第16話「次なる町へ」
ガラガラガラ──。
ケツが痛くなる振動と、短調な時間に耐えながら車上の人となったマイト。
現在──フォート・ラグダを目指して、金貨15枚のクッソ高い乗車賃を払って、向かっています。
結局、あのあとすぐに街を出ることにした。
なんだかんだと思い入れがないわけでもなかったが、まぁ離れてみればあっさりとしたものだ──。
3年……。
3年間あの町にいたのだ──。
(だけど、まぁこんなもんだよな──)
過ぎ去る街が小さくなるのを眺めながら、少し物思いにふける。
ギルドに顔を出そうとも思ったけど、
そも全然、用がなかったわと思い出し、ダンジョンを出口を一個吹っ飛ばした時点で停留所に向かったわけだ。
荷物もほとんどないし楽なもの。
そうして、馬車に揺られること4日──。
なるほど……いつぞや御者のあんちゃんに言われた通り、金貨15枚は妥当だった。
具体的には護衛の質──。
見れば数名。
車列の前後を騎馬で張り付く彼らは、襲い来る魔物を鎧袖一触──馬車に触れさせもせずに追っ払っていた。すげー。
なんでも、彼らはグラシアス・フォートでは名うて傭兵で、冒険者ランクで言う所のCランク相当なんだとか。
まー、傭兵と冒険者のランクははまた別モノらしいので、詳しくは聞かなかったけど──なるほど、そんな彼らを数日間護衛で拘束するとなる金貨15枚の値段も納得だ。
その気になれば、彼らなら馬車の護衛でなくともそれくらいの金は稼げるのだ。
言ってみれば正当な報酬だというわけか……。
あと、宿代に野営の管理。
なるほど。これはまぁ、そこまで大変というほどでもないけど、ろくに知見もない以上、すべて整っているのはありがたかった──。
……飯はマズイが、まぁ食えるレベル。
あとは、退屈な時間を馬車にゴーロゴロ、ゴーロゴロ揺られるだけ。
道中女の子をいたんだけど、ね。……なんか、ね。
ほら──男連れだったしイチャイチャオーラでマジぶっ飛ばそうかと思いました。まる
しゃーないから、魔塔主にメール送って遊んでました。
他にも機能の少ない『すまほ』をピコピコ。
いやー、無駄に凝ってるわこれ。
アラームもあるし、変なプリも入ってる。GPSがないので地図アプリはないけど、代わりに魔塔製のゲーム付。
なんだよ『魔塔でPON!』って。
ひたすらスライムとゴブリンをビシバシ叩いてポイント稼ぐって……。
クッソつまんねーよ!
……そうして、こうして──ようやくたどり着きましたよ、城塞都市フォート・ラグダ!
ここが、魔物うろつく世界の人類の生活拠点ー!!
「──うわ、でっか!!」
幌を跳ね上げ見渡せば、初めて見るグラシアス・フォート以外の街にマイトさん大興奮。
……これだよこれ!!
これぞ異世界だよ!!
忘れてたけど、異世界に初めて来たときの興奮を思い出すマイト。
散々な生活で擦れてしまった心だけど、召喚された当初は戸惑い半分、ワクワク半分だったものだ──それが、ついに!!
ついに!!
ファンタジーっぽいことしてるぅぅうう!!
思わず馬車のヘリに足を駆けて目をキラキラさせているマイトに、乗客乗員全員白けた目。
いいからジッとしてろの圧を感じてシュンとしちゃう──。はい、さーせん。
そんなこんなで馬車はガラガラガラ──から、ゴロゴロに変わる。
どうやら街中の──石畳の上に変わったらしい。そうして、あれよあれよという間に、到着!!
停留所で下ろされたところで、ついにマイトさん。他の街に初上陸────……!
「おぉぉお、これがフォート・ラグダかー」
さっきもみたけど、でっかい城壁!!
それがず~~~~っと伸びて、景色の先、その先端が見えなくなるまで延々続いている。それも、どっかの山にぶつかり、その上までにょろにょろと伸びていく様よ。
イメージ的には万里の長城?……の西洋風かな。うん、知らん。
さて、そんなこんなで到着したわけですが、マイトさん、この街は初めて────ならば、
いくところはもちろん──。
カランカラ~ン♪
「冒険者ギルドにようこそー」
わーお、構造同じー。
わっかりやすーい。
既視感のある光景は冒険者ギルドあるあるのだそうだ。
まぁ、多少はその街の風土に合ったつくりになるも、基本は弩難所でも、冒険者が安心できる設計になっているとかなんとか。
なので、グラシアス・フォ-トでの経験に従い、まずは受付へ。
もちろん、顔出しを兼ねて目的は一つ──。
そう、クエスト──────じゃなくて、
「いらっしゃー-、おや新人さんかにゃ?」
おぉー、猫の人だ。
初めて見たな。獣人の人は見たことあるけど、猫の人初めて、かわいー。
「どうしたにゃ?」
「あ? え? あ、あああ、どうも、え、えーっとそうです、新人と言えば新人なんで、地図もらっていいですか? あ、一番いいやつで」
これがないと何もできない──。
なにせ、マイトさんがこの街に来た目的は魔法装備なので、それが算出されるダンジョンの詳しい情報が欲しいのだ。
そのためにはギルドに顔を出して地図を買うのが一番近道──というわけで、
「はーい。金貨10枚になりますにぇー」
ぶっふぉ!!
「ぎゃあああ!!きったな!!」
「たっっっっっか!」
え? 金貨10枚?!
日本円で言うとこの100万円やで?! 地図が?!
え? マジか?! いや、ギリギリ足りるけどさ──……ええええ?!
「そ、そんな
「んー? 新人さんはあの町出身かにゃ? じゃー地図の価格に違いに驚いてもしょーがないにゃ。でも、別に法外じゃないにゃ」
にゃ
にゃ
にゃ
ゲシュタルト崩壊を起こしそうな「にゃ」の連発に頭をやられかけつつも、説明を受けて納得──。
なんでも、この街周辺は、グラシアス・フォートに比べてダンジョンの数が桁違いに多いらしい。
そして、判明しているその全情報を記載した地図は当然その分、値段が上がる。……そりゃそうか。
「わ、わかりました──」
しぶしぶ。
納得したマイトは、いきなりの手痛い出費だが、財布から金貨を取り出し素直に払う。
残りの金貨の数は数えるほどになってしまったが。この初期投資をけちってもしょうがない。
「わ、本当にお買い上げですかにゃ──まいどにゃー」
おうよ、買わいでか!!
こちとら、Lv1やぞ!!
なんの情報もなく、ダンジョン探してうろつけるようなステータスちゃうっちゅうねん!!
下手したらワンエンカウントで死ねますからね!!
なのでダンジョンの情報と周辺情報は絶対必要。
安心安全に爆破して裏から宝をGETせねばならないのだからな!!
そんなわけで高級地図GETー!
世界(?)地図はもう持ってるので、グラシアス・フォートとフォート・ラグダのそれを合わせて計3枚。結構な地図持ちさんです、はい!
「ところで新人さんは、なにかクエストはやらないのかにゃ? 今ならこのあたりとかオススメ──」
おお~っと来た、
ギルドの営業トーク。
この手のお勧めは、当然、オススメじゃないやつです。
グラシアス・フォートでのマイトさんは雑魚認定が酷かったので、そも誰もクエストを勧めることはなかったが、冒険者なりたての頃は結構あったものだ。
その時の失敗で、ある程度学びましたよ。
こうやって特に仲良くもない冒険者相手のお勧めは、オススメというか、不人気というか、……実のところ塩漬けになりかけのクエストを押し付ける
なのはここは華麗にスルー。
もちろん、角が立つような言い方はしない──……もしかすると、いつかこの受付さんとも仲良くなって、本当のお勧めクエストを貰えることもあるかもしれないのだ。
受付嬢と喧嘩したり関係性が悪くなってもいいことはない。
なので、
ここはこれとして────。
「あはは、ありがたい申し出なんですが──」
ここで、マイトさんの必殺をお披露目する。
そう。
営業撃退、絶対奥義────!!
……チラリ。
「あ、あー……。あはは、にゃ、悪かったにゃ」
「いえいえ、そのウチお受けしますので──」
「にゃはは、無理はしないでほしいにゃ、それでは、掲示板のほうにあるので、行けそうなのを見繕ってくれにゃ──(ないだろうけどにゃ)」
……ぐっ。
受付嬢の余計な小声と、乾いた笑顔がささるぜ──……え? なにを見せたかった?
決まってるでしょ!
営業撃退絶対奥義こと──この木でできたやっすい冒険者認識票ですよ!!
見たまいこのEランクの証をな──……!
これも見ればみんな納得、雑魚認定。こうして、しつこい営業も今後くることはなくなるのだ──はっはっは!……泣いていい?
「しょんぼり」
自分で言って、自分でかなりのダメージを負ったマイトさんは、受付嬢が言うままに、一応掲示板をチラ見するのだが、なるほど、結構な高レベルのそれしか残ってない。
この街にも新人は知るのだろうけど、そういった新人向けの依頼は結局のところグラシアスフォートのそれと同じ様なものばかりだ。
「薬草とり」に「ドブ掃除」──……はいはい、無理です無理です。
無しですナシ! 雑魚なのでEランクのクエストでも死んじゃいます!! はい!
「──……が、しかし!」
ギルドから出るなり、マイトさんは買ったばかりの地図を握りしめ、熱く叫ぶ!
そう、これで良かったのだ。
なにせマイトさんの目当てはダンジョン。
さらにいうなればダンジョンの裏の出口だ!
そして、地図を確認しながらこれから狙い目のダンジョンを探るのだ!
はっはっは、勝ちの方程式とはこのことよ!
ま、具体的には、
街の中にあって、周囲に危険の及ばない場所!! あと、郊外はNG! 魔物が沸くような地下系もNG!!
それらを踏まえて、
フンすと鼻息荒くして、まずは宿を探してそこで検討だ──。
そうつぶやくマイトは宿を探して街を行く。
……のだが────。
「やーれやれにゃ、ほんと金持ちボンボンの新人は
マイトが去った後の冒険者ギルドで、カウンターの上で頬杖をついた受付嬢メリザはため息をつくのだった。
だってそうでしょ?
初めて来たギルドで、雑魚だと自分で証明しつつ──大金を持っていることを
それも、初見でいきなりギルドで一番鷹地図を買う……?
「バーカにゃ、まぁ、洗礼は早めに受けた方がいいんだどけにゃー」
忠告しても良かったが、いきなり地図を買った時点ももうアウト。
すでにギルド内でたむろしている柄の悪い連中が、キラリと目を光らせていたことをメリザは気づいていた。
ただまぁ、出来ることもはやは無事を祈るのみ。
だってこうなったらもうどうしようもない──。
彼らに事前に釘を刺したところですっとぼけるだろうし、あるいは釘を刺されなかった別の奴が同じことをするだけ。
マイトに警告したとて、今から元の街に逃げ帰りでもしない限り……いや、逃げても追われて、どうしよもないな。
なので、すでに詰んでいるのだ。
警告しても、この街に入った時点で長年この街を根城にしている柄の悪い冒険者から逃れる
なので、あとは本当に祈るだけ────せめて命はとられないといいにゃーと、そんな風に同情して、少しオセンチな気分になるが、
「しゃーがな~いにゃ、一応、手を──」
「うーっす、クエスト紹介おなしゃーす」
「──……はーい、にゃ。ちょっとまってくださいにゃー」
すぐに別の客がやってきて、そっちに意識を取られたところで、もう頭から抜け落ちていた。
だって、割と日常茶飯事──。馬鹿な新人はドンドン淘汰されるのだ。
なにせここは始まりの街と言われるぬる~~~~~い『グラシアス・フォート』と違って生き馬の目を抜く冒険者や傭兵が集う街「フォート・ラグダ」だ。
……否、違うな。
ぶっちゃけ、グラシアス・フォート以外はどこもこんな感じ。あの町がある意味異常なのだ。召喚者なる連中が多数いるがために多少はそいつらの常識にひっぱられているとかなんとか……。
そんなわけで
まさかまさか、グラシアス・フォートの外の世界があそこ以上の修羅の世界とも知らず、のんきに宿を探して歩いておりましたとさ。
さてさて……。
どうなることやら────。
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