第24話「秘密の共有」
かー
かー
「はぁぁ……そっかー」
ある程度喋っちゃったかー。
……がっくし。
時刻は夕方──すでに空は赤く沈み始めていた。
そして、その夕日の色に染まったマイトの背中がショックで沈む──。
「しょ、しょうがないでしょ! い、痛くするって言われたから……」
「いや、拷問される前に屈するなよー」
雑魚か。
まだ串焼き屋の親父の方が頑張ってたんじゃないか?
まぁ、あのオッサン経由でもある程度情報は漏れているので、今更だけどさ──。
はーあ、しょうがないか。
怪我でいかれてたとはいえ、マイトが迂闊だったのもある。
ただまぁ、悲観すべきことばかりでもない。
なにせ、今のところレイラも親父も、マイトの攻撃は魔法──よくて、魔道具のそれだと思って報告したらしい。
あのやり過ぎだと思われた街の破壊も、そもそもの原因が『鉄の牙』とあのチンピラどもということで正当防衛が認められたらしいとのこと──なにより被害らしい被害があの地区だけであり、
オマケに負傷者がレイラを除いて──ゼロ。という状況だ。
もちろん、マイトはそんなはずがないとは知っているけどね。
だが、
あのあとギルド憲兵隊が調査に向かったそうだが、路地裏の住民の被害もなければ──『鉄の牙』もチンピラどものそれもなかったと言うのだ……って、こわ!!
いやいや。マジかよと。
……たしかに、連中が死体も残らないと言っていたけど、ホントマジかよ。
まぁマイトも連中が死んだかどうかなんて気にしている暇もなかったし、
近くでその生死を確認したわけじゃないんだけどね──だとしてもあの爆発を生き残れたとは到底思えない……そうすると、やっぱりあの路地裏の住民が?
うーわ。
こっわ!!
つーか、あそこって、ギルドで斡旋してる『ドブ掃除』の仕事場じゃねーのかよ……。
危なくてEランクに勧められる仕事のレベルじゃねーだろ、ったく。
「まぁ、その程度なら、しばらくは大丈夫か──調べ様にも俺もお前もこうして調査から外れたからな」
呼び出される可能性もあるが、
立件もできない事件にわざわざギルドが本腰を入れるとは思えない。可能性としては、爆発のことを
とりあえず、調査される可能性のあったレイラは回収したので良しとしよう。
串焼き屋の親父は、まぁ──うん。冒険者じゃないし、ただのオッサンなのでそこまでの情報はないだろう。
「……なに? まさか、
「悪いかよ」
「あっきれたー。そんな隠すほどじゃないでしょ? むしろ、誇って自慢して二つ名とか欲しがるもんじゃないの?」
「そんなもんいるかよ……」
なんだよ二つ名って。
爆炎のマイトとかか? それとも──……。
「女に穴あけたマイトとか」
「やめい」
卑猥な意味にも聞こえるわ!!
事実っちゃ事実だけど、お前のせいだからな!!
「そも、情報は隠してナンボだ──とくに、俺みたいな一芸しかない人間はな」
「ふーん?……まぁ、よくわからないけど──これで私は無罪放免? 用なしってことでいいかしら?」
そう言って、荷物を持って立ち上がるレイラ。
そのままそそくさと──がしりっ。
「きゃ! な、なによ……」
「いいわけあるか。……金貨250枚分、
「な! か、体ってやっぱりアンタ──」
ドキーン!
顔を赤らめたレイラがヨヨヨと
「アッホ、お前の貧相な体で金貨250枚の価値あるかっての──それよりも、ほれっ」
ぽいっ。
マイトが投げてよこしたのは──。
「ち、地図? あ、これって例の高級地図──なに、くれるの?」
「やるわけねーだろ、いくらしたと思ってんだ? ったく……」
マイトは大きなため息ひとつ。
宿代もそうだが、大枚はたいてこの少女を手元に置いた理由。それはもちろん────。
『情報が漏れるのが危ういなら、いっそ手元に置くんじゃな──なぁに、奴隷にせんでも、いくらでも人間を縛る方法なんぞあるわい、くっくっく!』
そう。
最初に魔塔主に相談して、提案されたのが、レイラを
それも、合法的な半奴隷契約のようなもの──。
犯罪者になるか、従うか──二つに一つ。
なるほど……いろいろなやり方があるものだ。
最初は、RPGとかラノベみたに
曰く、『そんな便利なもんあるかーい』とのこと。ま、そりゃそうだ。……だけど、こっちはこっちで滅茶苦茶有効──すくなくとも金貨250枚分は働いてもらおうじゃないの?
魔塔主の案では、ついでに護衛役もできて一石二鳥じゃのーとか言ってたけど、確かに戦闘力雑魚のマイトさんにとってはありがたい話ではある。
まぁ欲を言えば、もっとこうボンキュボンなオネーさんか、強いやつがよかったけど、当面コイツで我慢我慢──。
「なによ」
「うん。色々不足してるなって、ま、妥協──げふぅぅう」
いっだ?
「な、殴ったね?! 親父にはよくぶたれたけど!」
「殴るわよ!! いい! 恩があるからしばらくは言うこと聞いたげる──だけど、奴隷になったんじゃないからね!! これルールよ、ルール! まずお触り禁止!!」
「触んねーよ!!」
触るほどもねーだろうが!!
「それと、信頼関係!! これ大事だからね、これからは隠し事ナシ、いい?!」
「お前が信頼とかいうなや──……まぁ、わかった。どのみちある程度話すつもりではいたからな」
はぁ……。
マイトは少し項垂れつつも、レイラに事情を説明。
もちろんスキルもね──……。
そう。
苦肉の策ではあったが、マイトがある程度安全にダンジョンを裏口から攻略するには、これが一番安全で手っ取りばやいと判断したわけだ。
やや危険な賭けではあるが、
ここはレイラの戦闘力と情報力──そして、盗賊職としての実力が手に入ると思えば飲まねばならないだろう。
それに、信頼関係といいつつも、今マイトが何らかの形で死んでしまったりした場合一番に疑われるのはレイラなわけで、彼女としてはマイトを全力で守らねばならない、
嘆願書も保釈金もマイトありきで成り立っているのだから──。
そうして、
かくかくしかじかと──事情を話し、最後に、彼女の顔をみたマイトであったが……。
ポカーン。
「……え? ゴメン? もっかい話して」
ずるっ。
「やだよ! 結構話したぞ──見てみろ、もう、日が傾いてるじゃねーか!!」
一時間……いや、召喚のこととかも話したし、二時間は話したぞ?
かいつまんで話せるとこもあったけど、どうしても事情を説明するとこれくらいの時間になってしまう。
……って、寝るな寝るな寝るな。今度は寝るなー!!
「いや、だって、頭が──」
「アホの子か君は──ペッタンコなんだから、頭以外に栄養行くとこないだろう──……ぶほうぅ!」
いっだ!!
え? なんで──いっだぁぁ……?
「お触り禁止つったでしょ!!」
「触ってないがぁぁあ!! 微塵も触ってないがぁぁあ!!!」
「心に触れたわよ!!」
「ポエムか!!」
あーもう。
わかったわかった、いらんこと言いません──。これでいいか?
「ふんっ、わかればいいのよ」
「なんで偉そうやねん、お前が」
まぁ、Bランクは偉そうにしていいのか?
あっちはAランク──……ぶほぉぉお!!
「言ってませんがぁぁああ!?」
心にも触れられませんがぁぁあああ!!
「顔!!」
「──どうせいっちゅうねん!! 顔か? 顔でも語るなと?!」
つーか、
「あっちがAランク」ってどんな顔やねん!!
「あーもう、めんどくせぇなコイツ──牢屋に戻すか……」
「ちょちょちょ! それは反則!! だ、だいたい、逃がし屋稼業でアンタを助けようしてこうなったのよ! ちょっとは感謝ってもんを」
「その話は終わっただろうが──蒸し返すな。だいたい恩になってねーんだよ」
ったく。
そーいや、そのうちコイツから『逃し屋』の話も聞かないとな、今はこっちの説明でいっぱいいっぱいだけど──。
ま、どうせ大した理由じゃないだろ、ボランティアとかいいつつも、実は諸々の罪悪感とかを誤魔化すために義賊的なことがしたい──とかそう言うやつだと、どーせ。
「違うわよ──! ほんと、顔に出やすいわね」
「うるせーな。顔読めるなら説明も咀嚼してくれよ──」
えー。
「そんなこと言われてもねー、神様に召喚されて、ワクワクしてたものの、貰った不思議な力が実は全然使い物にならなくて3年間を無為に過ごし──同期は先に進んでいることに密かに焦っていて、それをコンプレックスとして抱えていたところ、長年パシリをしていたパーティからも追い出されていよいよ選択肢が亡くなったところ──ダンジョンに向かったところ、チンピラに襲われて──……あんたしょっちゅうチンピラに絡まれてるわね、っと、それはそれとして──その時に、ダンジョンの壁が破壊できることに気付いて、出口から侵入──リスクなしで宝物庫に入れることに気付いて儲けようと画策。そこを魔塔主に出くわし、服を脱がしてあれやこれやで、こるとねいびぃ? を貰って、カードも貰ってスマホも貰って、貰いまくってウハウハなところ、調子に乗ってこの街まで来てボンボンっぷりを目をつけられて。今に至る──と、そして、これからまたダンジョンをリスクなしで攻略するために、超絶美少女戦士レイラちゃんを奴隷にした、ってとこまでしか」
うん。
うん……。
うーーーーーーーーん。
「ルール追加していい?」
「なによ?」
うん。
「わかってるなら二回も聞くなぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ひぇ!」
わかってるじゃん!!
完璧にわかってるじゃん!!
ちょいちょいおかしい所もあったけど、
「でも訂正な!! 断じて服は脱がしてからの
いっだ……!
いっっっだ!!
「いや、事実やん!!」
触ってもいなし、心にも触れてないやん!! 顔にもだしてないやーん!!
「殴りたくなったのよ!! もー!」
「えー理不尽すぎん……」
まぁ、可愛いっちゃ可愛いよ?
超絶ってのがいらんだけで──。
「え? 可愛いは思ってるんだ。あ、じゃあそれで──」
「軽いな、おい。合い見積もりとってる業者か、まったく。……まぁ、わかってるならいいけど、概ねそんなとこだ」
それと、
事後承諾で悪いけど──。
「へ? 急になによ──ひっ!」
チャキリッ──……。
「……悪いな。知られた以上、できることなら
マイトの構えるコルトネィビィの銃口を青い顔で見つめるレイラは、コクコクコクと何度も頷く。
あの時、よほど怖かったのだろう。
「──なので、できれば協力してくれ」
「わ、わかったわ、よ……」
うん。まぁいい。
不承不承と言った感じだが、レイラは頷いてくれた。
歪な関係になってしまったが、今は仕方ないだろう。
「……あー。だが、お前にも生活があるだろ? だから、もちろんタダとは言わん。誠実な仕事にはそれなりに金も払うさ──普通の……というとあれだが冒険者のパーティだと思ってくれ」
「物騒なものを突き付けて普通もなにもないけど──わかったわ」
ふっ。
さすがBランク──飲み込みが早くて助かる。
「じゃあ、改めて──俺は、
「レイラよ。レイラ・カミンスキー。よろしく、……でいいのかしら?」
そういって、お互い少し間をとりつつ、手を差し出し固く握りあうのであった──。
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