第14話「魔塔の目的」

「──目的か。ふむ……」

 言っておいて、ふむむと考え込む少女──。

 そして、


「……なんじゃったかな?」


 ズルー!!


「いったたた……お、思わずズッコケちまったじゃねーかよ」

「『ショーワ』っぽいのー」


 うっせーよ!! こちとら平成生まれの令和っ子だよ!

 ……つーか、言ったのそっちやん!! なんかあるんちゃうんかい、崇高な目的が──!!


「まぁまぁ、そう言うな──ワシとて、改めて問われるともう少しこう……──ななんか、かっこいい答えを言いたくなるじゃろ?」

「いや、知らんけど──」


 なんだよ、かっこいいとか、

 なんかあるんじゃなったのかよ、崇高で明確な目的がよー。


「……ふーむ。そうじゃのー。大昔にあったような気もするが──今となってはのー。そうさな、敢えて言うならさっきも言うたように知的好奇心を満たいしたいと言ったところか? なにせこう長く生きておると刺激がなくてのー」

「お婆ちゃんか!」


 あ、お婆ちゃんだったわ!


「くぉら! レぃディ~の年齢を詮索するなというておるに。まったく……」


 こほんっ。


「じゃが、まぁ……お主に興味があるのは本当じゃぞ?──なにせ、これまでにダンジョンを一部とはいえ破壊したのは長い歴史を遡ったとて、お主が初めてじゃろうな」

「え? そうなん?」

「うむ。ワシの知る限りはな──。なーに、ワシとて、全知全能ではない、知らんこともある。いや知らんことの方がはるかに多い──じゃが、」


 少女はそこでいったん言葉をきると再びマイトをジロジロと見つめる。


「うむ……。ダンジョンを破壊したからといってなにがあるわけじゃないが、あり得なかった事象がおこったのじゃ──それに興味を持つのは当然じゃろ? ま、ワシが知らんだけで、これまでも異世界人ならば、あるいは可能だったのかものー。なに、『すきる』は使い様じゃ──これまでにもそう言った可能性を持ったスキルがあったとも十分に考えられる」


 ……まぁそうだろうな。

 いくら何でもマイトの『発破』だけが手段ではあるまい。


「そしてのー。そんなことを可能たらしめるお主に興味をもった。異世界人は最近では珍しくもないが、お主は違う──ダンジョンを破壊可能な異世界人じゃ。当然観察もしたくなろう?」

「そんなもんか? とはいえ、ダンジョンを破壊したからって──言ってみればそれだけだぞ?」


 別に元の世界に戻れたわけでもないし、

 ダンジョン自体が消えてなくなったわけでもない──敢えて言うなら出口から直通できるようになっただけ……攻略の苦労はないが、入口から入ってクリアすることもできるので、絶対に必要かというとそうでもないと思う。


「ノンノンノン! それは一面的な見方しかしておらん──お主、あのダンジョンは何じゃと思う?」

「へ? ダンジョン?」


 何だって言われても──ダンジョンはダンジョンだろ?


 まぁ……。発破以外では、破壊不可能で──中には無限とも思える魔物の再生と物資に溢れた異世界。


 ……異世界? 異世界──。


「別の……次元──?」

「おーよ。概ねそれであっておると思う。まぁ、ゆーて、入口は開いとるし、出口もある。異世界というもは少々ぞくすぎるな」

「その俗な世界に連れ去られたんだけどなー、あの神さまっぽいのに──」


 ……あ。


「もしかして、ダンジョンってあの神が関係してる?!」

「かっかっか。なかなかいい着眼点よの──。まぁ、お主のいうあの・・神というのが本当に関係しとるかはわからんが、まったく無関係ではあるまい」


 なるほど……。

 ダンジョンとは、すなわちこの世界と地続きの異世界・・・・・・・か──。


 たしかに、無限の生物と無限の物資──そして、まったく異なる空間は、ある意味、元の世界がそれにあたるか。


「……いや、だけど、ダンジョンと俺たちのいた世界は全然違うぞ?」

「そりゃ、ワシもそんなことは言っとらんしのー。そうではなくて──その在り方よ。考えてもみぃ……お主も凄いと思わんか? あの破壊不可能はことはもちろんそうだが、世界に異質な空間を固定する能力ちからと技術じゃぞ? 一体どうやっとるのか、そりゃー興味は持つじゃろ」


 むむ。

 コイツちっこいくせに、中々凄いこと考えてるな──とすると、なにか?

 マイトのスキルは、その異質な空間に打撃を与えた──??

 いや、でもすぐに元に戻るしな。


「ちっこいのは関係なかろう!──ったく。ま、関係してるというのも、異世界だというのも、ワシの仮説よ。実際にその神とやらをみたわけでもないしの──じゃが、大いに興味があるのー。どういう存在か知らんが、遥か昔から存在し、お主ら異世界人を連れてきたんじゃぞ? 是非ともみてみたいのーその『神』やら『転生神』やらというものに、な」


 つまり、神のことが知りたい? と──。


「それって、教会の範疇じゃ?」

「アーホぉ。聖書だの伝説だの、小説とSFをありがたがっとる連中に興味なんぞあるか」


 わーお、小説とは言うねー。

 まぁ、つまるところ独自のアプローチで神を知りたいってことかな? 出来るか知らんけど──。


「だいぶ違うが、ま、間違ってはおらんのー」

「なるほどなー。……だけど、そう言うことならお勧めはしーねぞ。アイツ・・・ろくでもねーし」

「そのようじゃな。かつて召喚者と旅をしたこともあるゆえ、聞き及んでおる」


 えー、なにそれ。

 楽しそう。エルフと旅とかあこがれるじゃん────こんなチビは御免だけど、


「聞こえとるぞー」

「おっと」


 ふんっ。


「まぁええ。とにかくワシの目的はお主そのものよ。じゃから、旅の過程か──お主の目的を果たす過程で破壊することになるであろうダンジョンの情報をくれればそれでよいぞ。珍しいものや、とくにダンジョンの破片のようなものを拾ってくれば買い取ってやっても良い」

「え? マジ?! でもダンジョンの壁って、消えるんだろ?」


 少女の話では、マイトが爆破したであろうダンジョンの一部は、しばらくは原型を保っていたそうだが、徐々に魔力が希薄になり──いつの間にか消えてしまったと言う。


 そんなものを欲しがる理由わからない。


「ふん。そりゃー、やり方次第じゃ。……消える過程も研究になるしの。それに、ダンジョンの破片じゃぞ? 初めて触るものじゃし、リスクは承知よ。そもそも、この世のものざる存在を欲しがるのがそんなに不思議かのー?」

「いやそういうわけじゃないが、うーむ。まぁ分かった」


 くわしく聞けば、どうやら、ダンジョンそのものに興味があると言うことらしい。

 いずれは、再現ないし解析がしたという──それにはその物資を破壊できるマイト能力が魅力的だとも。


 もっともスキルは譲渡できるものでもないので、現状、マイトしかダンジョンは破壊できない。

 だから、少女はマイトと協力関係を結びたいのだ。


 少女曰く、

 ダンジョンは、その性質上、この世界の構成物ではないと──つまり、なんらかの『現象』ではないかと推測。

 それこそ、水や空気が手で壊せないように、あるいは火を物理的に消すことはできても、壊せないように──もっと言えば、愛や恋、憎しみのように、手で破壊できな概念・・のようなものではないかと──。


 マイトにとってわかるようなかわらないような……。


「カッカッカ。構わん構わん──理解をもとめとるわけじゃないわい。まぁ知的好奇心溢れる美少女が興味をもっとるー、それでええじゃろ?」

「……んー。まぁ、わかった。じゃー珍しいものというか、ダンジョン関連での報告することがあれば電話すりゃええんじゃな? あと、自分でいうなし?」


 美少女……っていうか、今の小汚い恰好だと、美の少ない少女だからな? 冗談とかでなくて。


「メールでもええぞー。チャット欄つくるか?」

「友達か!」


 ったく、まぁいいか。

 色々あって亡き者にするよりかは遥かにいい──……それに、頭がかなり良さそうだし、何か困ったときには相談に乗ってくれそうだ。


「冗談じゃ。じっさい、そうホイホイ連絡されれも困るがの──こう見えて結構忙しんじゃよ」

「わぁーってるよ」


 かっかっか。


「なーに、毎日でなければ構わんよ。暇なときにメールくらい返信してやるわい」

「だから友達かっつーの!」


 毎日連絡とかヤンデレかよ。

 そんなしょっちゅ連絡する気ないわ。


「ん──ではの、そろそろ連れが気をんでおる頃合いじゃて、行くとするかの」

「連れいたのか?……あ、そーだ」


 ついでに聞いとくか──あんまし期待はできないけど、なんか詳しそうだし──。


「なんじゃ? 番号教えてくれとか言うんじゃないぞーうひひひ」

「いやもう聞いたし──メールにしとく」

「なんでじゃー! せっかく『てれびでんわ』機能も付けといたんじゃぞ! ワシにぷりちーなお顔を見て話ししたいと──」

「ちょ、長くなるから、いいって。──それより、欲しいものがあるんだけどさ」

「む? ほしいものとな──欲しいもの、欲しいもの──……はっ、まさか」


 びくぅ!!


「ワシの貞、」

「いらんいらん、そんなもん。そうじゃなくて──魔法装備だよ。ミスリルとかでもいいんだけど」


 こんな、目つきに悪いロリババアいるかよ!

 まぁ可愛くないわけじゃないけど──うん、いらん。


「むー、ちょっとは考慮してくれてもいいんじゃないのかのー? こう、長年大事にしてきたものをじゃな」

「そんなもん、昨日今日あったばかりに異世界人にやるなよ──そうじゃなくて、攻撃力の足しになるもんが欲しいんだ。お前なら色々持ってるだろ? なんか凄いのをさ。……た、タダとは言わないから」


 まぁ、お金あんましないけど──。


「ほーん? 攻撃力とな? それで魔法装備────……あ。もしやお主、」

「察しの通り、雑魚だよ。……筋力値が低すぎて、普通の装備がとてもじゃないが持てないんだ」


 かろうじて木の棒まで──……小学生のガキ大将か!!


「なーるほどのー。それ・・で、魔法装備にミスリルか。ふむふむ」

「なにがそれ・・でか知らんが、あるか? 出来れば装備できる奴がいいんだけど……あと、できれば安いので──ゴニョゴニョ」


 そう。可能なら筋力値20以下のを、だね。


「……ふーむ。あいにくじゃがワシは魔道具の類は使わんでのー。ほとんど自分の魔法でどうにかできるしの」

「そっか……」


 そりゃエルフだもんね。


 自分で使える魔法と同じ効果の物をわざわざもち歩くなんて面倒なことはしないか──そして、ミスリス装備をして戦うタイプにも見えない。

 多分、こう──でっかい魔法でドッカンドッカン! と──。


「……あ。代わりにこれ・・はどうじゃ?」

「これ? これ・・って────」


 ごそごそっ、

 ポーン。


「わーお、ずっしりと重い。……これじゃないですか」

「おーよ。愛用品よ」


 へー。


 確かこういうのは、ハンドガン、いや──リボルバーって奴か?

 初めて本物見たー…………………って、



「──銃ぅぅぅぅううううううううううううううううううううううううう?!」



「……うーわ、うっさいのー。じゃがその様子なら知っとるようじゃの!」

「当たり前だろ!!」


 つーか、

 いやいやいや! あかんあかんあかん!!


「こんなん持ってたらあかんて!! 捕まるて!! えーっと、」


 貰ったスマホで早速『110』と、


 プルルル────。

  『プルルル──』


「はいはい、ワシじゃが──」

「もしもし、ぽりすめーん! なんかプルマ履いた女児がピストル片手に……って。お前に繋がんのかーい!!」


 ブルシット!!

 そう言えばこれ作ったのコイツだったわ!!


「かっかっか。ワシとお主の直通よ──何番押しても繋がるぞー」


 たしかに、本人曰くぷりちーな顔・・・・・・が目の前と画面越しにあって、どっちもヒラヒラ手を振ってる。


「って、そうじゃねーよ!! なんだよこれ・・ぇぇえええ!」


 これぇ!

 そう、この「銃」ぅぅうう!!


「なんじゃ? いらんのか? 攻撃力が欲しいとい言ったのはお主じゃし──」

「──いや、言ったよ!! 攻撃力欲しいって言ったよ!!」


 言ったけど、予想外すぎんでしょ!!

 なんで、このファンタジーな世界で、エルフ少女から『リボルバー』貰うんだよ!! 世界観考えろや!!


「……そんなにギャーギャー言うほどのもんか『すまほ』のほうが凄かろう」

「そうだけどー」


 銃刀法違反とかー。

 凶器準備罪とか──……あと、えーっとえーっと。


「なんか、こう──憲法とか条例とかあるだろ?」

「ここにそんな法律あるわけなかろう……ったく、そもそもこういった技術を持ち込んだのはお主ら異世界人ぞ?」


「むぐ……」


 ま、まぁ、そうなんだろうな。

 どう見てもここはファンタジー世界。その剣と魔法の世界でこんなもんが脈絡もなく出てくるのが異常なのだ。


「言ったじゃろ。ワシは知的好奇心を満たしたいとな。なので、お主らの持ち込んだ技術──知識はひととり再現できるかやってみた」

「な!!」


 さ、再現?!


「おーよ。やったぞー色々な。……結果、出来るもんとできないもんがあっての──」

「そ、そりゃそうでしょ! 電気──あ、でも『すまほ』みたいなのもあるのか……」


 いや、でもビックリ。

 この少女──『魔塔主』、ただものじゃない。


「さよう。たしかに電気は難モノじゃ──しかし、それが絶対とも限らん」

「へ? でも、逸れないと厳しくない? 絶対とは言わないけど、俺の世界の物は大抵電気で動くもんばかりだけど?」


 しかし、少女はチッチッチとむかつく感じで指を振る。


「甘い甘い。電気なんぞタダの動力よ──それが別で補えれば電気である必要がない。具体的にはこの世界では魔力とかじゃな──」

「む」


 出たよ、便利ワード魔力。

 だけど、それならなんでもありなんじゃ?


「そうよ、なんでもありぞー。じゃが、まぁ費用対効果が悪すぎるのがの──。ま、ぶっちゃけて言うなら、電気すらも作れんことはないがの。仕組みと知識を持ったものもこの世界に来ておったでな」


 聞けば、少女はかつて異世界に技術を再現しようとした時期があったらしく、

 実際にそのほとんどの再現に成功していたと言う──。電気をはじめ、様々な分野。医療はもとより、『宇宙』に至るまで!


「じゃが、まぁ……そのどれもが必要なかったということよ。……あったとしても維持はまぁ──難しいのぉ」

「そうなんだろうけど……いや、びっくりですわー」


 宇宙とな!?


 イン・ザ・スペーーーーース?!


「かっかっか。どぉってことはない。が──ハッキリ言えば。……ある日、なんか急に熱が冷めての、それいるか・・・・・、となってしもうてなー」

 ずるっ。

「それを言っちゃあおしまいよ」

「じゃが、それが真理よ……。お主の世界ではネジ一個作るのは大したことあるまい。電気で動く工場機械もあるし、それを作る原料すら世界中で採掘集積が出来るからのー。つまり、複雑かつ高度に発展した社会のおかげである程度のことは無茶でもなんでもないのよ」


 しかし、


「一方、この世界でその無茶をしようとしたらどうなる? できんことはないぞ──資源もある、人もおる。ドワーフのケツを叩けば、連中は鉄を削り、寸分たがわぬものをつくりおる────じゃが、それまでじゃ」


 それほどの労力をかけて、ネジ一本、ガラス一張りまで同じすればそりゃあ、宇宙船だって作れる。

 電気の必要なところは魔力で補い、なんとかはなる──そう、なんとかはね。


「で、じゃ。ある日、技術を再現しようとして、ふと、な。……そう、ふと。他に者も薄々と感じておったが──本当にふと、じゃ。……ふと、気づいてしまったのじゃよ」



   これいるか・・・・・



 とな。


「……身も蓋もねぇ」

「じゃが、そう言うもんよ。人の生きる目的が食べて寝て、産んで育てるととじゃとしたら──これいるかー? となるのは必然よ。それに人も金もべらぼうに費やしてまでやって、宇宙までいって、星の色・・・がわかったところでのー」


 うーむ。

 ガガーリンさんが泣くぞ?


 つーか、宇宙の技術は星の色を見るのが目的じゃないぞ。

 もっと行けば、こう……GPSとか衛星とか──あるいは、もっといろいろあるはずだ。まぁ、マイトだって、たちまちそれが何の役に立つか言われても困るけど。


 ……実際、なくてもこうしてなんとか今も生きているし──。


「そんなこんなで、ある日を境に、必要ないものはあっという間に淘汰されてしもうたわ!──スポンサーもいなくなってしまってのー、カッカッカ」

「うーむ、世知辛いね。……で、残ったのがコレか」


 ずっしり。

 黒光りする鉄の固まり。


「そうなるのー」

「そうなるったって……。ま、ありがとー……。武器には違いないしな。つーか、お前は魔法使わないのかよ」

 エルフが銃って。

「馬鹿もん、かよわい女児じゃぞ? 銃なんてもんは、女子供がもって初めて意味がある──剣と腰を振るのは男の仕事じゃ」


 ヤな言い方するなよ。

 つーか、本当にいいのか、これ?


「……ん。ま、別にええじゃろ? 好きに使うがええ。道中壊れても気にするな──いくらでもなんとでもなる。最悪、どうにもならん時はモノ好きのドワーフにでもみせろ、喜んで治しよるわ」

 マジかよ。

 ドワーフすげぇな。

「わ、わかった、ありがたく貰っとく──……」



  ファファ~ン♪

   『 エルフの少女から銃「M1851」をてにいれた♪ 』



 って、

「字面、すごっ!!」

「かっかっか! 中々シュールじゃのー。その通りソイツはお主に世界で言う所の、りぼるばーM1851『コルトネィビィ』じゃ」


 いやいや、

 M1851「こるとねいびー」じゃ。とか言われてもね──マイトさん知らんし。


 つーか、今更ながら銃一式を突然渡されてマイトびっくり。

 そして、銃もそうだけど、どこから出してるんだよ!!


「む? どこからって──そりゃあれじゃよ、空間の魔法の一種じゃな。ほれ、容量はそれほどでもないが、別空間にアイテムを仕舞える優れものよー」

「そんなのあるのか……!」


 そっちくれよ!!


 召喚者もアイテムボックス的なものを欲しがっていたが、今のところなし。

 スキルでそれらしいものを持っている者はいるようだが、本人が内緒にしているのかよくわからない──。


「おーよ、苦労したぞ──くれと言われてやれるもんではないわい。それに、普通はアイテムに魔法陣をほどこし使うのじゃがな。ワシほどの使い手になると、これ──こうして・・・・体に刻めるのよ」


 ペロン。


ひらった!」

 ごんっ!

「なぐるぞ!!」

「なぐってるじゃん!」


 痛っ……く、なかったけどさ!

 つーか、見せたのそっちでしょ!?


「あっほう、誰がそっちを見ろ言うた! そうでなくてほれ、この魔法は平面に「わーむほーる」のようなものを作る魔法での、普通は鏡や刀身、金属の板や大理石などに刻むもんじゃが、ワシなら身体にも刻むことができる。多少の凹凸なら魔法計算でなんのそのじゃ────って、なんじゃその顔」

「いや、平面…………ん。なんでもない」


 マイトさん、なんも言わない──。

 我慢できる、いい子になれる。


「む?……まぁよいが────って、誰が絶壁まな板かぁぁぁああああああああああ!!」

「いや、そこまで言うてないから!! いたいいたい!!……いたくないけど、ぽかぽかするな!!」


 つーか、よっわ!!

 この子よっわ!!


 マイトさんの防御抜けないとか、よっわぁぁぁぁああ!!


「はぁはぁ、うっさいわ!! この体じゃ、しょうがないじゃろ──その代わり魔法はすごいぞー」

「あーはいはい。それで銃だけど」


 つーか、脱いだら凄いみたいに言うなし。


「うぉぉおい! なんか軽いのー。ワシ偉いんじゃけどなー。くそー」

「はいはい、で──銃は作ったのか、これ?」


 だとしたら、凄くね?!


なーに言っとる……こんなもん、ただお鉄と木のおもちゃじゃろうて。さほど難しい技術でもないし、電気も必要ないしのぉ。……お主はどう思っとるが知らんが、銃は作ろうと思えばこの世界でも作れる工業製品じゃぞ?」


 そう言って簡単に解体して見せると、なるほど──数個パーツに分かれたそれは確かにただの鉄と木だ。


 ひーふーみー……。

 簡単にばらして、およそ10~15個ほどのパーツ??


「すっげ……。たったこれだけのパーツなのか」

「おーよ、簡単なもんじゃろ?──ま、そうはいっても、お主らの世界の物とこれ・・は見た目は同じだが全く違うモノよ」

「へ?」


 つまりのー、と続ける魔塔主。

 どうやら、彼女曰く、鉄ひとつをとっても、この世界の技術でつくる鉄と、マイトたちの世界で作った者では根本的に異なると言うのだ。


「じゃ、使えないんじゃ──」

「じゃが!!」


 ノンノンと指を振って少女は笑う。


「同じようなものは作れるといったじゃろ? 例えば鉄の強度が違って使い物にならないなら、鉄以上の者に置き換えればいいわけよ」

「ん? つまりどういうことだってばよ?」

「ま、具体的に言うとソイツの重要部分はオリハルコンで作られておる」

「ぶほっ!!」


 うわ、きったないのー。


「オ、オリハルコンて……」

「ふんっ。しょうがあるまいて──つまりのぉ、この世界で作る鉄では強度が足りないんじゃよ。……ならば、鉄に似た性質の鉄以上の強度の物・・・・・・・・を使えばいいとそういうことじゃ──「しりんだー」とか「げきてつ」とかじゃな──」


 うーわ、つまりこれオリハルコン製の銃かよ。

 だけど、納得──。


 たしかに、銃はある意味で再現可能なものだ。

 鉄と木でつくられた銃は、テレビや冷蔵庫──スマホなどと違って使用時に電気を必要としない、純然たる金属加工品なのだ。


 そりゃ、再現自体は出来るわな。


 ただし、鉄やその他部品の強度は同じように作られない──そういえば、むかし日本でも江戸末期とか西洋の大砲をコピーしようとして、その精錬の過程で苦労したんだっけ。


 ふむふむ、なっとく。

 そして、歴史の授業が初めて生きた気分。日本の教育ってすごいねー。


「ま、そういうわけでソイツをくれてやる。コピー品じゃから、全く同じではないが……お主ら異世界人はなんとなく使い方を知っておろう」

「なんとなくなら」


 撃ったことないから知りませんがね。


「かっかっか! 正直でよい。まー細かいところは今からレクチャーしてやる」


 それから十数分。


 簡単な分解と撃ち方──リロードの方法。それらを組んずほぐれず密着して解説を受ける。

 あ……ちょっといい匂い。洗った介があったぜ──げふんげふん。




「ってところじゃ──簡単じゃろ?」

「おう、せんきゅ」




 ……つーか、違和感スゲー。

 ま、本来銃なんて非力な人間が持ってなんぼだわな。剣とか野蛮です、はい。


パーカッション雷管は多めにくれてやる。火薬もな──弾丸は重いゆえな、少量じゃが──なくなったら現地で調達するがよい、ほれ、弾薬製造器じゃ」


 そういって、雷管パーカッションの入った容れ物と火薬の入った水筒みたいなのを貰う。

 そして、弾薬製造器とかいう、ペンチのお化けみたいなやつ──なにこれ。


「これは、鉛をこう──溶かしての、それを冷ましてからパチンと、ほれ」


 ──実際にやってくれた。

 わーお、鉛ってくさーい。そして火おこすのめんどくさーい。


「贅沢言うな! 火の魔法が使えんなら、簡単なコンロくらい買え──金はくれてやったろう?」

「へいへい」


 ま、鉛の棒くらいなら、その辺でも買えるしね。うん。


「それにしてもすげーな『魔塔』って、雷管とかどーやってんだ? これは作れるのか?」

「んー、作れるだろうが、お勧めはせんぞ? 素人が扱うようなものではない。……なに、ワシらのほうが知識はあるのじゃ、技術的に再現できるものは一通りやっておるよ」


 そういって少女は笑う。

 聞けば──遥か昔からたびたび異世界から人々が呼ばれていたらしいが、その影響で魔塔は知識を蓄積していたらしい。


 ……なんのために?


「そりゃ、色々じゃ。役立つものなら還元するし、危ないものは禁忌とする──もっとも、再現不可能なものが多いがな。「かくみさいる」とか「うちゅうせん」なんかはまー無理じゃな。する意味もないしのー」


 そりゃそうだ。


「うむ。ではまた連絡するゆえ──……それまで達者でな」

「お、おう……」


 それだけ言うと、今度こそなんか上機嫌で帰っていく少女──つーか、どこに帰るんだ?

 なんか助手みたいなのがいるとか言ってたけど────あっ。




「アイツ、服わすれてるぞ?」




 ……例のブルマーと「3-2」の怪しいシャツと帽子。


 う、うーむ、

 こんなもん置いていかれても困るな。


 捨てるわけにもいかんし──かと言って、持ち歩くのもなー。

 万が一、他の召喚者連中に見られでもしたらマイトさん、立ち直れない気がする──。


「っと、そうだ!」


 スマホ!!

 スマホもらってたんだった。


 大事なことを思い出して、スマホを取り出すマイト。

 そして、操作しようとして、ふとブルマーをじっと見つめる。


 うむ……。

 昭和の香り。



「……一応、嗅いどくか」



 せっかくなので──。


  (注:なにがせっかくなのは本人による)


 くんく……。

 ──ガチャ!!


「おう! 忘れとったわすれとった──ワシのふ、く……」

「…………埋めるか」




 ──ちょわぁぁあああああああああああああああ!!!




 再び宿に大声が響きわたり、さすがに宿の親父に起こられたのは言うまでもない。

 


 そして、

「昨夜はお楽しみでしたね──」

「うっせーわ!!」


 ──次の日、宿の親父にチクリと言われたのもやむなし……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る