第15話「軌道修正」
『なんぞあったらこっちから連絡するからのー。あ、魔塔LINEはいつでも繋いどくゆえ、気になったら連絡せい──じゃーの~』
ぽちっ。
「かっる……!」
え? なに?
ギャル??
令和のギャルってこんな感じ?!
つーか、アイツ令和どころじゃねーわ!
昭和通り越して、元亀と文禄とかそいう言うレベルでしょ!……知らんけど。
「はぁ……。ま、ひとまずなんとかなったか」
(注:なってはいない)
一夜明けてようやく頭の整理のおいついたマイトは、連絡をみていた例のスマホ(?)の画面をオフにして、苦笑する。
……やっべぇ場面を見られてしまったので、埋めるしかないところであったが、『魔塔主』が意外ににも話せる奴で助かった──。
おまけに主任研究員扱いとかで、トーダイ級の研究機関に席まで用意してもいいという。
……まぁ、とはいえ、実際のところよくわからん組織なので、即答は避けた。今のところ保留──東大クラスなのは魅力だけどね!!
なんでもかんで信用してホイホイついていくのは愚の骨頂ですよ。
行ったら多分、向こうのホームグラウンドだろうし、マイトの色々をどう糾弾されるかわかったもんじゃない。
なんだかんだであの子に色々やらかした気がするし……。
ドカーンとか、脱がし脱がしとか、くんくんとか──うん、ヤバいわ。
それにあそこ、銃とか作ってたり、異世界人(?)──つまりマイトたち召喚者についても調べていたりと何かと後ろ暗そうな組織だ。
実際、これまでにもそう言った組織がなかったわけでもないが、一部の召喚者はやたらと強いからね……下手なことをすると手痛い反撃をくらうので、ヤバメの組織は早々に姿を消すか地下に潜り、今はそこそこ友好的な組織だけが残った。
ま、要するにギルドとか国のことだ。
そんな国やギルドも厚遇してくれるかというとそうでもなく。
なにせ昔から召喚者はいたものだから、それら全てを厚遇していたは国が傾くと言うことで、実力者のみ優遇する施策に切り替えたらしい。
──なので、今はそれ以外の召喚者は、しばらくは衣食住の面倒をみるという程度に収まっている。
そして、「しばらく」を過ぎた後はマイトのように、ポーイと外の世界へと捨てられるのがおちという。ま、普通はそれまでになんとか身の振りを考えるものだ。
スキルを有効活用したり、知識を活用したりでね。
そんでマイトは何もできなかった。
……努力不足とか言わないでくれよ!! しゃーないじゃん!! 『葉っぱ』だと思ってたんだし、そもそも、一般の学生程度が持ってる知識なんぞ、大して役に立たないんだよ!!
というわけで──晴れて今のマイトがいるわけだが、これからのマイトさんは違うぞ!!
スキルの有効活用の仕方もわかったし、
そして、それを使っての金策も概ね成功──なんだかんだで人の縁もできた。ま、こっちはまだまだ手探りだけどね──。
「……それにしても、アイツしれっと衝撃的なこと言いやがったなー」
色々話したうちの一つに結構衝撃的なことがあった。
それをスマホでの会話とともに思い出すマイト。
たしか、召喚されたときは神(?)みたいなやつに、この世界の危機を救ってくれ──みたいに漠然としたことを言われたのだが、実際に危機らしい危機についてはその時は言及されなかった。
何人かが質問していたのを、ぼんやりとあの時に記憶にあるが結局何だったのか──聞いたものもわからなかったのだろう。
結局、そのまま召喚されてしまい、100人の地球人は否応なしにこの世界に放り出された。始まりの町──フォート・ラグダに。
その後は、
そこの為政者や、各国の菅家者が集まって──……なんやかんやと今に至る。
今思えば、あれは召喚者の吟味──否、選別だったんだろうな。
使えるやつ、使えない奴を初見で見極める。
そして、保留の奴はしばらく泳がせる──ってことだろう。
あとは、適当に歓迎して躍らせれば、異世界出身の先兵の出来上がりだ。
その後は適当に、世界の脅威たる魔王を倒してくれとかなんとか都合のいい情報を流して操れば、労せずチート級のスキルを持った戦士が手にはいるという寸法か。
実際、それが元の世界に帰る手掛かりと思って初期成功組の「聖剣」君とか『賢者』に『竜使い』の諸氏は、鍛えに鍛えて使える仲間(?)とともに旅立っていったのだ。
それがいつだったかはもうわからない──ここに彼らが来ることも、もうない。
曰く、
魔王と呼ばれる存在はいるにはいるらしいが、そんな世界を滅ぼすだなんて大袈裟な──とケラケラ笑われた。
そも、魔王というのは魔物の王であって、本来は領地に引きこもっている種族なのだとか。
まぁ、経済とか食料危機の度に、略奪のために人間の文化圏に侵入することもあるが、実際のところ、都度撃退されるか、ある程度荒らした後は領地に撤退していったのだという。
つまり、厄介は厄介なのだが──。
彼女に言われせれば、(回想……)
『世界を滅ぼすほどの魔物なんぞおるか。たしかに、強力な魔物の軍勢は持っておるようじゃが、それだけで世界征服は無理じゃろ? お主らふうに言うところの「キタチョーセン」と「クメールルージュ」とかそういうのじゃよ』
──と、こともなげに言う。
うん、なんとなくわかる。
『クメールルージュ』は知らんけど、『キタチョーセン』はうん、なるほど、な、と。
他にも根拠はあるらしく、
『──まー。強力な魔物がいるのは事実じゃ。しかし、その分、補給が持たんのじゃろうな? ドラゴンなんぞも組織しておるが、
うん。
それも納得。
つーか、ドラゴンなんて、ドデカイ戦車みたいなもんだわな。そんなんで相手の懐まで攻めてきたら、そらー補給がもたんわ。
……なにより『魔塔主』のいうように、魔王に征服されたから滅びるのか(?)だが──否だ。
そんなの人間の王様から魔物の王にただ為政者が変わっただけのこと。
そりゃ、人の世が終わるかもしれないが──そうだとして、世界が終わるまでは言い過ぎではないだろうか?
なにより、あくまで可能性ではあるが、魔王とて人を完全に虐殺するだろうか?
……多分、ある程度の裁量の元奴隷か食料として何かとして活用しようとするだろう。
なにせ、なんだかんだで人間社会は高度に発展しており、農業、漁業では魔族のそれを遥かに凌駕している。
……世界征服とはつまり、世界の経営だ。
そこに魔王の配下がはびこるとしても、人間の技術力と労働力は魅力的だろう──。最悪働きアリとして生かされる可能性があるとみて言いのではないだろうか。
また、仮に虐殺しきったとして、それはそれで、世界は魔王にとって代わられただけ。滅びたのは人間で、世界ではない。
世界=人間だなんて
……とすると、あの『神』は一体なにを目的にしているのだろうか?
魔塔主曰く、昔から何人も何百人も送り込まれていると────。
それを不躾に聞くや否や、スマホ越しに笑い飛ばす魔塔主。
『それを調べるのが魔塔の最終目標よ。ま、世界のありようじゃな──その意味ではお主らは異物よ。カーッカッカッカ!』
異物、か……。
それはそうだろう。
この世界に元々ないもの。
そして、技術と概念をもたらす者──。いっそ、それが神(?)の目的なのでは? と。
『だとすると、終わりがないのー?……お主らが帰る
わからん。
わからないことしかないが────。
『そう言う身では、お主のそのスキル。異常なんじゃよ。ダンジョンが破壊できるということはこれまでに見ても聞いても一度もなかった。そもダンジョン自体が異物なのじゃよ。物理法則を無視しか不壊の構造物──同時に質量すら無視した産物に生物。おかしいと思わんか? ダンジョンは無限の資源で無限の存在じゃ。仮にそうじゃな──ダンジョンで算出される金貨。あれが再現なく、市場に溢れてみぃ、どうなる?』
スマホ越しの音声にハタと考えこむマイト。
金貨の氾濫──それはおそらく、経済が破壊されることを意味する。
いや、破壊まではいかなくとも、
しかし、
『ま、そうなっておらんのは、内部の魔物の存在じゃが──あれもあれでおかしなもんよ。ダンジョンから出ることもなく、ダンジョンある限り無限に出現する──端的にいっていかれておるよ。それこそが神のなす技じゃろう手──なに、神を信じると言うより不可解な現象を『神』と定義付けておるだけよ』
たしかに、人はわからないものを心霊や神に置き換える。
なるほど──ダンジョンは神、か。そしれ、マイトはそれを破壊した。
……え? もしかして、マイトさん、凄い?!
『凄いん……じゃろうな──。正直、驚いたぞ? あの塔が崩れるところも見たしのー。ま、どうもすぐに復旧してしまったようじゃがの。しかし、不可解なことに一歩踏み込む現象がみれた、これは大きい──。実際、何がどう繋がるかはわからんが、心理や真実は、時に何でもない現象から発見できる──ほら、『りんごでばんゆういんりょくをみつけた』とか?』
以上までがスマホ越しに
そう語った魔塔主の言葉がマイトの頭にリフレインしていく。
つまり、彼女はマイトに好きに生きろという。
その支援もたまにはしてくれるらしい──もっとも、研究員になるのも歓迎らしいので、要するに召喚者の観察には自主性こそが大事なんだとさ。
だから、彼女はマイトを自由にしたし──その生き方を、興味深いと言ったのだろう。多分、本音で言えば飼い殺しにしたいようだが、それでは真実に至れないらしい。
まぁ、
「ま、アイツが何を考えてるかなんてどうでもいいさ」
それよりも、マイトはこんなわけのわからない世界で死にたくない。
そのために利用できるなら、魔塔主だろうが、なんだろうが使わせてもらうまで。
そして、かなうならば──帰りたい。あの元の世界へ──……倫理観と常識の通じる世界へ。
「そのためにはまず──……」
ぶうん……!
※ ※ ※
L v:1
名 前:マイト
職 業:冒険者
スキル:発破Lv1
取得済:Lv1「壁面発破」
●マイトの能力値
体 力: 11
筋 力: 20
防御力: 14
魔 力: 33
敏 捷: 15
抵抗力: 9
残ステータスポイント「+0」
※ ※ ※
「やっぱ、レベルだよなー……」
がっくし。
ステータス画面に躍る数字を眺めてため息をつくマイト。
いや、なによ。この雑魚な数値は!!
神がどうのこうの以前の問題です。はい。
そも、神とかどうでもいいです。
今度会ったらぶん殴りたいだけです。……どうでもよくはないな、うん。
とりあえず、次に進もう。
長くこの街に停滞していたけど、マイトにもわずかに運が向いてきた。
……銃もスマホ(?)も手に入った。
ゴソッっと懐を漁ると、鞘に無理矢理突っ込んだ「M1851(通称:コルトネイビー)」が指に当たる。モンスター相手にどこまで試せるか未知数だが、護身用には抜群の効果だろう。
そして、ダンジョンの壁という近接装備も手に入った。
ぶぅぅん……。
『目標──「ダンジョン壁」厚さ4000mm、使用魔力40』
……………発破しますか? Y/N
うん。
この爆破一歩手前の壁の破片が、マイトの新しい近接武器だ。
まぁ、破片といいつつ木の棒──というか竹竿の形をしたダンジョン壁。
これ自体がめっちゃくちゃ硬いので、ぶっちゃけ無敵です。……とはいえ、壊れないだけで、筋力20でどれくらいダメージを与えられるか知らんけどね。
「とりあえず、これだけあればなんとか、護身くらいはできるか?」
いくらなんでもスライムに負けているようでは話にならない。
もっとも、街にいる限りマイトのスキルは護身の必要があまりないんだけどね。
なにせ、ダンジョンの近くに
「あ、マナポーションの激マズさだけはリスクか……!」
くぅぅ、あれだけは二度と飲みたくない!!
けど、この街周辺のDランクのダンジョンですら魔力必要量20~50程度必要。
これから向かう魔法装備(小)が出るようなダンジョンは最低でもD~C……。つまり、必要魔力量は少なく見積もっても「50」以上だろう。
つまり、全快状態のマイトさんで、最低マナポーション二本が必要──。
「……だけど、背に腹はかえられない、か」
まずいくらい我慢しなければならない。
せっかくスキルの使い方が分かったのだ、このチャンスを逃す手はない。
なに、ミスリルか魔法装備を手に入れるまでのつなぎだと思おう。
そして、その装備を手に入れてレベルをあげれば、晴れて低ステータスともおさらば。
無理にマナポーションを飲まなくても、魔力は足りるだろう。
「よし! 準備OK!」
というわけで、鍛える道一直線。
もらった鉄砲で、スライムとかゴブリン倒してもいいんだけどね……。
ただ、下手に銃なんか使ってるの他の召喚者どもに見られたら何を言われるやら。
ゲンキ君アタリなら、お前の物は俺の物──してきそう。
うん、これはやはり極力使わない方向で行こう。
具体的には、ヤバい時とか──バレない時に、ズドンっ! とね────!!
ズドーン!!
……それから数時間後──。
マイトはこの街最後の探索として、『牙ある獣の巣』を破壊し、ギルド憲兵隊が集まる前にあとにしたのだった。
この街最後のダンジョン収め。
検証も兼ねていたが、やはり宝箱の中身は復活していた。
金貨5枚、
ハイポーション×1、
赤の魔石(中)×1………………………GETだぜー!!
いぇーい♪
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