クラス最弱！ネタスキル「はっぱ」の覚醒〜一緒に召喚された皆は先に進み、ぶっちぎり雑魚認定されて３年間Lv１で放置されたけど、実はこのスキル最強でした〜

第１９話「連行」

　カランカラ～ン♪

　いつもの昼下がり、ギルドの混雑も昼時を跨いでようやくひと段落がついたところで、息をついたメリザであったが、そこにカウベルが鳴り、新たなり来客を告げた。

「はーい、冒険者ギルドへ、ようこそ────……にゃ？」

　　ふらり……。

　営業スマイルを向けたメリザの目に映ったのは、かのBランク冒険者レイラであった。

　しかし、なにやら足取りが怪しい……。

「おんや～？　レイラさん、早かったですにゃー。さっきのボンボンはどうだったかにゃ？　生きて……」

　──ドサリ！！

「に゛ゃ゛？！」

　軽口をたたくメリザの目の前で唐突に倒れるレイラの姿。

　もちろん、驚いた。

「ど、どど、どうしたにゃ？！　レイラさん！！」

　Bランクの彼女が到着早々倒れるなどただ事ではないと、誰かに何かを言うまでもなく、慌てて駆け寄り彼女を抱き起す。

　しかし。その直後顔を歪めるメリザ。

　何だろう、なんな濡れているような──。

　　……ドクドクドク。

「へ？　なんにゃ、これ──」

　なんか赤いし、生暖かい……──って、

「こ、これは……？！　にゃ、にゃああああ？！　血、血ぃぃい？！　ど、どどどど、どうしたにゃ？！　す、すすす、凄い血にゃ？！　レイラさん？　レイラさーん！！」

　……しーん。

　体を揺するもグッタリとして動かないレイラを見て顔面蒼白のメリザ。

　辛うじて息をしているが──生きているのは不思議なほど。

　しかも、よくよくみれば血だけでなく、全身ボロボロでほぼ裸同然──装備もないと言う有様だ。

「い、一体何があったにゃ？！　ま、ままま、まずいにゃ！　す、凄い傷にゃ！　出血性ショックにゃ！！　え（メ）、衛生兵（メディック）──メディィィィィックにゃ！」

　慌てるメリザ。

　そして、騒然とするギルド。

　　「な、なんだよ？！」

　　「しらねーよ！　なんか、女が担ぎ込まれたみたいだぞ？！」

　　「げっ、あれってレイラか？！」

　ざわざわ！

　　ざわざわ！！

　ピーク時を過ぎたとて日中のギルド内にはまだまだ人影は多く、職員も通常勤務。

　騒ぎにならないはずがなかった。

「なんでにゃ？！　何でみんな見てるだけにゃ？！　だ、だだだ、誰でもいいから、ポーションとかないにゃ？　回復師（ヒーラー）でも聖職者（プリースト）でもいいにゃー！　今ギルドの売店品切れ中なのにゃー！！」

　──ぽぃっ。

　そこに突如、投げ渡されたダンジョン産らしきハイポーション。

　しかも未開封で、まさに渡りに船！！

「にゃ！！　にゃあああ、ありがとにゃー！！　誰か、知らないけど──感謝……に゛ゃ゛ぁ゛あ゛？！」

　即座に感謝を述べようと顔をあげたメリザであったが、直後──その顔をみて硬直する。

　それもそのはず……だってそこにいたのは、

「……よ～う。さっきぶりだな、受付嬢さん。……ソイツはさっきの礼（・・・・・）だ。遠慮なく使ってくれ──もちろん高くつくがな」

　にぃ……。

　そう言って歯を剥いて笑うのは、レイラに負けず劣らずボロボロの恰好をしたマイトなのだから。

「──に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！」

　それを見るなり悲鳴を上げるメリザ。

　思わず抱えていたレイラをゴツンと床に転がし、後ずさるほどで、カウンターに背中をぶつけてようやく止まる。

「で、で、ででで、出たにゃぁぁぁあああああ！！　ゆーれいにゃ！！」

　……おいおい。

「いきなりご挨拶だな。開口一番幽霊扱いとか、たいした受付嬢だぜ──つーか、真昼間だぞ？　そもそも知らない顔じゃないはずだぞ？　なにせ、さっきは世話になったばかりだもんなー」

「し、知らないにゃ！！　レ、レイラさんが死にかけてるなら、あのボンボン（・・・・・・）は絶対死んでるにゃ！！　化けて出たにゃぁぁぁああ！！」

　うにゃー！！

「おーい！　いい加減にしろ！　誰が幽霊だ、誰が！！　見ろ、足ならある！！」

　つーか、うるせぇし、

　誰がボンボンだ！！

「あ、足のある幽霊なんていっぱいいるにゃ！！　ここは走るゾンビだっている世界にゃー！！　足のない幽霊なんてステレオタイプにゃぁぁあああああ！」

　だーもう！！

「にゃーにゃー、にゃーにゃー、うっせぇわ！」

「あ！　そういうの差別にゃー！！　最近うるさいんにゃよーにゃ」

「……今の語尾はさすがにわざとだろ──ったく、」

　いきなり巣に戻るなよ。

「はぁ、ったくロクでもなおいギルドだぜ」

　流石にうんざりしたマイトは、

　ヨロリと体を傾けたまま失血で青い顔のまま椅子にもたれかかる。

　一応、ハイポーションで回復したとはいえ満身創痍。

　見た目の傷は治っても受けた痛みは現実だし──なにより、散々斬られたせいで失った血は戻ってこない。

「……いいからさっさと使えよ──それでこっちの話を聞いてもらおうかッ！」

　──ドンッ！！

「うぎ！！」

　そう言うなり、もたれかかっていた椅子を振りあげると、レイラの首をギロチンするように椅子の足で首を拘束するマイト！

　その音と、容赦のない態度に一瞬にして静まり返るギルド内。

　……もちろん、ギロチンは誇張表現だ。

　ちゃ～んと足と足の間に挟んであるし、本当に潰すわけではないのはあしからず。

　しかし、その様子に非難の目線を向けるメリザは猛然と食って掛かる

「な！　ななんな、ななななにしてるにゃぁぁあ！　この人はＢランクにゃ！！　ウチのエースにゃ！！」

「はっ、エース級犯罪者ってやつか？」

　……な！

「ななななな！　は、犯罪にゃぁぁ？　何を言ってるにゃー！！」

「ふんっ、事実を言ったまでだ…………おいっ」

　顔を赤くして怒り心頭のメリザであったが、マイトは余裕の表情で顎をしゃくると、おどおどとしたオッサンが一人が体を小さくしてギルドに入って来る。

「──にゃ？　串焼きのおっさんがどーしたにゃ？？」

「さて何だと思う？」

　訝しむのはメリザと、事態を静観しているギルドの面々。

　しかし、いくら顔見知りとはいえ、露店のおっさんがこの場に一体なんの用だろうかと思うのは当然のこと。

　ま、だから連れてきたんだけどな。

「おらっ、言えよ」

「へ、へい！！……じ、実はそのぉ。えへへ、あっしはただ通りすがりでちょっと目撃しただけなんすがね──。実はその、」

「本題っ」

「ひぇ、わ、わかりました！！　」

　前置きが長ぇよ！

　誰もお前の言い訳なんざ興味ねぇんだよ！！

　マイトがすごむと、脅しがよほど効いていたのか、それからはもう堰を切ったようにペラペラしゃべりだす串焼き屋のオッサン。

「じ。実はそのぉ。マイトさんはこの女に嵌められたようでして──……！」

　それはもう、ペラペラだ。

　ゆうに１０分くらいはレイラの悪行を喋り続けるオッサンに、さすがにマイトもうんざいりしてきたところで、

「…………というわけでして、へへへ」

　最後は、気持ち悪い笑みを浮かべたまま、マイトの顔色を窺いつつ、きっちりと『鉄の牙』のことはもちろん、レイラのことはそれはもう事細（ことこま）やかに説明して見せた。

　聞いていたマイトも呆れるほど、詳細にだ。

　（※　もちろん、マイトの撃退方法について微妙に誤魔化しつつね！）

　そうして、喋りきったところで、

　ゲシッと、レイラを蹴り飛ばすオマケつき──────って、こら！！

　お前が蹴るのは違うだろうが！！

　マイトが何か言いかけるも、ポーションでわずかに回復したレイラの目に意思が灯り、殺気のこもった目でおっさんを睨みつけると、奴は「うひぃぃい！」とか言って逃げ出した。

　をーい。逃げるくらいならやるなや──……と思ったところで、ギルド憲兵隊出現。どうやら一部始終を聞いていたのか、証人としてか余罪でも洗うのか、あっさりとオッサンを拘束すると、そのままギルドの奥へと引きずっていった。

　……うーん、早いな。

　普段は、ダンジョン前で警備してるとこくらいしか見たことないけど、どうやら憲兵隊もやる時はやるのね──っと、それよりも、

「ま。聞いた通りだ。……それで？　こういう時、この女は当然逮捕だよな？」

「え、えぇそうなりますにゃー……にゃにゃ……。冒険者犯罪の現行犯逮捕は金一封（・・・）もありますにゃー」

　ほう！

　金一封と来たか！

　なぜかションボリしたメリザは、苦々しくそう答える。

　どうやら、私人逮捕はある程度認められるらしい。しかも、謝礼つきとはね。

「もらえるもんは貰っておこうかな」

　お金と聞いてちょっと気をよくしたマイト。

　……おそらく自浄作用を狙ってのことだろうけど、冒険者間でのトラブルないし犯罪はこうして通報することができる仕組みがあるそうだ。

　その上で、逮捕・起訴（？）に繋がる情報であればちゃんとした謝礼が支払われるんだとか。

　もっとも、チクリ魔だのなんだのと言われたりするので──実は冒険者間では、仲間を売るのはご法度の暗黙のルールがある。

　なので、実際には積極的に活用されることはないのだが、まったく例がないわけでもない。とはいえ、その数はごくわずか。ギルドが狙っていたような自浄作用はほぼ見込めなかった、

　──まぁ、それはそれだ。

　こうしてあからさまな犯罪は、後腐れなく突き出すまでのこと。

「な、なのでこちらにどうぞ──にゃ。もちろん、ポーションも弁償するにゃ」

　暗い顔をしたメリザが先頭にたち、一礼。

「そりゃ助かる」

　ホクホク顔のマイトがメリザに続いてギルドの奥へ向かうと、その背後に、レイラを連行するギルド憲兵隊が続く。

　その様をみて、ざまぁ！　と気分を良くするマイトであったが、直後──なぜかマイトの両側にも屈強なギルド憲兵隊が固める。

　は？

　……え？

「へ？　な、なんだよ？　おれは被害者だぞ？！」

　しかし、聞き耳持たぬとばかりに有無を言わせず拘束されるマイト。

　否。

　……拘束──とまではいかないけど、フルフェイスの兜をした憲兵が、まるで犯罪者でも見る目つきで、マイトの脇をガッチリと固めてグイグイグイ押していく。

　いやいや、

　待て待て待て！１

「お、おい！　おかしいだろ？！　なんで俺まで──お、押すなよ！！　押すなよ！　絶対押すなよ──」

　グイグイグイー！！

　って、押しまくってんじゃねーかよ！！

　押さんでも、歩くッつの！！　ったく……。

　渋々歩き出すマイトではあったが、

　もしかして、エース冒険者とやらを逮捕したのはまずかったかな？　とチラリと思うも、他にやりようもない。

　そうして、有無を言わさずギルドの奥に連行されるマイトであったが、途中、取調室（？）という名の嫌～な感じ器具（・・）が壁に駆けられた部屋であのオッサンの悲鳴が響いていた──。

　　「んんぎゃぁぁああああああああああああああ！！」

　ビクぅッ！

　な、なになになに？！　尋常じゃない声なんですけど？！

「……え、えーっと、ここドラキュラ城でしたっけ？」

「にゃ？　普通のギルドにゃー」

　嘘つけ！！

　ギルド奥には普通──拷問部屋とかねーよ！

　壁うっすうすで、めっちゃ悲鳴が聞こえてるじゃねーか！！

　　「吐けッごらぁぁああ！！」

　　「うひぃぃいいい！！　痛い痛いいたーい！！　つ、爪の間は止めてぇぇええ！！」

　──つ、爪ぇ？！

　ぞ、ぞぞー。

　自分の爪をじっと見るマイト。

　……あかん痛（いた）なってきた──。

「こちらですにゃー。先に入ってくださいニャー」

「え？　いや？！　ちょ──」

　ぐいぐいぐい！

「だ、だから押すなって！！　いたいいたい！」

「申し訳ないですにゃ、一応事情を聴かないと──にゃ。狭いので奥に詰め（・・）てくださいにゃ」

「つ、爪ッッ！？」

　──はい、にゃ！

「つめつめでお願いしま～す、にゃ！」

　い、いや！

　いやぁ！！

「つ、爪は、いやぁぁああああああ！」

　────……バタンッ。

　マイトの悲鳴がこだますも、

　無慈悲にギルド奥の扉は閉められるのであった。

　そして、