第18話「女狐レイラ」

「「「──てめぇぇえは女狐のレイラ!!」」」

 スラム中に響き渡る男たちの蛮声。


「チッ!」


 その声に苦々しく顔をゆがめる少女を見て、マイトが会心の笑みを浮かべる。

 チンピラの興奮の度合いは全然方向が違ったが、これでこっそりアイテムを盗み出すのは無理だろざまーみろ!


 実際、連中ときたら一時休戦して、一斉にレイラと呼ばれた少女を取り囲もうとこちらに油断なく剣の切っ先を向ける。


 そして、今こそがチャンス──!!

 こいつらが、全部で潰し合えば────!!


「……あー。待った待った待った! 降参、待っててば──あーもう、」


 やれやれと、ため息をつく少女は、肩を竦めて降参のポーズ。

「な、なにを……グッ」


 ガラガラガラ、バララー!


「て、てめぇ!!」


 あろうことか、激突するかと思った連中の目の前で両手を上げると、かわりにマイトからリュックを引きはがし、その中身をガラガラとぶちまける少女。

 それに抗議するマイトを足蹴にして、連中を手招きすると言った。


「まぁまぁ、おにーさんがた。全員で争っても、いいことないって────」


 もちろん、宥めたところで頭に血が上った連中のことだ。

 さっきまで殺し合いをしていたことも忘れてレイラを取り囲むと今にも剣を振り下ろさんばかりにがなり立てる!!


「んだぁぁ! おう、ごら! 人の上前跳ねるつもりか、ごらぁぁ!」

「女狐ぇ! 今日という今日は許さねーぞ!!」


 ぎゃーぎゃーぎゃー!


 そんな風に凄むチンピラに冒険者『鉄の牙』の皆さん。

 近くで聞いているマイトですらちびりそうな迫力だが、飄々とした少女は、まったく意にも介さず怪しく微笑む。


 そして、あろうことか、降参のポーズのままマイトを蹴り飛ばすと、

「いいから聞きなって。ほらっ」


 ガチャーン!

 マイトの荷物を蹴りころがすと、まぁまぁの品・・・・・・がゴロゴロと転がりでる。


 それを見て目の色を変えたチンピラども。


 どうやら、地図と金貨以外にも大量の戦利品候補に目を$マークにして唾を飲み込む。ただの雑魚冒険者かと思い切り、思わず獲物といったところか。


 しかし、意図がつかめず、レイラを睨み、そして、お互いを睨むチンピラと冒険者ども。


 すると、場が硬直したのを見計らう否や、ニヤリと口角をあげた少女が笑う。

 そして──。

「どう? 全員で戦って、ヘロヘロになってからコイツを奪い合うか──」


   ニッ。


「……いっそ、ここで3等分しな~い?」

「んな?!」


 その言葉に、硬直したのはマイトばかりではない。

 思わず漏らしたマイトは別にして、チンピラも冒険者どもも、眉間にしわを寄せて、仲間内で顔を突き合わせると、なにやら思案し始める。


 お、おいおい、まさか……。


 そして、連中のなかで素早く計算が行われる──。

 ……いわゆる損益分岐点。


 おそらく、冒険者『鉄の牙』は劣勢──意外と強いチンピラにそうとう苦戦しているようだ。


 そして、チンピラはチンピラで、かなり健闘はしているが、このあとレイラとの闘いもあるとなると、相当に面倒くさいし、かなり分の悪い戦いになると思ったのかもしれない。


 それに、チンピラはすでにマイトの財布と地図を奪っている。

 そこから戦利品の分配に加わるならさほど損はないと判断したらしい。


 つまり、誰もあまり損をしない……。


「どうかしらぁ?」

「……ふん。いいだろう」

「…………こっちも不満はねぇ」


 ガシッ!!


 そして、しばしの沈黙のあと、どちらともなく、

 互いのリーダーがコクリと頷くと、突然剣を収めてガッチリ握手!!


「うぇ?!」


 もちろん驚いたのはマイトだ。

 さっきまで殺し合っていた連中が突然手を組んだのだ。予想外も予想外!!


 三竦みの状況を作って互いにつぶし合って、あわよくばん逃げおおせるつもりが逆に大ピンチ!!を


 ま、まさか……。

 いやでも──!!


 思わず、少女に眼をむけるマイト。

 だって、この状況だと3等分しても、少女にはあまり得がないんじゃないかと思ったのだ。しかし、小さく舌を出す彼女を見てマイトはやられたと思う。


(こ、こいつこれを狙って……!)


 なぜなら、レイラと呼ばれた少女もチンピラ同様に、マイトから隠し財布を奪っていたし、それ以外にも『コルトネィビィ』をはじめ色々盗んでいる。


 つまり、そこから3等分するのだから、今のところ、『鉄の牙』以外は結構な儲けになると────……マイト以外は!!


「ひひっ。いい取引だ。兄弟よぉ、ここは痛み分けっつーことでさっさと分けようぜ」

「へっ、勝てるが、まぁいいだろう──」


 こうしてマイト君の意思は完全無視で──最悪の結末を迎えようとしていた。


   は、ははは……。


 なんてこった。

 そういや、三国志も結局あの時代にケリがつかなかったっけ──はははは。


 そうして、うまうまと装備もアイテムをこいつ等に3等分されて、証拠隠滅のために殺されて────死体はここの住民に分割処理?


 ただ、地図を買って、

 露店の親父に道を聞いただけで、これ──??


 それならいっそ最初から、コルトネィビィをぶち込んでやればよかった。

 1対3で不利だなんだと怖気づいている場合じゃなかった──。


 そんな自分の覚悟の甘さにいい加減腹が立つ。

 3年間くすぶり続けて、未だこんなところで這いずりまわっている自分に腹が立つ!!


 そのうえ、あのクソアマ言いやがった。



    『次に生まれ変わったら反省してやりなおしなよ──』



 次?

 次だと?!


 そのうえ、反省しろだと?!


「ふっざけんなよ……クソアマぁぁあ」


 ついにマイトの中にフツフツと湧き上がる怒り。


 ……ゲンキ君達に追放された時も、

 同じ召喚者たちに馬鹿にされ、ネタスキルだの笑われた時にも湧き起らなかった怒り──。


 この世界に来て、無数の後悔をして反省をした。

 やり直せる機会、失った機会を思い無数に反省した。


 スキルだって、もっと前に、もっともっとなにかできたかもしれないのに──最近になってようやく使い方が分かるなんていう自分の愚かさに、無限の反省をした!!


 そのマイトに!!

 このマイトに──!!

 今のマイトに──────!!


「反省しろだぁぁ……?!」


 ググググ……。

 全身に回る毒に抗い、半身を起こすマイト。


 それが余計に毒を生き渡らせるとも関係ない。

 それがどうしたと言いたいくらいに関係ない!


 それくらいに!

 それ以上に腹が立つ!!


 マイトに言ってはならない一言!!

 ──反省しろだぁ?!


「反省してないあわけないだろ……」


 反省と後悔しかないよ。

 後悔と反省しかないよ。


「やり直して、生まれ変われるならそうしてやりたいよ!!」

「ん?」「お?」」「あら?」


 マイトの抵抗に気付いた連中が、戦利品の分配から顔を上げると、そこには、幽鬼のように半身を起こすマイト。


 グググググググ……。


 起こした半身で、ニヤニヤと笑う奴等に向かって手を伸ばす。

 もちろん無駄な抵抗という奴だろう。


 毒で死にかけているマイトなんぞ、池に落ちた昆虫程度にしか見ていないのは明白だ。


 ──だけど!!


 明確に感じる人の悪意と悪意と悪意に晒され、マイトが感じたのは恐怖を超越した怒りだった……。


 たしかにクソな世界だぜ?

 弱肉強食の世界だぜ?


 だけどよぉ…………。

 たかが、小銭のために人の命を奪う?

 あげく、スラムで焼き肉にされるだぁぁああ??


 ふざけんのもほどがあるだろうが────!!


「うぐぐぐ……」


 少女の毒物によって全身の毛穴から汗が噴き出す感覚。

 すでに腕は足が動かず、舌も痺れて声もうまく出ない。……和スカに動くのは指先と、視線のみ。


 それでも、

 それでも────!!


「お、俺だって……。こ、こんな世界に来たくて、来たわけじゃ、ねぇ!!」

「おいおい、大人しくしてろよ──あとでこう、苦しまねぇようにしてやっからよ」


 ひゃはははは!


 せせら笑うチンピラ。


「ちっ。Eランクの兄弟よぉ──悪く思うなよ。お前が小銭見せびらかしてるから悪いんだぜぇ?」


 ゲラゲラ笑うゴロツキ冒険者の『鉄の牙』。


「ばーっかねぇ、動き回ったらよけいにドクが回るわよぉ、大人しくしてればそのうち死ねるからぁ、きゃはははは!」


 そして、最初から悪意全開のクソアマ!

 せめて、せめてコイツがいなければ……コイツさえいなければ──マイトは、まだ生きることができた。


 身ぐるみ剥がれたとしても、多分生き残れた……!


 なのに、

「このアマぁぁ……。なにが、『次に生まれ変わったら反省してやりなおしなよ』だぁぁあああ!!」


 死んだら終わりなんだよ!!

 こんなクソみたいな世界でも死んだら終わりなんだよ!!


 ゲームじゃねーんだ!!

 リスポーンはねぇんだよぉぉお!!


「そもそも、反省してないわけないだろうがぁぁああああああああああああ!!


 この3年間!

 どれほど反省したか!!

 どれほど後悔したか!!

 どれほど生まれ変わりたいと思ったか!!

 どれほど、

 どれほど、

 どれほどぉぉおおおお!



  ──ブチッ!



 この瞬間、マイトの中で何かが切れた。

 クソみたいな世界で、初めて訪れた命の危機────何度かあったと言えばあったけど、ここまで救いのない危機はなかった。


 マイトが甘っちょろいからこんな危機になった。


 あぁ、そうだ。

 バカだったよ。


 こんな世界に住人、顔を見たら泥棒と思わなきゃな────そして、

「今もこの瞬間も、後悔して反省してらぁぁああああああああああああああ!!」


 しびれる頭と舌をガン無視して、マイトは叫び、手を伸ばす。

 その無様な様子。動けなくなったマイトの最後のあがきをあざ笑う連中────いや、笑ってすらいない。


 ……連中は、もはや笑うどころか戦利品にしか興味がない。


 そうだよな!

 そんな連中だよな!!


「だから、もう! 反省したよ!!」


 泥棒相手に容赦してる暇も余裕もなければ、慈悲すら与える必要もないってなぁぁあ!! 



 ──がっ。


 しびれる体のまま、マイトが手にしたそれ。

 くそアマがゴミだと思って捨てた「石」


 そう、

 ダンジョンの壁で────。


「へっ」



  すてーたす、

     ……おーぷん



  ブゥゥウン!!



『目標──「ダンジョン壁」厚さ3000mm、使用魔力30』


 ……………発破しますか? Y/N



「ふ……」


 ふはははははははははははははははは!!


 あぁ、自分のアホさに十分反省した。

 だから、反省をいかしてこういうのはどうだぁぁああ!



   ⇒「Y」 ピコン♪


「……あぁ、もちろん、YESだ」


 もはや、容赦しない。

 チンピラだろうが、Cランクだろうが、Bランクだろうが、冒険者だろうが、容赦しない。この世界の住人はクソだ。


 だから、死ね。

 全員死ねッ!!


 『カウントダウンを開始します』


  『危害半径からの退避を勧告します』


 そうだ! 容赦なく死ねッ。


 魔力30を注いだダンジョ壁の爆発──危害半径30mのそれを食らって死に晒せえっぇえええええええええええええええ!!


 ブシュウウ!!


 全身から血を吹き出し、最後の力を振り絞って立ち上がったマイトは、血の汗と涙を流して、ダンジョン壁を握りしめると、ステータス画面に表示されている『時間調整』のタブを素早くクリックして、時間を最短にセットする。


 危害半径上等ッッ!!

 危害するのはここら全部だっつーーーーーーーーーの!!!


「うおらぁぁあああああああ!」


 チキチキチキッ!

  チキキキキキキ────!


  『55 54 53─────』


 ……はっ!!


 60秒もいらねぇぇえ!!





 1秒だ!!





 1秒後にてめぇぇえらは、



「死に晒せえぇぇえええええええええええええええええ!!」



 ……チキキキ、カチッ──!


 ピー♪


  『──2 1』


 もはや一刻の時間すら与えたくないとばかりに、時限信管をセットしたそれ。

 動画の時短バーのようなものを弄れば、時間調整ができらしく、それ一気にゼロに近づける。


 そして、カチチチ──と音を立てて、限りなく0秒に近づけたそれ・・を……。


 それ・・をもって──。


「ぶん投げる!」


 ブシュウ!


 刹那、毒で凝り固まった筋肉が断裂する音がしたが、知ったことか。

 ……もはや、この一撃を決めればいいとばかりに、マイトは全身全霊をもって全力投擲!!



 ──うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!



 ブチブチと、筋肉と骨と血管が裂けていき、

 血と肉が飛び散り、腕が張り裂けるがそれでもこの瞬間最も美しいフォームで投擲されるそれ・・────それ・・



   ……ぶんっ。



 その瞬間、

 神に与えられた『発破』のスキルを内包したダンジョンの壁の一部が、スキルレベル1の「壁面発破」の能力をいかんなく発揮する。


 ダンジョン壁の厚さ3000mmを破壊する魔力30──すなわり、危害半径30mを灰燼に帰すも売れるな破壊力が、今、今!!



  『1 いま──」 



「「「あん?」」」

「「「「おん?」」」」

「なによーさっきからぶつぶつと────」


 やつらの頭上に投げたそれがドンピシャに位置に達したまさにその瞬間ッ!!



 ピー…………。



   カッッ──!!



 一瞬にして、ダンジョン壁のそれを内部から破壊し、

 恐ろしいまでの熱と爆風をもって奴等の頭上で大爆発する!!


 そう。

「……へっ。石の上にも3年ってな──」


 3年分の反省と後悔。

 ……食らいやがれ。


 会心の笑みを浮かべたマイトが、直後に体をまるめると……。








   ズバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!







「「「うぎゃぁぁああああああああああああああああああああ!!!」」」

「「「「ひでぶぅぅぅううううううううううううううううう!!!!」」」」


 突如、頭上で炸裂したダンジョン壁の破片!

 魔力30で炸裂する破壊力、つまり危害半径30mでその中にいる者は確殺する威力が、遺憾なく発揮される!!


「んっっきゃぁっぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」


 その瞬間、このスラムの一角がボンッ!! と消し飛ぶほど!!


 ──ざまぁぁあ!!


   ──ざまぁぁあ!!


「ざまぁぁあああああああああ!!」


 はっはっはー!!

 奴等もろに食らいやがった!!


 もろに食らいやがった、ざまーみろぉぉおおおおおお!!


 そして、マイトさん!!

 ギリギリで体を丸めて、なんとか直撃を逸らそうとする!!


 もちろん、そんなくらいで防げるはずもないが────そこは運!

 なによりサイズだ!!


 ダンジョン壁とはいえ、あれは所詮、拳大の石に過ぎない────つまり、直撃しなければ助かる可能性がある。



 そう!!



 こんな瞬間でもマイトはまだ生存に欠けていた。

 3年分の反省と、3年分の後悔が、この瞬間もマイトを生存させる!!


 そして肌を焼く熱量を、なんとか耐え切ると、


「ぶはぁぁあああああああああああああああ!!」


 思いっきり息を吐きだす!!

 ……い、生きてる!!


「た、助かった!!」」

 ボロボロには違いないが、もともと自爆のつもりはない。

 投擲したのは当然連中の頭上だ。

 そして、奴ら自身が陰になってマイトは爆風を辛うじて躱せる位置────なにより、体をまるめて対ショック姿勢を取っていたことが功を奏したらしい。


 ……だが、死ぬ。


 このままでは死ぬ────。


 滅茶苦茶斬られたし、爆風の影響もゼロではない。

 それでも────……。

 それで──……



「あった……!!」



 痺れる身体。

 血の流れすぎた体────。


 だけど、こんな時こそ異世界アイテム────ハイポーション!!


 「ダンジョン壁(石)」を回収したのと同時に入手していた『ハイポーション』がここにある!


 やった!

 よかった!

 売ってなくて、ホントーーーーーによかった……。


 そして、連中が漁っていたおかげか、リュックから出ている。

 さらには奇跡的に無傷、ありがたい……。


「は、ははっ」


 ガバッ!!

 倒れこむようにしてポーションの前に滑り込むと、口で口を開けて一気に喉に流しこむ────かはぁぁあ!!


「はぁはぁはぁはぁ……」


 う、うまい……!


 体に染み渡る地味深い味。

 マナポーションのそれとはまったく違う旨味に感動するとともに、

 ステータス画面をみると、体力・魔力ともに大幅に回復しているらしい。


 オマケに、状態異常もほぼ消えたようだ……。くくく、異世界アイテム様様だぜ。


 Lv1の冒険者が使うようなアイテムではないが、その貧乏性のおかげで助かった。


 そして、目の前では死に体の冒険者とチンピラども……。

 あとは────。



「ひぃ!」

「へっ……」



 コイツは驚いた──……まさか、生きてるとはな。さすがBランク。


 例のクソアマこと、盗賊少女──レイラはなんと、服がボロボロになったのと、少しの軽傷だけですんでいる。


 ……どうやら爆発の瞬間、男どもの体の下に隠れたのだろう。


 血だらけなのはほとんど返り血のそれだ……。

 やるねぇぇ……。


 だが、ちょうどいい。


「おうごら──どこいくんだよ」

 ズンッ!!

「ひ、ひっ、ひぃぃいい!」


 大きく跨いで、這いつくばるレイラに向かって一歩を踏み出すマイト。


 その様子に慌てて起き上がると、必死で逃走開始!


 ……はっ!

 逃がすかよ! さすが盗賊──こんな時でも逃げ足は速そうだな。


 オマケに、この有様でもマイトから奪ったもんは意地汚く持ち逃げしようとしているのだから、大したもんだ。


 ま、この状況、そんな逃走を許すはずもないし、

 それにLv1とはいえ、今のマイトは全回復。


 一方、レイラとやらは多少ダメージを負っており、おそらくメンタルは恐慌状態。

 つまり──状態異常『パニック』ってところだろう。


 走っているつもりであっちにフラフラこっちにフラフラ、いいかも・・でしかない。


 ……まぁ、無理もない。


 レイラからすれば、突然至近距離で大魔法を食らったようなもんだろう。

 もしかすると脳震盪ぐらいは起こしてるかもしれない。


 ……ま、死にかけだろうが、五体満足だろうが、

 みすみす逃がすつもりも──許すつもりもない!!


「おうらぁぁああ!」


 なので、

 もう、いっちょ!!


 ──ぶんっ!!


 いくつか拾っておいた「ダンジョン壁(石)」を拾うと、今度も時間を調整して、時短でぶん投げる──……。


  ひゅるるるるるる……。


「ひぃぃぃいいいいいいいいいい!!」

飛んでいきなボラーレビーアッ」



  『2 1──』




 ピー……♪



  『──いま』




「ひっ──

 チュドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



「あぎゃぁぁああああああああああああああ!!」


 はっはっは!!

 飛んだとんだぁぁあ!


「それでも直撃を躱すかぁ……さすがBランク」


 トタンか木の板かわからないが、それをとっさに盾にして、ボーン! と爆風でふっとばされるレイラ。


 破片はアレで防げたらしいが──やるな。

 まぁ爆風をもろに食らってそのまま、路地の『壁』にずべしゃぁぁと顔面から激突……。


 あれは痛そうだ。


「あー、そういや、壁って、別にダンジョンの壁でなくてもいいんじゃね?」

 と、今頃気付くがそれはさておき、ピクピクしている少女の元に近づくマイト。


 さーて、どうしてくれようか。


 まぁ、


「まずは装備を返してもらおうかぁぁあ!!」


 おらおらおら!!


 レイラの服をビリビリに乱暴に引き裂き、ほかの装備もあわせてを引っぺがして、諸々に隠し持ってたがったものを取りかえす、


 ついでに、ナイフや凶器になりそうなのも召し上げ、よくわからない指輪とかもとっておく。


 ……こういうのは『魔道具』ってパターンもあるからな。


 そうして、下着一枚になるまで引っぺがしたところで、ゲシッと蹴り転がしその服の残骸で縛り上げる────殺さないのかって?


「ふん……。返り討ちにしただけで、証拠がないと俺が疑われるからな」

 ニヤァ!

「ひっ! い、いやっぁあああああ!」


 至近距離で凶悪に笑ってやれば、ボロボロになったレイラはついに抵抗を諦め泣き出してしまった。どうやら捕まるのは嫌だという。


 最後の抵抗に、体をひねって拘束から逃れると、ヨタヨタと縛られたまま逃げ出した。


 ……はっ!

 それで逃げられると思ってんのか? 一丁前に悲鳴なんぞあげくさりやがって──なら最初からすんなっつのッッ。


  チャキリッ。


 下着姿同然で逃げ出そうとするレイラめがけて、今度は地面に転がる「コルトネィビィ」を拾い上げるマイトは、ゆっくりとその撃鉄をおこすと──。




   バーン!!



「あがっ!」

「……もう、容赦はしねーよ。なんだっけ? 死んで反省しろってか?」


 ペッ!!


 死んだら終わりだっつの!!


 そう言って、銃の反動でしびれる手をプラプラ。

「あー。いってーわ、これ。練習しねーとな……」

「う、ぐ、ぐ……」


 ドクドクドク。

 血を流してぐったりとしたレイラ。


「ふん──。死んだふりなんざ通じないぞ? 一応、急所ははずしといた、多分な。……だから、大人しく連行されろっての、それとアンタ!」


 ジロッ!


「ひゃ!」


 コッソリ隠れて様子を窺っていたのは露店の親父を呼びつけるマイト。

 隠れていたつもりだがバレバレだ。

 まぁそれはそれとして、コイツにも用がある。さっきの落とし前はもちろんだが、それよりも証言者としての使い方がある。


 まぁ、当てになるかは微妙なところだが……。

 『鉄の牙』に雇われていたっぽいので、レイラに借りはないはず──つまり、証言者としては十分に使い物になるはずだ。


「……見逃してやるから、証言しろ──いいな」


 にらみを利かせると、 コクコクコクコク!! と怯えた顔で高速首肯。


 そりゃまぁ、そんな場面見てたらそう思うわな──そして、爆発を見ていたと思うが、それについてはそう心配することはない。

 ……多分、魔法にしか見えなかっただろう。実際そういう魔法もあるみたいだしな。


 まったく……こういう時魔法のある成果だと便利だな、ホント。

 元の世界だとUFOの攻撃か、ガス爆発のどっちか二択だ。……異論は認める。


 あ、でも。北九州なら手りゅう弾かロケット弾か?

 

「って、そうか、……手りゅう弾か。いいねこれ」

 まだ地面に散らばっていたダンジョンの壁を一つ拾ってひょっと投げると手の上で弄ぶ──。



  ブゥゥゥゥウン!!


『目標──「ダンジョン壁」厚さ3000mm、使用魔力30』


 ……………発破しますか? Y/N


 なるほど……。


 これを、あらかじめ魔力を注いで起爆状態にしておき──……残り時間4~5秒程度で「一時中止」にしておく。


 そして、ぶん投げてからの「再開」スイッチ・オン!


 すると、なんということでしょう──あっというまに北九州……じゃなくて、手榴弾の出来上がりだ。

 これで行くと、地雷みたいな使い方もできそうだ。


 遅延信管を1秒にしておいて、地面にばら撒き──敵が通過したら、ポチッっとな!──『ァボーン!!』ってな感じだ。


「いいね……。実にいい」


 ついさっきは、無我夢中で使っていたが、ダンジョン壁──いや、その辺の壁でもできそうな攻撃手段にマイトは目からうろこの劣る思い。


 なるほど……スキルの活用ってこういうことか!!


 他にも色々応用は出来そうだ。

 そして──これ、相当に使い勝手がよくないか?!


 なにも魔力を多数必要とするダンジョン壁に限らなくてもいい。その辺の薄い壁に使えばおそらく魔力消費が過少で済むだろう。


 まぁ、要検証だが──いいね!!


 そうしてこうして、天啓を得つつ──賊を撃退したマイトは、重傷のレイラを露店の親父に担がせ、ギルドへの道を引きかえるのであった。


 チンピラと『鉄の牙』?

 生きてるみたいだけど知るか。


 それこそ、ここの連中が綺麗にしてくれんじゃねーのぉぉ、知らんけど────。




 こうして、ボロボロになったものの、

 ……マイト、異世界の洗礼を何とかクリア、


 3年目にして悪意に真正面からぶつかり、それを撃退することに成功した──しかし、この騒動が今後のマイトの精神に大きく影響したのは言うまでもない。

 そしてこの後でギルドを訪れたことで、さらなる衝撃を受けることになるのだが、この時のマイトはまだ知らない。

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