3 2 1──」

 『3 2 1──いま!』


 おっし、ドンピシャ! ステータス画面のカウントとマイトのそれがシンクロする。

 だいたいわかってきたぞ!!


 というわけで──……。



「はーい、耳塞いでねー」

「は? 耳ってどうしt──

           ぶぼほぉぉおおおおおっっ!」




   ──ズバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!




 たーまーやー。



「おー、ここ一番の爆発だー」


 びりびりびりびり!! と、これまでにない振動に、腹がきゅっとなる──そして、チラリとレイラちゃんをみればポカーンと放心してる……。うん。

 つーか、君、さっき「ぶぼほぉぉおお!」ってすごい顔してたで? まぁええけど──。


「……ほい、開いたぞ」


 ひゅおぉぉおおお……。


 マイトの言葉通り、フォート・ラグダの街から近いダンジョン──ランクDの『彷徨う騎士たちの宴』のぽっかり空いた出口がそこに晒されるのであった──。


 あ、宝箱み~~~~っけ。

 しかも6個もあるー!


 いぇ~


「──ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「うわ、びっくりした」


 な、なになになに?!……って、レイラか?


 よく見れば、硬直していたレイラちゃんが、ポカーンからの「ぬをおぉぇぇええええ?!」って顔で仰け反っておられます。はい。


 …っていうか。それ──『索敵』してくれてないよね?

 ギルド憲兵隊のほうをみててほしいんだけどなー。

 それと、大丈夫かな街のほう──あんまし騒がしくすると、すぐにバレちゃう。



 ──ん? そんなに近いのかって?



 ……そりゃまぁね。

 ここはレイラに案内させたダンジョンの一つで、鎧型アンデッドの沸くDランクダンジョン『彷徨う騎士たちの宴(推奨ランクC以上)』という場所。


 宿から出て、レイラに紹介させたちょうどいいダンジョンがここだったのだ──『町から程よく離れていて』、『街中』で、『できれば魔物のいない地下以外』という条件。


 ……なるほど、ぴったりの条件でした。


 やや街から近すぎるかも──というのを除けばドンピシャです。

 さすが地元(?)なだけあって、マイトなんぞよりはるかに地理に詳しいようだ。


 うむ。

 最初はコイツのことは気に食わなかったが、これはお買い得だったかも──って、レイラちゃん?


 レイラちゃん?

  レイラちゃーん。

 


 うん……ダメだこりゃ。

 一回目の「えええええええ!!」のあと、また放心してなはる……。



 目の前で手をひらひらしても微動だにしないレイラ。


 まー。なんだ。驚くのはわかるけどさー。そろそろ仕事してよー。


 つーか、マジで街の方大丈夫か?

 遠いっちゃ遠いけど、危害半径65mってヤバない?


 元の世界で言う所の、重砲・・の危害半径くらいあるんじゃね?……重砲つったら、巡洋艦の主砲クラスですよ巡洋艦のー。


「って、ちょっと! えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

「いや、だからうるさい……」


 少~し放心から帰ってきたかと思えばまた「えええ?」ですか、そろそろ現実に戻ってきてくださいよー。

 なにより、そろそろダンジョン入口のギルド憲兵が気づくころ──。


  ざわざわ

   ざわざわ


 おっと、さすがにギルド憲兵隊がそろそろ異変に気づいたかな?

 入口の方角から人の気配。


 ……ま、そりゃそうだわな。あれだけの音──聞こえないわけがない。

 なので、ここは時間を有効活用。

 レイラちゃんを置いて、先にお宝回収──って、う~わ、ここもボス部屋丸みーえのダンジョンかよ。


 むこうから、半透明の上半身のみの骸骨鎧がこっちみてるー……こっわ!


「はいはい、お邪魔しますよっと、」


 宝箱6つに壺5つ──イエッァァア!

 からの御開帳~。


 ──パカッ。


「おー、うまうま!」


 もちろん、中身はお宝ザクザク。

 しかも、グラシアスフォートよりも少しだけ上のDランクダンジョンのそれなので、あっちの街・・・・・のそれとは比べ物にならない規模と量!


 向こうは、DランクはDランクでも、推奨レベルがDランク以上からだったしね。


 ホクホク顔のマイトさん帰還。

 ダンジョン大分時間、絞めて2分30秒なりー。相変わらず効率いいわ~。


「ただいまー」


 ……って、まーだ放心してる。

 これ、爆発で頭のネジと飛んだりしてないよね?


 ノックして、もしも~し。


「おーい、そろそろ復帰してくれ、ほれ戦利品──」


 ザックザクの中身はさてさてどうでしょう、


 『黒鉄のハルバード』   ×1、

 『スカルシールド』    ×1、

 『ハイマナポーション』  ×2、

 『アンチアーマーポイズン』×2、

  黒の魔石(中)     ×2


 そして嬉しい

  金貨袋  ×1(中身は金貨25枚~♪)


 以上です!!

 そして、壺からはいつも通り小さな宝石とグレード低めの薬品少々。


 う~ん、

 やったぜ!


「って、ちょっとぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「うわ!!」


 び、びっくりしたな、もー! 急にキェェエとか言わなんでよ、

 あと、いい加減慣れて。


 うるさいしお触り禁止なんでしょ!?


「いや、それどころじゃないわよ、ちょ、ちょ、ちょぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


 あーもー。

 うるさいうるさい。


「な、なななななんあななななにしてんの! え? 何してんのアンタ?! え? なに?! ばか?!」

「なんで馬鹿やねん」


 つーか落ち着け。

 そんで荷物もてよ──。


「いや、荷物て、えええええええ! いや、え? ここ出口やで?!」

「いや、関西弁になっとるがな──ってか、説明したやろ」


 あかんこっちも関西弁になってもーたわ。


「いや、説明って、あれでしょ? なんかダンジョンの出口から入るとか言って──アホだなーって思って聞いて──えええええええええええええええ?! いや、アンタ、出口から入るとか、あんたぁぁああ!」

「いやもう、めんどくせーなおい!!」


 そろそろ、普通にもどってよー。

 今夜はまだまだ寝かせないからよ──。


「いや、寝てるどころじゃないわよ! 寝れないわよ!! そもそもなによ、どかーん! て! あれ魔法? いや、ダンジョンて破壊不可能なんじゃ?!」

「知らんがな──スキルやいうたやん……。あーもう、」


 ほら、ぐずぐずしてるから──!


「(おい、何ださっきの音?!)」

「(昼間のあれか? こっちから聞こえたぞ!)」


 ……そらバレるわな──。


 駆け付けるギルド憲兵隊の声と足音が徐々に近づく。

 しかも、その足取りはしっかりしており、こちらを捕捉している感じがする。


(やっぺ、思ったよりも早いぞ──!)


 もしかすると、グラシアス・フォートの憲兵隊よりも能力高かったり?!

 いや、まぁそうなるわな!!


「ちっ! やつら来ちゃったじゃない」

「いや、『ちっ!』って、君ねぇ。……わかるけどさ、割と君がモタモタしたせいだからね──つーか、まだ間に合うからね。次のとこに案内よろ」


 ぐいぐいぐい!


「ちょ、押さないでよ! 行くから、行けばいいんでしょ!」


 荷物を担いで、レイラの肩を押すマイト。

 その後ろでダンジョンの出口は徐々に閉じていく。


 あ。

 ……これ。ふと思ったけど、出るの失敗したらどうなるんだろ?


 クリア扱いで閉まったのかと思いきや、もしかして時間差??

 そも、二回目も宝が取れるッポイから、クリア扱いじゃないよね?──え?……じゃあもしかして、下手すると閉じ込められたり?!


「ぞー……!」


 そのことを思い、ちょ~~~っと背筋の寒くなるマイト。


 今のところ、十分に出る時間はありそうだが、念のため気を付けた方がいいなと心に決めた──。

 なにせ、脱出失敗したら逆ルートで出ることになるのだが、おそらくマイト一人だと一瞬で死ねる。


 入口に向かって逆走するどころか、宝物庫から出た途端にボスにパクリといかれるだろう……うん、気を付けよう。



「こっちだ!!」



 やば! 近ッ!


「っ! いくわよ──こっち!」

 そう言ってようやく再起動したレイラがマイトに手を貸し、素早い動きで闇を拾って、ギルド憲兵隊の追跡を一瞬で巻いてしまうのであった。

 ま、追跡もなにもせいぜい足跡くらいしかのこっていないだろう。

 そして、レイラのルート選択は完璧で、そも追跡などできるはずもなかった──……やるな、こいつ。さすがBランクの盗賊。




 そして、レイラの案内の元、彼女監修の次のダンジョンへ向かうマイトたち──。




 ……この日、

 レイラに連れられたマイトは持ち込んだマナポーション20本のほぼすべてを使い、計4つのダンジョンを巡ることに成功した。


 稼ぎは上々で、

 フォート・ラグダの街中にあるダンジョンはグラシアス・フォートのそれと比べてはるかに効率よく、うまうまで、ギルド憲兵隊の追跡もレイラの能力と土地勘のおかげで、完璧にまくことができたのであった。


 もちろん、成果も効率も段違い。

 さらには数も質も──グラシアス・フォートのそれとは雲泥の差……!


 そうして金貨だけで100枚以上を稼ぎ、まだ陽の昇らぬうちにマイトたち宿に帰還したのであった……。


 その後、放心したレイラを尻目に、マイトはお先に眠ることに。

 もちろん、まだまだ夜は長くダンジョンに入る時間はあったのだけど──今のところマナポーションを買うお金が尽きていたことと、運ぶ荷物の関係と…………なによりマナポーション飲みすぎでお腹パンパン & 吐き気がおさまんねーの!



 「うぉぇえ……」


   あー、畜生。

   ……マナポーションもうちょっと味どうにかなんねーかな、



 がくっ。


 マイト、ベッドに戻った途端、気絶するようにその日は眠りにつく。

 夢のなかで青汁と生魚をなる齧り夢を見た気がするが──決してマナポーション中毒ではないはず…………。






 おやすみ、ぐー。


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